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柴田善臣騎手「成績が落ちて目が覚めた」/レジェンド騎手たちの二十歳の頃(3)

  • 2020年01月13日(月) 18時03分
柴田善臣

▲人生を見つめ直すきっかけとなった20歳時。この年は障害戦でも勝利を挙げている(写真提供:JRA)


“成人の日”特別インタビュー。デビューから30年以上経った今でも存在感を放ち続ける3人の“レジェンド”江田照男騎手、蛯名正義騎手、柴田善臣騎手に、自身の二十歳(はたち)の頃を振り返ってもらいながら、新成人へのメッセージも頂戴した。

関東騎手クラブの“会長”や“相談役”などを歴任してきた柴田善臣騎手は今年デビュー36年目の53歳。JRA最年長騎手の“あの頃”とは――。

(取材・文=東京スポーツ・藤井真俊)

今思えば、あの頃の経験は無駄じゃなかったのかも


――善臣さんが二十歳になったのはデビュー2年目で、その年は年間9勝。1年目(12勝)より数字が下がったタイミングでしたね。

柴田 あ〜。あの頃は競馬がつまらなかった思い出があるなぁ…。

――競馬がつまらなかった?

柴田 うん。でも原因は自分だよ。2年目で少し競馬に慣れて、ナメてかかってた部分があったんだと思う。そんな調子だから成績が伸びず、乗り馬も集まらなかったんだ。

――しかし3年目は26勝、4年目は50勝と、その後はグングンと勝ち星が伸びました。

柴田 色々と考えたんだよ。自分は何のためにわざわざ青森から出て、騎手になったんだろうってさ。そこからは行動に移した。まずは乗り鞍を集めるために他の厩舎の調教を手伝った。それから馬のことをちゃんと考えるようになったよね。

 1日、1日の馬の変化を感じたり、それがどう競馬に影響を与えるのかを学んだり…。必ずしも上手くいくことばかりではなかったけど、いい結果が出たりすると楽しかったよ。だから今にして思えば2年目で成績が落ちたことは、必ずしも無駄ではなかったのかもね。

――若い頃に影響を受けたジョッキーはいますか?

柴田 2人だね。まずは当時バンバン乗ってた岡部(幸雄)さん。それから自分の叔父にあたる(柴田)政人さん。対照的な2人だったけどね。

――どのような部分を学んだのですか?

柴田 岡部さんはとにかくフォームがキレイだった。政人さんは勝負に対する強い気持ちだね。

――なるほど。直接アドバイスをもらったりしたんですか?

柴田 いやいや。じっくりと観察したんだ。聞いたって教えてくれる2人じゃないから(苦笑)。でも自分に足りないもの、必要だと思う部分を、一生懸命に見て盗もうとしてたね。

――善臣さんと言えば多趣味として知られていますが、当時から今まで続いてる趣味はありますか?

柴田 まぁ酒好きは当時から一緒(笑)。でもあの頃はただ勢いで飲んでた感じだね。きちんと覚えてからはワインにハマって、今に至ってます。

――車好きでも有名ですが、当時乗っていた車は覚えてますか?

柴田 もちろん! 二十歳の頃はトヨタのMR2って車に乗ってた。先輩の大西(直宏)さんに浦安(千葉県)の中古自動車店に連れていってもらって、その時に買ったんだ。自分にとって2台目の車だったし、よく覚えているよ。

――ちなみにこれまで何台くらいの車を所有されていたんですか?

柴田 正確には覚えてないけど、たぶん40台以上。もちろん全部持ってるわけじゃないよ(笑)。買ったり売ったりしながら、手元にはだいたい2〜3台って感じで。

――あとはネットの記事などでは鷹、釣り、犬、クルージング、ジェットスキー、ゴルフなどが善臣さんの趣味として記されていますが…。

柴田 あ〜。確かにそれぞれハマってた時期もあったけど、今はだいぶ整理した。さすがに全部に手を出す時間はないから…。今はワイン、車以外だと犬だね。愛犬を連れて、キャンピングカーで遊びにいくのが楽しいんだ。

――では善臣さんの最新情報を整理するなら、趣味の欄は「ワイン、車、犬」の3点を記しておけばいいんですね?

柴田 うん。それで間違いない(笑)。

「本当の意味でプロじゃないんですよ、俺は」


――つい脱線したので競馬の話に戻します。35年以上のキャリアがある善臣さんですから、きっと多くの成功や失敗があったと思います。そこから学んだことなどがあれば聞かせてください。

柴田 失敗から学ぶことの方が多いよね。今、パッと思い浮かんだのはホクトヘリオス(善臣騎手とのコンビで重賞3勝)かな。

――どんなことを学んだのですか?

柴田 騎手というのは“俺が、俺が”じゃダメだってこと。言い換えれば馬の気持ちが大切だってことかな。ホクトヘリオスは後ろからいい脚を使うタイプだったんだけど、俺がもっと前につけた方がいいと考えて、無理に先行させようとしたことがあったんだ。しかし結果は馬が“イヤイヤ”を決めてしまって走らなかった。その時に馬の個性や気持ちを大切にすることの重要さを学んだんだ。

ホクトヘリオス

▲ホクトヘリオスからは多くのことを学んだ (C)netkeiba.com


 後に自分が乗ったキングヘイローやオレハマッテルゼも同じようなタイプで、かつての経験を生かせた部分もあると思う。

――天皇賞・秋(1993年)を勝ったヤマニンゼファーはどんなタイプでしたか?

柴田 あの馬は素直で乗りやすかったなぁ。今にして思うと、ああいうゼファーみたいな馬が、俺にはあんまり回ってこなかったな。営業力の問題だな(笑)。

――あまり騎乗馬を集めるための営業はしてこなかったのですか?

柴田 うん。そもそも騎手にとってそんなものはあまり必要ないと思ってた。格好つけるわけじゃないけど、自分の“腕”で勝負するもんだと思ってたんだ。

――へ〜。若い頃はですか?

柴田 いや、ほんのつい最近まで(笑)。まぁだから本当の意味でプロじゃないんですよ、俺は。

――え…。2200勝以上もされてるのにですか?

柴田 うん。本当のプロっていうのは、とことん勝ちにこだわって、いい乗り馬を集められる人間だと思う。数字で評価される世界なんだから。その点、俺はつい他人のことを考えちゃう。客観的に見て良い馬がいても、俺がその馬を取ったら、乗っていた若い子がかわいそうだなぁとか…。これは本当のプロの考え方ではないよね。

――なるほど…。おっしゃる意味は何となく分かります。ではそんな善臣さんから今年の新成人へ向けてのメッセージをお願いします。

柴田 もっと“リアル”を体感して欲しい。年寄りの小言みたいになってしまうかもしれないけど、最近はスマホだ、インターネットだ、SNSだと、画面越しの世界にのめり込む若者が多いように思うんだよね。確かにそういう機器は便利だよ。自分も車を探す時にはネットを使ってる。でも実際に肉眼で車を見た時の感動は、ネットで見た時とはまるで違うんだよね。だから若い人たちには、ぜひもっと外に出て自然を見たり、色んな人と会ったりして、“リアル”を体感して欲しいな。やっぱりうっとうしいかな?(笑)

柴田善臣

▲今年53歳になるが技術は衰えていない (C)netkeiba.com


――いえいえ。若手ジョッキーへは何かありますか?

柴田 いや、とくにない。今の若い子たちは昔よりずっと上手いと思うよ。ヤル気もあるし。

――どうしてでしょう?

柴田 環境だろうね。競馬という産業が昔よりメジャーになって、確立されたものになったから。それに応じて馬のレベルやしつけ、人の技術などが随分と上がった。すなわち騎手にとってはレースに集中できる環境が昔よりも整っているということです。だから若いジョッキーたちには今の環境を存分に生かして、自分の腕を磨いていってほしいと思うね。

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