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【名手に歴史あり】ミシェル騎手だけじゃない 地方競馬に短期免許で騎乗した“外国人騎手”

  • 2020年01月26日(日) 19時02分
海外競馬通信

▲アメリカのK.デザーモ騎手も地方の短期免許の取得者だった


地方競馬では今週からフランスのミカエル・ミシェル騎手が短期免許で川崎所属として騎乗することが話題となっている。中央競馬ほどではないにしても、地方競馬でもこれまでさまざまな“外国人騎手”が短期免許で騎乗している。

(文=斎藤修、写真=NAR)


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地方競馬の短期免許第1号は日本人


 いきなりトリビア的なネタになるが、地方競馬で最初に短期免許を受けて騎乗した外国人は、じつは日本人だった。“外国人が日本人”というのは何かヘンだが、正確には、“外国で騎手免許を受けている日本人”ということになる。

 当時ニュージーランドで騎手免許を受けていた道川満彦騎手で、短期免許の期間は1994年6月15日から9月14日、高知・松岡利男厩舎に所属した。ちなみに中央競馬での短期免許第1号はニュージーランドのリサ・クロップ騎手で、1994年6月24日からとなっているから、免許期間では道川騎手のほうがわずかに先だった。

 道川騎手は、1974年5月に島根県・益田競馬場(2002年8月廃止)でデビュー。ほどなくして益田でリーディングを争うようになったが、「日本で一番小さい」と言われた競馬場での活躍では飽き足らず、当時はきわめてめずらしいことだったが、世界へと飛び出した。

 苦労の末に最初に免許を取得したのが1989年のマレーシア。1993年までマレーシアとシンガポールでトップジョッキーとして活躍した。

 当時、中央競馬の騎手試験も何度か受けているが不合格。その後、ニュージーランドで騎手免許を受けた1994年、短期免許の制度が日本で施行されたその年に第1号の適用となった。ただ、高知では33戦2勝と目立った成績は残せなかった。

 そのほか、マカオ、香港、オーストラリア、アメリカ、インド、UAEなどでも騎乗。マカオでは調教師免許も受け、シンガポールでは地方競馬で言うところの調教師補佐のような立場でも競馬に携わった。かつて天才とも破天荒とも言われ世界を巡った道川騎手は2007年、故郷の益田で亡くなっている。52歳だった。

川島正行厩舎に所属した海外のビッグネーム


 賞金が高い南関東では、中央でも活躍した欧米のトップジョッキーが短期免許で騎乗している。ただし、南関東で騎乗するために来日というケースは少ない。

 中央での短期免許期間終了後に引き続いての騎乗だったり、大レースでのピンポイント騎乗がほとんど。その多くを受け入れたのが、地方競馬を代表する数々の名馬を育て上げた船橋・川島正行調教師だった。

 最初のビッグネームは2001年、アメリカのケント・デザーモ騎手。同騎手はその年4月から初めて中央で短期免許を取得。オークスをレディパステルで制し、外国人騎手として初めてJRAクラシック競走制覇を果たしていた。

 K.デザーモ騎手は6月24日の宝塚記念でアドマイヤボスに騎乗して6着。すぐにアメリカに戻って日付としては同じ24日、ハリウッドパーク競馬場のGIビバリーヒルズHをアストラに騎乗して勝利。取って返して地方競馬の短期免許を受けた初日の26日。帝王賞をマキバスナイパー(所属は船橋・岡林光浩厩舎)で制した(※上記写真が帝王賞の表彰式時のもの)。

 地方競馬での免許期間は1カ月だったが、実際に騎乗したのは7月12日のジャパンダートダービー(大井のゴッドラヴァーで4着)まで。帝王賞も含め17戦4勝という成績で、そのうち川島厩舎の所属馬でも2勝を挙げた。

 続いてのビッグネームは、ミルコ・デムーロ騎手。中央では1999年から毎年のように短期免許で騎乗していたが、地方で初めて短期免許を受けたのが2002年5月。やはり中央での短期免許期間を終えた直後だった。

 騎乗したのが5月30日の東京ダービー。川島厩舎のバックギアーで6着。6月19日の帝王賞では、同じく川島厩舎のサプライズパワーで6着だった。

 南関東に所属しての短期免許では、中央の有力馬に騎乗するためと思われるケースもあった。中央の有力調教師や馬主ともつながりが深い川島調教師は、そのような場合でも外国人騎手を受け入れた。

 M.デムーロ騎手は翌2003年秋にも地方で短期免許を取得。所属は川島厩舎だが、11月3日に行われたJBC大井開催では、JBCスプリントにJRA森秀行厩舎のノボジャックに騎乗し10着、JBCクラシックはJRA清水美波厩舎のイングランディーレで6着だった。

 このときはすでにヨーロッパがオフシーズンということもあったのだろう。その後、重賞のない船橋開催などにも騎乗し、1カ月の免許期間で32戦3勝という成績を残している。

 さらにM.デムーロ騎手は、2009年12月29日の東京大賞典では川島厩舎所属としてJRA角居勝彦厩舎のロールオブザダイスに騎乗して3着。明けて2010年1月27日の川崎記念では川島厩舎のフリオーソに騎乗、ヴァーミリアンとの一騎打ちはレコード決着となり、惜しくもクビ差2着。この1カ月の短期免許でM.デムーロ騎手が騎乗したのは、この2戦だけだった。

 時は戻るがK.デザーモ騎手にもこのパターンがあった。2005年の帝王賞。JRA森厩舎のスターキングマンに騎乗して9着。1カ月の短期免許だが、騎乗したのはこの日大井での3戦(0勝)のみだった。

 川島厩舎に所属し、中央の有力馬で見事ビッグタイトルを制したのは、クリストフ・ルメール騎手だった。2008年末の東京大賞典で、JRA角居厩舎のカネヒキリに騎乗、ヴァーミリアンをクビ差でしりぞけた。ちなみにルメール騎手が地方の短期免許で騎乗したのは、現在までのところこの1日のみとなっている。

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▲地方所属で2008年の東京大賞典を優勝したC.ルメール騎手


 そしてC.ルメール騎手は明けて2009年1月には中央の短期免許を取得。今度はJRA所属として川崎記念でカネヒキリに騎乗すると、川島厩舎のフリオーソ(このときは戸崎圭太騎手)との叩き合いで1/2馬身先着。川島厩舎には恩を仇で返すような勝利となった。

 M.デムーロ騎手の弟、クリスチャン・デムーロ騎手も中央の短期免許(初めて取得したのは2012年1月)で活躍したが、じつは地方(川島厩舎所属)での短期免許のほうが先だった。若干18歳だった2011年1月7日からの2カ月間で173戦25勝という好成績を残した。

 この間、中央で短期免許を取得していた兄との直接対決も実現している。TCK女王盃では、兄・ミルコのラヴェリータ(JRA)が勝ち、弟・クリスチャンのザッハーマイン(船橋)は地方馬最先着の4着だった。

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▲2011年のTCK女王盃で兄のM.デムーロ騎手と対決したC.デムーロ騎手


 C.デムーロ騎手は、当初予定していた2カ月の期間が終了したあと、3月7日からさらに1カ月の期間延長。しかしその直後、東日本大震災が起こった。このときC.デムーロ騎手は一時帰国しており、その後南関東の開催はしばらく取り止めとなったため、短期免許延長後の騎乗はなかった。

 地方に短期免許で所属する外国人騎手で興味深いのが勝負服(騎手服)だ。マキバスナイパーで帝王賞を制したときのK.デザーモ騎手は星条旗をイメージした勝負服。

 2002年M.デムーロ騎手は、緑・白・赤というイタリア国旗そのままの縦割り。2011年C.デムーロ騎手は黄・茶の縦縞で、これは身元引受人だったと思われる吉田千津氏の中央での勝負服を騎手服としていた。

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▲K.デザーモ騎手の勝負服は星条旗をイメージ


ペリエ、ムンロも南関東で騎乗


 南関東では、川島厩舎以外でもビッグネームが短期免許で騎乗している。

 オリビエ・ペリエ騎手は2003年末、大井・杉山康史厩舎に所属、東京大賞典では1番人気に支持されたJRA池江泰郎厩舎のサイレントディールに騎乗するも7着。2006年1月には川崎・山崎尋美厩舎に所属、川崎記念でJRA森厩舎のシーキングザダイヤに騎乗し、船橋・アジュディミツオーのクビ差2着だった。

 24歳で英国ダービー(1991年ジェネラス)を制したアラン・ムンロ騎手も、短期免許制度が施行された1994年に中央で騎乗したうちのひとり。南関東では、2010年10月から12月まで大井・松浦裕之厩舎に所属し259戦17勝。また2011年10月から翌年1月までは大井・宮浦正行厩舎に所属し、304戦29勝という成績を残した。

 この間、2011年大井・マイルグランプリをボクで、同年大井・勝島王冠をスマートインパルスで制し、重賞2勝を挙げている。ちなみに2010年は英国、2011年はシンガポールの騎手として短期免許を受けていた。

北海道・南関東でも活躍した藤井勘一郎騎手


 冒頭、地方競馬で最初に短期免許を受けた騎手が日本人の道川満彦騎手だったことに触れたが、特に近年、オーストラリア・ニュージーランドで新規に騎手免許を受けた日本人騎手の短期免許での騎乗が目立ってきている。

 その中でもっとも活躍をしたのが、藤井勘一郎騎手だろう。2015年から4年連続で騎乗した成績は以下(カッコ内は所属厩舎)。

2015年7月1日〜9月30日(北海道・田中淳司)119戦18勝
2016年10月14日〜2017年1月13日(大井・荒山勝徳)211戦22勝
2017年4月1日〜6月30日(川崎・佐藤博紀)239戦17勝
2018年10月8日〜2019年1月7日(大井・森下淳平)228戦10勝

 この間、藤井騎手は韓国・ソウル競馬場でも短期免許で騎乗しており、2015年にはトゥクソムCをエスメラルディーナで、2016年にはコリアCをクリソライトで、2018年にはコリアスプリントをモーニンで、それぞれJRAからの遠征馬に騎乗して制している。

 藤井騎手は地方競馬でも短期免許での騎乗で経験を積み、JRAの騎手試験には6度目で合格。2019年3月から念願のJRA所属騎手となっている。

(文中敬称略)

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