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【スプリングS・阪神大賞典】対照的なレース展開で悲喜交々

  • 2020年03月23日(月) 18時00分

1977年以来の特異的なペースだったスプリングS


 JRAの重賞で連対記録があったのは、人気のヴェルトライゼンデ(父ドリームジャーニー)だけ。先行型が少なくスローの流れが予測されたが、前半1000m通過「63秒2」の超スロー。途中でファルコニア(父ディープインパクト)がたまらずに動いたが、それでもまだペースは上がらず1200m通過はなんと1分15秒5。4コーナーでほとんど一団に固まり、最後の400mだけ「11秒1-11秒4」。上がりの勝負というより、実際の勝負は短い直線だけのきわめて特異な1800mだった。

 それぞれにテーマのあるトライアルだけに、スローが悪いわけではないが、重、不良馬場の年も含め(阪神の11年、東京の88年も合わせ)、手元のストックブックにもこんな緩い流れのスプリングS(皐月賞の優先出走権設定)はない。前半1000m通過がこんなに遅かったのは、おそらく極悪の不良馬場で勝ち時計が1分56秒0だった1977年(勝ち馬ヨシノリュウジン)の「64秒0」以来と思われる。

 その1977年、本番の皐月賞も渋馬場(稍重)で2分05秒1。快勝したのは福永洋一騎手のハードバージ。2着がラッキールーラ。スプリングSの上位3頭は「9、11、7」着という記録が残るが、スプリングSを6着に凡走していた伏兵アローバンガードが、19頭立て13番人気で皐月賞は3着だった。特異すぎるレースは参考外の面がある。

重賞レース回顧

最後の爆発力勝負で見事勝利したガロアクリーク(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 勝ったガロアクリーク(父キンシャサノキセキ)は、11月の東京2000mの新馬「65秒1-59秒4」=2分04秒5を、中団から上がり3ハロン33秒5で差し切ったスケールの大きい素質馬だった。そのレースの最後の400mも「11秒1-11秒4」。

 数字の一致はたまたまだが、スローから最後の爆発力勝負が合うのだろう。攻め馬は動く。返し馬ではちょっと身体の硬い印象もあったが、エンジンがかかってからの動きに迫力があった。前2戦で評価を落としていたが、馬体が絞れた今回が本当の姿なのだろう。マイラー型の多いキンシャサノキセキ(父フジキセキ)産駒ながら、2000mは平気と思える。

 母、祖母は無名だが、3代母Riviere D'orリヴィエールドールは仏2000mのG1サンタラリ賞の勝ち馬、仏オークスも2着。輸入種牡馬シェルシュールドール(父Northern Dancer)の4分3同血の妹になり、4代母には1981年の凱旋門賞馬Gold Riverゴールドリヴァーが登場する。

 レース全体のレベルは高くなかったが、勝ったガロアクリークの評価を低くすることはない。L.ヒューイットソン騎手は途中で緩急のペース変化があるレースより、現時点ではこういう欧州スタイルのペースの方が合う気がする。

 人気のヴェルトライゼンデは、テン乗りの池添騎手がずいぶん慎重に乗った印象があるが、4コーナーでみんな一団だから置かれたわけではない。ただ、サッと反応する馬ではないので、極端な切れ味勝負がつらかった。過去3戦、出走レースでの上がり最速を記録してきたが、2戦目の萩ステークス1800mの「34秒5」がベスト。

 フルに爆発力発揮の流れになった勝ち馬に対し、自己最高の34秒2をマークしながらジリ脚に映ってしまった今回の流れは、もっとも合わなかった。

 ホープフルS2000mでは4コーナー手前から追い通しでも、勝ったコントレイルに決定的な差をつけられていたわけではない。皐月賞がこういうペースになる危険は少ない。進展がなかった物足りなさはあるが、とくに評価は下がらないだろう。池添騎手は切れ味だけの勝負は避けたかったはずだが、この3日間で2、3着はあっても未勝利。金曜のフラワーCの直線の接触アクシデントなど、なんとなく冴えていなかった。

 3着サクセッション(父キングカメハメハ)は、スローを控えて1番外に回る苦しい展開。ずっとマイルに出走してきたように、こういう切れ勝負は合うと思えたが…。外に回ったロスはあったが、4コーナーで隣に並んでいたのはガロアクリークだった。かろうじての3着に、スケール負けの印象が残った。陣営はNHKマイルCの路線も匂わせている。

 3000mのGII「阪神大賞典」は、逆にきびしい流れだった。3等分して「62秒6-60秒3-60秒1」=3分03秒0は、一見、ムリのない一定ペースのように映るが、父ルーラーシップと同じように大きく出遅れたキセキが少しずつ挽回しながら、先頭に並ぼうとしたのがちょうど前半1600m通過地点。

 それまでずっと連続ハロン12秒台で、ドレッドノータス=タイセイトレイルが先導していたが、キセキがきた地点から、まだまだ先は長いのに5ハロン連続して「11秒台」にペースが上がり、1800mから2600mまで「58秒9」の乱ペースになってしまった。先行していた2頭は譲る気配がない。こうなっては、それでなくとも中盤までにすでに脚を使っていたキセキが最後に止まるのはやむをえない。道中の追い上げは当然だが、途中から行く気になりすぎたキセキ=川田騎手のコンビはペースを読み違えた印象もある。縦長になった3000mのレースで、前半最後方にいたグループが「1、2、3」着独占のきわめてめずらしい結果がもたらされた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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