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美しすぎるのはいいのか、悪いのか

  • 2020年01月30日(木) 12時00分
 父のすい臓がんの手術が無事終了しました。ただ、入院している大学病院の病棟ではインフルエンザが流行しており、病室では面会禁止になっています。それゆえ、短時間ロビーで会うか、そこまで出られない状態の場合は看護師に様子を聞くしかないのですが、経過は良好なようです。

 私は札幌で手術に立ち会ったため、ミカエル・ミシェル騎手の川崎でのデビュー戦を見ることも、JRA賞の授賞式に出席することもできませんでした。

 時間は前後しますが、お世話になっている伊集院静さんがクモ膜下出血で手術をされたことをニュースで知り、驚きました。心配することしかできないのが、どうにももどかしいです。しばらく面会はできないようなので、とにかく回復を祈り、またお会いできる日を待つしかありません。

 さて、先述したミシェル騎手は、お約束のように「美しすぎる」とか「美人すぎる」と形容されます。三面記事的表現とも、オジサン好みの表現とも言えるでしょう。自分もオジサンだからわかるのですが、オジサンは、自分で気が利いていると思ったり、それが似つかわしいと思ったりしたことに関しては徹底的に無自覚で無批判です。なので、いつまでも言いつづけます。

 メディアに関わる者がそうした表現を用いることの是非はさておき、今、「美しすぎる騎手」と言うだけで、それはミシェル騎手のことだと多くの人が認識するようになっています。藤田菜七子騎手も木之前葵騎手も美人ですが、その表現は彼女たちに対してではなく、ミシェル騎手に対してのみ多用されています。そこを利用し、「美しすぎると言われているミシェル騎手」という言い方で、「美しすぎるとか美人すぎると表現しているのはほかの人たちですよ」という含みを持たせてミシェル騎手を描写する手はありでしょう。

「美しすぎる」とか「美人すぎる」という表現がしばしば使われるようになったのは、八戸市の藤川優里市議が初当選した2007年ごろからでしょうか。ウオッカが牝馬として64年ぶりにダービーを制した年です。ウオッカの前に牝馬としてダービーを勝ったクリフジに騎乗していたのは、八戸出身の前田長吉でした。「八戸つながり」で、覚えやすくていいですね。

 あれから13年になります。そう、オジサンはしつこいのです。年齢を重ねれば重ねるほど同じことを繰り返すようになります。私も、以前このコラムでネタにしたように、この5年ほどで急激に老けました。以前は若く見られたので年齢を言うと驚かれたのですが、先日、病院で父の弟に間違えられました。父は83歳で、私は55歳です。そのくらい歳の離れた兄弟がいることもごくまれにありますが、普通に考えると、私が70代ぐらいに見えたと受け取るべきでしょう。自分に何が起きたのか、オジサンというのは我が身に関しては無自覚なので、わかりません。ちなみに、まだ髪の毛はあります。

 美しすぎる、というテーマに話を戻しましょう。

 藤川市議の場合は、議員という、中高年の男性が多いというイメージの仕事にあって、女優と見紛うほどの容姿であったがために、そう形容されるようになりました。ほかにも、例えば、学者、医師、弁護士、パイロット、私に身近なところでは書籍カバーなどのデザイナー、校正者など、容姿に関係のない職業の場合、ものすごく美人であれば、そう言われるのはわかります。

 しかしながら、騎手の場合はどうでしょう。もちろん、騎乗技術で勝負するのですから、美男美女である必要はないと言えるのですが、いい馬に乗るという、もっとも大切なことに関して、それを有利に運べるほどの容姿は、多くの人に見せる(魅せる)ことを前提とするプロスポーツにおいては、武器のひとつになり得ます。

 作家やライターにも同じことが言えます。要は、不特定多数の人を相手にし、依頼が仕事のベースになっている職業の場合、容姿が優れているか、あるいは個性的、特徴的であることは、職能を高める属性になり得るのです。

 ですので、騎手の場合、美しすぎて困ることはないのです。過ぎたるは及ばざるがごとし、ではないのです。

 いつもながら、とりとめのない話になってしまいました。

 1月は実験的に「です、ます」の敬体で書いてきましたが、来週から、口調を元に戻そうと思います。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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