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【シンザン記念・フェアリーS】苦い敗戦を経験するのは、失敗ではない

  • 2020年01月14日(火) 18時00分

名牝はみんな敗戦を受け入れ、強くなった


 シンザン記念で上位人気の支持を受けたのは、ルーツドール(父ジャスタウェイ)を筆頭に10頭中3頭の牝馬。祝日13日の牝馬限定重賞「フェアリーS」とともに、桜花賞を目指す牝馬に注目の集まった週だった。

 現3歳の牝馬陣は、阪神JF1600mをレシステンシア(父ダイワメジャー)が3戦全勝のまま1分32秒7のレースレコードで5馬身差の独走を決めるなど、早くから連勝馬が多かったため、レベルの高い馬がそろった世代だと考えられていた。

 ところが、阪神JFでは2戦2勝の断然人気馬リアアメリア(父ディープインパクト)が6着に沈み、2番人気のウーマンズハートも4着だった。

 シンザン記念ではやっぱり断然の支持を受けたルーツドールが7着に敗退。フェアリーSでも1番人気のアヌラーダプラ(父キングカメハメハ)は6着に完敗し、2番人気のシャインガーネット(父オルフェーヴル)も4着止まりだった。

重賞レース回顧

ゴール前の激しいたたき合いを勝利したサンクテュエール


 期待された人気馬の敗因はそれぞれ異なるが、連勝中の注目馬がライバルの2着、3着に惜敗したのではなく、勝ち負けに加われない完敗に終わっている。

 2戦目から7連勝(GI5連勝)をつづけたアーモンドアイのような馬はそうそう出現しないのはみんな分かってはいても、期待通りの楽々の連勝を見てしまうと、強い牝馬続出の時代でもあり、簡単には崩れない力関係を思ったのだった。

 寒い冬から、季節の変わる春にかけて、連戦連勝などという若い3歳牝馬はめったにいない。

 近年ではアーモンドアイと、ブエナビスタは最初に負けたあと、うまく間隔を取りつつ連勝をつづけたが、これは例外で3冠牝馬ジェンティルドンナも、同じくアパパネも、ソウルスターリングも、ダイワスカーレットも、ウオッカも、3冠牝馬スティルインラブも、さかのぼれば3冠牝馬メジロラモーヌも、みんな敗戦を受け入れ、ときには凡走もしている。4年連続GIを勝ったメジロドーベルも、何度も負けている。

 負けるのは残念なことだが、クラシックを制するにはどこかで苦い敗戦を経験するのは(結果的に)失敗ではないケースが多いとされる。

 シンザン記念でまさかの7着に沈んだルーツドールは、新馬1600mを1分33秒3で圧勝のあとだった。

 古馬3勝クラス、牡馬コントレイル級のレベルを思わせたが、本馬場に入ってやけに気負い、少し行きたがったにしても、また、タフな馬場コンディションが合わなかったにしても、1秒6差の1分37秒5は負けすぎ。苦境を知らなかった。

 ただし、追い比べで少差3着、4着の負け方は疑問(微妙)だが、約9馬身もの完敗だから、まったくレースをしていないという見解も取れる。

 ジェンティルドンナのチューリップ賞や、メジロラモーヌのクイーンCがそうだった。ブエナビスタも、アーモンドアイも無敗でクラシック馬となったわけではない。

 過去30年、無敗の桜花賞馬はアグネスフローラ(90年、4戦4勝)、シスタートウショウ(91年、3戦3勝)、ダンスインザムード(04年、3戦3勝)の3頭だけ。1戦1勝のルーツドールの敗戦は、能力うんぬんではない。間違いなく素質十分なので、当然、巻き返せるだろう。

 ただ、まだ1勝馬。立て直してのローテーションの組み方はきわめて難しくなった。桜花賞まで3カ月を切っている。

 楽勝したサンクテュエール(父ディープインパクト)は、初の遠征を苦もなくこなして圧勝だから、アーモンドアイ、さらには同じ藤沢厩舎の04年ダンスインザムードと同じように、これでどんなローテーションでも組むことができる。1分35秒9も要するタフな馬場状態もこなしてみせた。おそらく直行だろう。

エイシンヒカリを彷彿させる走り


 フェアリーSを勝ったスマイルカナ(父ディープインパクト)は、パドックで最初はうるさかったが、ここが4戦目の強み。すぐ落ち着きを取り戻し、単騎逃げに持ち込むと素晴らしいバランスラップで「47秒0-47秒0」=1分34秒0。

 長いあいだ桜花賞と無縁のフェアリーS組だが、この時計は馬場差を考慮すると、レースレコードにも相当する。

 母エーシンクールディ(父Distorted Humor)は、快速の逃げ馬エイシンヒカリ(父ディープインパクト)の半姉。エイシンヒカリとほとんど同じ血統構成であり、脚質も毛色も同じ。近年の桜花賞はそうハイペースにはならない。俄然、侮れない候補に台頭した。

重賞レース回顧

フェアリーSを勝利し、有力候補へ台頭したスマイルカナ(撮影:下野雄規)


 人気で6着に沈んだアヌラーダプラは、シャープに映る素晴らしい体つきだった。464キロの馬体重のわりには大きくない印象を与えるのは、母の半妹シンハライト、リラヴァティ、ミリッサなどと同様の一族の特徴であり、ささやかれるような距離不安も実際にはないと思えるが、凡走したため条件賞金は900万円のまま。出走確実な賞金ともいえず、ローテーションが難しくなった。

 初の関西遠征が桜花賞となる日程は組みにくいだろう。オーロラフラッシュ除外で、鞍上にC.ルメール起用の作戦に成功したが、この後を考えると必ずしも正解ではなかったかもしれない。

 シャインガーネットは、パワー兼備型なので今回の馬場コンディションは合っていた。まず凡走はないと思えたが、スマイルカナに振り切られての4着は物足りない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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