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現役調教師たちが取り組む「引退馬支援活動」(1)ウェルフェア専門委員会とは?

  • 2020年01月07日(火) 18時00分
第二のストーリー

乗馬体験会で引退馬と触れ合う子供(撮影:佐々木祥恵)


より多くの引退馬に幸せな余生を


 一般社団法人日本調教師会の関東本部(美浦トレーニングセンター内)にはウェルフェア専門委員会という組織がある。これは日本調教師会の関東本部が昨年立ち上げた人間と動物(馬)の両方の福祉について取り組む委員会だ。人間の福祉に関しては、例えば怪我をして調教助手や厩務員の仕事を辞めざるを得なくなった人の手助けをする。馬の福祉に関しては引退した競走馬たちが幸せな余生を送れるよう、積極的な「引退馬支援活動」を行うというものだ。

 昨年10月14日に東京競馬場で行われたサンクスホースデイズ in 東京競馬場では、日本調教師会関東本部もブースを出し、ウェルフェア専門委員会のフライヤーが初めてファンに配られた。

 フライヤーには「現役の調教師たち」が中心となって積極的な『引退馬支援活動』をはじめました」と謳われている。

 競馬の世界で取材を続けて20年近く経つが、数年前までは引退した馬の後を追うなという言葉を関係者から幾度となく聞かされ、引退した競走馬の話はいわばタブーであった。それがJRAが引退競走馬支援の検討委員会を設置し、JRAが引退競走馬支援に向けて動き出したことにより、随分風向きが変わってきたと感じる。

 その中で、日本調教師会関東本部がウェルフェア専門委員会を立ち上げ、フライヤーを作成して外に向けて発信したということは、大きな意味があると感じる。これまでタブーとなっていた引退競走馬支援をすると公にしたからだ。

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ウェルフェア専門委員会のフライヤー(撮影:佐々木祥恵)


「JRAの引退競走馬支援の検討委員会に情報を提供するなどJRAの引退競走馬支援の検討委員会に協力したり、引退馬に関して会員(調教師)同士で情報の共有をするというのも活動内容です」と説明するのは、ウェルフェア専門委員会の中心となっている鈴木伸尋調教師だ。

 具体的な内容については、フライヤーには以下のように記されている。

引退馬利活用に関するサポート

(1)ホースセラピー活動、調査等の支援および協力。   
(2)大学等の馬術部、馬術競技大会、乗馬人口底上げ事業への支援と協力。
(3)その他利活用に関する提案。

調教師間の情報共有と発信

競走馬のセカンドキャリア(乗用馬等)、サードキャリア(養老・余生等)を促進するための調教師間の情報共有および発信。

新しい引退馬支援組織へのサポート

引退馬支援のために、今後設立される新しい組織のサポート

障害者支援社会福祉活動

障害者(特に障害を負った厩舎関係者)への支援。
ボランティア活動や社会福祉活動等。


 その他にも、JRAの競走馬登録を抹消された馬の情報の提供や、乗馬人口を底上げするために子供たちの厩舎仕事体験の活動も行っている。今後はさらに活動の幅を広げホースセラピー活動や馬とのふれあいイベントへの協力、養老牧場や乗馬クラブへの人的協力、馬の扱いや調教、及び飼養管理のスキルの提供と協力、引退競走馬の利活用についての提案、障害者の就労支援を行っていく予定とのことだ。

 その活動の1つとして昨年11月16日に行われたのが、廃校となった旧筑波小学校の校庭で行われた乗馬体験会だった。

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旧筑波小学校で行われた乗馬体験会(撮影:佐々木祥恵)


「昨今、騎手、厩務員、調教師になりたいという人が少なくなっています。その中で競馬関係の仕事に就く人を増やしていく一環として、子供たちに馬に興味を持ってもらおうと、JRA美浦トレーニングセンターと共催の形で開催しました」(鈴木調教師)

 体験に参加するのは、旧筑波小学校の地区にある子供会に所属する子供たち。その子供会と旧筑波小学校を利活用しようという会と打ち合わせ等を重ね、乗馬体験会で使う馬を馬運車で運び、現地に慣らす馴致も行った。募ったボランティアとも打ち合わせして、入念に準備をして当日を迎えた。

 乗馬体験会に協力したのは障害者乗馬や乗馬を取り入れた障害者支援(児童発達支援・放課後等デイサービス)を行っている一般社団法人ヒポトピア。そこに所属する1995年のラジオたんぱ賞優勝馬のプレストシンボリ(セン28)とホイホイフェリチタ(牝9)という2頭のサラブレッドが参加した。

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プレストシンボリにまたがり微笑む子供(撮影:佐々木祥恵)


 小柄なポニーではなくサラブレッドを使用したというのも、競馬の世界に興味を持ってもらいたいという狙いの1つであったと思う。ちなみにホイホイフェリチタは、父ディープインパクト、母は2000年の桜花賞(GI)6着、オークス(GI)4着のレディミューズ、祖母が1993年のマイルCS(GI)を含めて重賞6勝のシンコウラブリイという血統で、残念ながら競走馬として走ることはなかったが、今は乗馬として活躍している。

 プレストシンボリは、以前当コラムでも紹介しているが、セラピーホースとしてヒポトピアの小泉弓子さんが絶大なる信頼を寄せている馬だ。明けて28歳と高齢のため、セラピーホースとしての活動は徐々に少なくなっているものの、ここぞという時に登場しては周囲の期待に応えているという。

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プレストシンボリと小泉弓子さん(撮影:佐々木祥恵)


 ホイホイフェリチタは、競走馬としてのトレーニングを受けてないせいか、おっとりとして大人しく、しかもサラブレッドとしてはかなり小柄でセラピーホースとしてはうってつけのサイズと言える。サラブレッドをセラピーホースにするのは難しいと言われるが、それも馬それぞれで、数は少ないもののプレストシンボリやホイホイフェリチタのように実際にセラピーホースとして活動をしている馬もいるのだ。

 昨秋は雨の日が多かったと記憶しているが、見事な秋晴れのもと、11月16日、乗馬体験会は始まったのだった。

(つづく)

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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