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【フェブラリーS】見た目だけでなく何もかもが完ぺきだったレース

  • 2020年02月24日(月) 18時00分

ケイティブレイブと長岡禎仁騎手のレースも同じように称えたい


 6歳牡馬モズアスコット(父Frankel)の完勝だった。フェブラリーSをダート1勝(1戦)だけのキャリアで制したのは史上初めて。また、芝、ダート双方のGIを制した馬は「クロフネ、アグネスデジタル、イーグルカフェ、アドマイヤドン」に次いで5頭目になるが、6歳になっての路線変更で勝ったのはこの馬が初めてだった。

 しかし、モズアスコットは通算21戦【7-5-0-9】。まだベテランホースというほど戦歴を重ねていないので、これからの展望は大きく広がった。この後は4月の豪G1ドンカスターマイルに出走予定があり、秋には米G1のBCダートマイルに挑戦のプランもあるという。Frankel(フランケル)産駒で、芝のGIもダートのGIも制している珍しいトップホースとあって、世界の注目を集めることになるだろう。

重賞レース回顧

史上初めてフェブラリーSをダート1勝(1戦)だけのキャリアで制したモズアスコット(撮影:下野雄規)


 芝からのスタートが良かったのか、今回は絶好のスタートだった。内からワイドファラオ(父ヘニーヒューズ)、アルクトス(父アドマイヤオーラ)、さらには徹底マークしたいインティ(父ケイムホーム)などが行くと、当然のように位置を下げ好位ー中団のイン。

 直線に向くと外に出すかと思えたが、もう砂を被っても平気だったので、そのままインに突っ込んだ。ちょうど砂塵の舞う強い風が吹いていた。「風あたりの強くなる馬群の外を避けたのではないか」という見方がささやかれたほどルメールは自信満々だった。

 レース全体の流れは前後半「46秒4-48秒8」=1分35秒2。4コーナー手前の前半1000m通過は「58秒7」だった。乾燥したダートを考えるとかなり厳しいペースで、インティの逃げ切った2019年の60秒2より「1秒5」も速い。

 一旦下げたモズアスコット自身の中身は「59秒8-35秒4」。前後半バランスは推定「47秒5-47秒7」=1分35秒2。位置取りもスパートのタイミングも、見た目だけでなくまさに完ぺきなレースだった。

 2着した16番人気のケイティブレイブ(父アドマイヤマックス)=長岡禎仁騎手のレースも、まったく同じように完ぺきだったと称えたい。途中から関西に所属を移した長岡騎手(26)は、GI初騎乗どころか、ここまでJRA重賞【0-0-0-6】。近走の成績からも人気薄になったのは仕方がない。レースを追えて上がってきた長岡騎手を、瀧本オーナーは「勝ったも同然!」と絶賛して迎えたと伝えられた。

 地道な努力をつづける若い騎手にチャンスを与えた瀧本オーナー、杉山晴紀調教師の7歳ケイティブレイブは、昨春遠征したドバイWカップを疝痛で取り消し、疝痛開腹手術を受け8カ月も休んでいる。昨秋の浦和記念を勝ったのもすごいが、1分35秒6でフェブラリーSを乗り切ったのは2017年に6着(0秒5差)した時とまったく同じ時計だった。少しも衰えていなかった。

 JpnIを3つ「帝王賞、川崎記念、JBCクラシック」も制しているケイティブレイブの底力全開に貢献した長岡騎手は、この快走で元気いっぱいだった数年前の自信が戻ったにちがいない。乗り馬に恵まれない他の若手ジョッキー仲間を元気づけるような、大きな飛躍を期待したい。

 連覇を狙った人気のインティは、残念ながら14着に失速してしまった。馬場に先出しになったレース直前の高ぶりから、カッカしながらきびしい流れを追走になったのは11月のみやこS1800mと同じか。もともと平均ペース型に育ってきただけに、昨年のように前半60秒2のスローに落としたあと、自身から「11秒6→11秒4」とペースアップできる形なら対応できるが、今年のように同型馬に58秒7のペースで行かれると、最初から自身のリズムではなくなっている。昨年のフェブラリーSを制してはいるものの、本当は厳しい流れの1600mは合わないのだろう。パワーもスピードもある。だが、オープンに昇級後は、他馬に並ばれて勝ったレースのない死角が、ここで露呈してしまった。

 3着に突っ込んだ6歳サンライズノヴァ(父ゴールドアリュール)は、プラス10キロで自身の理想体重に戻っていた。それでいながら以前よりスマートに映るくらいだから、完成期を迎えた身体なのだろう。後方にひかえて上がり35秒3はメンバー中最速。まだ脚はあった印象もあるが、この組み合わせでは押して早めに動く手はない。パサパサに映った今回のコンディションより、もっと時計の速い馬場ならさらに切れる。

 4着ワンダーリーデル(父スタチューオブリバティ)は、一旦は2着に上がれるかというシーンもあったが、そこで伸びが止まった。現在の力は出し切った印象が残った。

 惜しかったのは、一旦先頭に躍り出た5着タイムフライヤー(父ハーツクライ)。先団にいたグループは全馬が完全失速のきびしいペースだった。同馬の「59秒1-37秒0」=1分36秒1は、結果論だが、早まったスパートだった。S.フォーリー騎手はテン乗り。短期免許の最終週で気合が入っていたので仕方がないが、陣営は残念だったろう。

 競る形になったアルクトスは、内枠から勝ちに出るにはこの強気な戦法しかなかったかもしれない。脚質は異なるが、サンライズノヴァと同じでもっと軽いコンディション向きだろう。大きな馬だがパワー型ではない。

 10着ヴェンジェンス(父カジノドライヴ)の凡走は、近くの記者の見方もさまざまに分かれたが、4走前の太秦S、3走前のみやこSのレース内容が光るので、ハイペースの公算が大きい1600mでは前半はひかえた方がいいのではないか、と感じた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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