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「馬第一主義」シャンティステーブル(5)愛馬にとっての最良を求め続けて…

  • 2020年02月18日(火) 18時00分
第二のストーリー

シャンティステーブルで過ごすクラウン(撮影:佐々木祥恵)


“環境”馬にとって重要なこと


 クラウン(競走馬名:ゴールデンクラウン)を自馬にするにあたって迷いがあったM.Nさんだが、いざ愛馬になってみるとより一層愛おしい存在となった。

 だが愛馬を大切に思って愛情をかければかけるほど、悩みも出てくる。ポラリス(競走馬名:ダノンフェニックス)のN.Uさんもしかり、いざ自分の馬を持つとその馬にとってより良い環境を求めて預託先を変える人が多いのもそのせいかもしれないし、愛馬への愛情が深いゆえの行動ともいえる。

 M.Nさんもクラウンがもっとゆったりできそうな場所を求めて、自然が多く静かな環境のクラブへと移動した。その場所でM.Nさんは、クラウンとのんびり乗馬を楽しむつもりだった。だがほどなくM.Nさんは股関節を痛め、跨る時に足が馬のお尻に当たってしまう可能性が出てきた。

「クラブスタッフに、馬のお尻に私の足が引っかかったら危ないから、良くなるまでは乗らない方がいいのではとアドバイスされて、しばらく乗馬ができなくなってしまったんです」

 それから1年ほどそのクラブに在籍していたものの、愛馬に乗れない日々が続いてM.Nさんは悶々とするようになる。そんな時に知人に紹介されたのが、シャンティステーブルだった。

「下手なくせに、馬に乗るのが好きなんですよね(笑)。以前のようにまだサッとは跨れないのですけど、本田さん(シャンティステーブル代表)がうまくサポートしてくれて乗れるようになりましたし、今は楽しく過ごしています」

第二のストーリー

クラウンとシャンティステーブル代表の本田さん(撮影:佐々木祥恵)


 シャンティステーブルに移動してきてから、クラウンの性格も変わってきた。

「最初のクラブの時はまだ気性がきついところがありました。次の場所でもやはりきつい面が残っていて周りからも怖いと言われていたのですが、ここに来たらすっかり落ち着いておっとりのんびりしています」

 最初のクラブで人を乗せたまま馬場で寝転がる癖も解消されて、今はその心配も全くない。

 またM.Nさん曰く「超食いしん坊」のクラウンは、与えられた飼い葉や乾草もしっかりと食べている。

「人参でもリンゴでも、それこそ食べられるものなら何でも好きになっちゃう(笑)」とM.Nさんはクラウンに優しい眼差しを向けた。

 さらにシャンティに来てから良い筋肉が付いて立派な馬体になったのは、本田さんが普段から十分な運動をさせていることもあるようだ。

「毎日会っているわけではないので、私が馬主だと理解しているのかなと半信半疑になったりもするのですが、最初にいたクラブスタッフに、オーナーさんが来ると馬の様子が全然違うのよと言われたことがありました。

 お手入れしている時にいたずらをしてきたり、屈んで裏掘り(蹄の裏に詰まった藁やおがくずほか汚物を掻き出すこと)をしているとシャツを引っ張ってみたり、馬房の前でクラウンと呼ぶと、お尻を向けていてもこちらに来てくれたり…。本当に可愛いですね」

第二のストーリー

呼ぶと来てくれたり…いたずらさえも本当に可愛い(撮影:佐々木祥恵)


 ポラリスのオーナーのN.Uさんも「クラウンは仕草を見てたらお子ちゃまという感じで、可愛いですよ」と話に加わった。ここからオーナー同士、馬談義に花が咲いていた。

「ポラリスは外に散歩に連れていけますけど、クラウンはちょっと連れていけないかも…」(N.Uさん)

「そうね、クラウンはポラリスに比べたら、体は大きいけどビビリなところがあるかもしれない。以前クラウンに乗っている時に、鳥がスッと飛んでいったのを見て驚いていたこともあるし…」(M.Nさん)
 
 同じノーザンファーム出身で、ともにサンデーサイレンス系の父親を持つ2頭。両馬ともサンデー系特有の気の強さは共通しているものの、それぞれに個性があって話を聞いているだけで、飽きなかった。

 M.Nさんに今後クラウンとどのように過ごしていきたいのかを尋ねてみた。

「最初にいたクラブで馬場2級(A2課目)に挑戦するつもりだったのですが、練習で乗っていた馬が亡くなってしまって、それきりになっているんです。だからもう1度、今度はクラウンでA2課目の経路を踏んでみたいと思っています。競技に出ようとか試験を受けようとは考えてはいないのですが、A2課目の経路を踏めるようになりたいですね。これまでは週に1回でしたけど、今年はもう少し通う回数を増やしたいですし、クラウンに長く楽しく乗っていきたいです」(M.Nさん)
 
 シャンティステーブルのポラリスとクラウン。2頭の第二の馬生は、まだまだこれからだ。M.Nさんにはクラウンとともに、まずはA2課目をマスターするという1つの目標ができた。一方、N.Uさんは更に先を見据えていた。

「人馬ともにこれから年齢を重ねていくことを考えると、将来は毎日草を食めて、健康維持のための運動ができる馬場を持ったクラブか牧場でポラリスを過ごさせたいですね」(N.Uさん)

第二のストーリー

N.Uさんと、じゃれつくポラリス(撮影:佐々木祥恵)


 シャンティステーブルのポラリスとクラウン。愛情溢れる女性オーナーの愛情をたっぷり受けて、2頭の第二の馬生はこの先も続く。

(了)


※ポラリスのオーナーN.Uさんは、草を食める場所(放牧地)と運動できる馬場を有した乗馬クラブか牧場を探していらっしゃいます。できれば埼玉県内、あるいは埼玉県(蓮田市あたり)から車で片道1時間ほどの場所で、そのようなクラブか牧場をご存知の方がいらっしゃいましたら、netkeiba.com「ご意見箱」にお知らせ頂けると幸いです。

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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