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【京成杯】クラシックロードの新しい形を予感

  • 2020年01月20日(月) 18時00分

快勝の一方で皐月賞に向けての課題も


 これからの春のクラシックに連続するはずの、新しい歴史を予感させる記録にあふれた京成杯だった。

 新馬勝ちのキャリア1戦1勝の新星が勝ったのは、2019年のラストドラフトに続いて史上2頭目。そのうえ、2着馬まで新馬勝ちの1戦1勝馬だったのは史上初めて。2000mになった1999年以降、牝馬が連対(2着)したのは初めて。

 手がける高橋文雅調教師(48)は、開業9年目で待望の初重賞制覇だった。高橋文雅調教師と、クリスタルブラックに騎乗した吉田豊騎手(44)は、引退した大久保洋吉元調教師の兄弟弟子だった。吉田豊騎手の重賞制覇は、17年12月の落馬事故による頸椎骨折などの長期ブランクを克服して復帰し、17年の中山金杯以来3年ぶりの重賞勝ちだった。

 勝ったクリスタルブラックの父キズナ(13年の日本ダービー馬)と、2着スカイグルーヴの父エピファネイア(13年の日本ダービー2着馬)は同期のライバル。同じ2019年から産駒がデビューし、2019年ファーストシーズン種牡馬ランキングは、キズナが1位。エピファネイアが2位だった。これからも長くライバルとなるはずのこの2頭の種牡馬の産駒が、重賞でワンツーを記録したのは初めて。

 1戦1勝馬同士の1着、2着だけでなく、上位6着までを1勝馬が占めた今年の京成杯は全体レベルが低かったのではないか。そんな心配はないはずである。

 1999年から2000mになった京成杯の出走馬は、たしかにクラシックとの結びつきは乏しいが、1999年の勝ち馬オースミブライトが皐月賞を2着したのを出発に、2004年の3着馬はキングカメハメハ(日本ダービー馬)、2007年の勝ち馬はサンツェッペリン(皐月賞2着)、2010年の勝ち馬はエイシンフラッシュ(日本ダービー馬)だった。

 厳寒期の1月とあって注目馬の出走が少ないだけで、同じ1月のシンザン記念が重要なレースに変化し、また、皐月賞と強力に結び着いて共同通信杯の占める位置が再上昇したのと同じように、クラシックを目指す馬のローテーションが大きく変化している現在、皐月賞と同じ中山2000mの京成杯の評価が上がる可能性はある。

 重賞体系が少々異なるとはいえ、1月の1600m当時、「74年コーネルランサー、76年クライムカイザー、77年ラッキールーラ、78年サクラショウリ」。日本ダービー馬が5年間に4頭も成長のステップに選んだのが京成杯(東京)であり、牝馬ではテスコガビー、テンモン、ヒシアマゾンなどの名牝がこの京成杯に出走していた。

 2戦2勝となったクリスタルブラックは、体型や走法など父キズナに非常に似ている印象がある。まだ身体つきがゆるいかと思えた初戦とは一変、気迫を秘めたすばらしい状態に変化していた。

 皐月賞には出走できず、日本ダービー制覇までに6戦のキャリアを要したキズナと異なり、いきなりでも能力全開の気質なので、陣営は「皐月賞にストレートに行く(直行ローテ)可能性もある」ことをほのめかしている。

 勝負強さは十分に確認できた。距離2000mも、渋り気味のタフな馬場コンディションも大丈夫。あとは、多頭数で1分58秒前後のスピード能力を問われたときに、浅いキャリアで対応できる自在性と底力があるかだろう。

 2歳戦が生まれた1946年以降、2戦の戦歴だけで皐月賞を勝った馬はいないが(最少の3戦は19年サートゥルナーリアなど11頭いる)、日本ダービーはすでに1996年のフサイチコンコルドが2戦2勝のキャリアで勝っている。現代だから、この形の挑戦もありえる。

 現在ではファミリーナンバーは初期の43にとどまらないが、クリスタルブラックの牝系はF1-n。フサイチコンコルドのファミリーはF1-I。もう実際の個体にはおよそ関係しないが、15-16代(200年くらい)さかのぼると同じ牝祖にたどり着く。

重賞レース回顧

陣営も驚きの能力で勝ってみせたクリスタルブラック(撮影:下野雄規)


 2着スカイグルーヴ(父エピファネイア)は、楽々と4コーナーを回ったあたりでは確勝の手応えに映った。自身12秒7となった最後の1ハロンで差されたが、これは勝ったクリスタルブラック陣営からして「びっくりです。まさか…」と驚いたくらいであり、勝ち馬の秘めていた能力を認めるしかない。

 2戦目で、決して有利とはいえない稍重(発表以上にタフな状態)をこなし、他の芝のレースから推測すると2000mだと2秒以上の馬場差があった中、自身「61秒6-60秒6」=2分02秒2なら文句なしだろう。

 カイバ食いに不安があり、まだビシビシ追って…という状態ではないとされるが、パドックでは落ち着き満点。新馬戦と同じくスラリとみせる身体つきは上品すぎるほどだが、馬体重は前走比4キロ増。懸念の馬体減はなかった。

 重賞2着賞金を加算できたので、このあとのローテーションは非常に楽になった。仮にオークスが目標とすると、余裕をもってあと1、2戦できる。オークスが春になった1953年以降、キャリア3、4戦でオークスを制した馬は、2019年のラヴズオンリーユー、2018年のアーモンドアイなど15頭も存在する。新馬戦が示すように、スカイグルーヴは明らかに東京コース向きだろう。

 牝馬のスカイグルーヴに馬体減がなかったのに対し、大柄でもない男馬ゼノヴァース(父ディープインパクト)はマイナス12キロの450キロ。お尻のあたりが心もとなく映った。ディープ産駒なので馬場も合わなかったが、力強く成長してほしいこの時期に身体が前回より小ぶりに見えたのは気になる。

 ヒュッゲ(父ハーツクライ)は予定通り、ムリに先手は主張せず2番手。だが、ずっと内のロールオブサンダー(父エピファネイア)と併走に近い半馬身差。外からはスカイグルーヴに接近されてやっぱり半馬身差。この併せ馬状態は、ラップ(時計)以上にきつかった。

 ただ、昨年のロジャーバローズではないが、逃げ=先行タイプはこういう苦しい先行策を経験(試行)することによって、本当の力をつけていくはずだ。

 レース全体が追い込み馬向きになったこともあるが、突っ込んだビターエンダー(父オルフェーヴル)は今回がまだ3戦目。これから成長カーブに乗ることだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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