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第52回ばんえい記念

  • 2020年03月25日(水) 18時00分

今年は無観客での開催に


 去る3月21日(土)、久々に帯広競馬場を訪れた。年度末の伝統の一戦、ばんえい記念を取材するために、である。

 ただし、ばんえい競馬も例外に漏れず、先月下旬以降、無観客での開催を継続中なので、今回は事前に取材申し込みをしておいての遠征となった。それも、なかなか厳しい内容で、「各社カメラマンと記者各1名」「フリーは原則としてお断り」とされていた。

 したがって、本来フリーで活動している私などは取材許可が下りない可能性もあるため、今回は、当コラムの掲載媒体であるネットドリーマーズを通じて取材申し込みをしてもらい、現地入りせざるを得なかった。言うまでもなく、これも全て新型コロナウイルス感染拡大を受けての措置である。

 帯広のこの日は晴れていた。だが、西風がやや強く、空気がかなり乾いている。一般客が入場していないので、ばんえい記念当日だというのに、駐車場はガラ空きだ。競馬場到着は午後3時半過ぎになった。取材陣が中に入場できるのはばんえい記念の1時間前、午後4時20分の予定である。

 入場ゲートは固く扉が閉ざされ、「新型コロナウイルス感染症対策による閉場のお知らせ」と大書された立て看板が設置されていた。時折、ファンと思しき人々がやってきて、やはり入場できないことを確認しては名残惜しそうに戻って行くという光景もあった。

生産地便り

入り口が封鎖されている帯広競馬場


生産地便り

無人のスタンド内部


 とはいえ、それでも諦め切れない熱心な人々は、競馬場の入口に隣接する「とかち村」の休憩所(空き店舗が充てられている)に待機しながら、発走時刻に合わせ裏手に出て、馬たちがゲートを飛び出して橇を曳きながらゴール方向に進んで行く風景を鉄柵越しに見学するのであった。競馬場には入場できないが、ここまでは足を踏み入れられるので、せめて間近でばんえい記念当日の空気や雰囲気を肌で感じていたいという方々が、こうして集合してきたのである。

 午後4時15分。少し早めに入場門に移動する。そこで、名前を告げ、名簿で確認してもらい、体温計を手渡された。検温して平熱であることを確認しなければ中へ入れてもらえないのだ。35.7度であった。

「ばんえい記念取材について」という報道機関各位に向けた文書を手渡される。ざっと目を通すと、取材に関する細かな注意点が列記してある。パドック撮影は表彰台横の面からに限定されている。また、レースはコース正面とスタンド2階の中央部分からゴール側と決められている。ゴール正面に入れるのは各社1人、カメラマンのみである。

 報道陣の動線についても細かな規制があった。控室は通常ファミリールームとして開放されているスタンド東端の白樺通り側にある部屋が充てられ、移動は原則として競馬場スタッフに先導されることになるようだ。

 スタンド内中央には、制服姿の陸上自衛隊第5音楽隊の面々が待機していた。無観客ながら、例年通りにファンファーレは今年も彼らによる生演奏なのだ。いつもの年ならば、このスペースにはぎっしりとファンが詰めかけ、熱気でムンムンしているのに、今年は全くの無人状態。違和感を覚えずにはいられない。

 やがてパドックへ先導された。ばんえい記念に出走する各馬が次々に姿を現す。今年は目下31連勝中のホクショウマサルが参戦し、それを迎え撃つばんえい記念二連覇の実力馬オレノココロと昨年の覇者センゴクエースとの「三つ巴」の争いになるとのことで、7頭立てながら、熱戦が期待された。

生産地便り

目下31連勝中のホクショウマサル


生産地便り

ばんえい記念二連覇の実力馬オレノココロ


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昨年の覇者センゴクエース


 誘導馬サンビームとミルキーも控えている。やがて騎手が各馬に騎乗し、第5音楽隊が演奏する背後を誘導馬の後からスタート位置に移動して行く。いつもならば、エキサイトゾーンにはぎっしりとファンが並び、口々に声援を送っている場面だが、今年は至って静かなものだ。遠くに見えるとかち村の裏には、人がずいぶん増えているようであった。

生産地便り

誘導馬のサンビームとミルキー


生産地便り

音楽隊の背後を誘導馬が進んでいく


 発走時刻の10分前になり、ゴール前に移動する。それぞれ思い思いのポジションを占め、カメラを構える。人気は6番ホクショウマサルが2.0倍、7番オレノココロが2.4倍、2番センゴクエースが5.8倍。その中間の3〜4番の真正面あたりに陣取る。

 聞き慣れたファンファーレが無人のスタンドに鳴り響く。いよいよ5時20分の発走時刻。ガシャッとゲートの開く音が聞こえてくる。各馬が一斉にこちらに向かって橇を曳きながら進んでくるが、ゴール前にいると、第二障害の手前までは全く馬の姿が確認できない。

 馬場水分が低く、いかにも力の要るコースになっているのだろう。時間がかかる。やがて第二障害の手前で各馬が揃う。息を整え、それぞれのタイミングで第二障害に挑戦する。重量1トンはやはりいかにも重い。膝を屈しながら、それでも真っ先に第二障害を越えてきたのは1番コウシュハウンカイであった。見る見る間に差を広げながら、ぐいぐいとゴールに迫って来る。一時は独走状態で、他馬が第二障害を越えられずにもがいている中を、どんどん進み、このまま圧勝してしまうのではないか、とさえ思えるような勢いであった。

 続いてアアモンドグンシン、オレノココロもようやく第二障害を乗り越えて坂を下ってきた。センゴクエースは他馬にやや遅れての坂越えであった。

生産地便り

第二障害手前の各馬(1〜3枠)


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第二障害手前の各馬(5〜7枠)


 しかし、1トンの重量はさすがに重く、このまますんなり終わらないのがばんえい記念の醍醐味でもある。ゴールまで残り10メートルまで迫っていたコウシュハウンカイの脚がぴたりと止まり、それに続いていたアアモンドグンシンも途中で息を入れ立ち止まる。その横をオレノココロ、ホクショウマサルが力強く1トンを曳きながら交わして来るのが見えた。センゴクエースもやや遅れて第二障害を越えると、桁違いの末脚でぐいぐいと追い込みを見せる。

 ゴール前は大変な混戦になり、鈴木恵介騎手の巧みな手綱さばきによって、オレノココロが先頭でゴールした。僅差の2着にはセンゴクエース。期待を集めたホクショウマサルは惜しくも3着に敗れた。4着は先行したコウシュハウンカイ、またゴール前わずかのところで立ち止まったアアモンドグンシンは、その位置で膝を屈し、横たわってしまって残念ながらレース中止となった。しかし、馬装を解かれた後は、しっかりとした足取りで厩務員に引かれ、歩いて帰ったので、ホッと一安心であった。

生産地便り

見事に1着となったオレノココロ


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僅差で2着となったセンゴクエース


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惜しくも3着となったホクショウマサル


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快調に飛ばすも4着に終わったコウシュハウンカイ


 王者オレノココロは、10歳青毛の牡馬で、槻舘重人厩舎所属。鈴木恵介騎手が騎乗し、これでばんえい記念3勝を含め、通算成績を157戦48勝、獲得賞金6679万6000円となった。槻舘調教師はばんえい記念4連覇。また鈴木恵介騎手も同レース4勝目である。

生産地便り

ばんえい記念の王者、オレノココロの口取りの様子


 センゴクエースはゴール前わずかにオレノココロに届かず、1.9秒差の2着。またホクショウマサルは3着に敗れ、連勝記録は31でストップした。

 新型コロナウイルス感染防止のため、レース後の記者会見は、スタンド内の西端、整理本部前にて囲み取材の形式で行なわれた。鈴木恵介騎手はレースを振り返り「馬場が乾いていて思ったより坂越えに苦労した。ゴールした瞬間は勝ったかどうかわからなかったが、勝てて本当に良かった。(オレノココロが)連覇した時よりも今回の勝利の方がずっと嬉しいですね」と語っていた。また槻舘師は「夏場に一時調子を崩して立て直すのに苦労したが、今回のばんえい記念に合わせて何とか体調を戻せました。鈴木騎手の好騎乗のおかげです」とコメントしていた。

生産地便り

レースを振り返る鈴木恵介騎手


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整理本部前で囲み取材を受ける槻舘師


 ホクショウマサルに騎乗した阿部武臣騎手はさばさばとした口調で「いつかは負けるものですから、しょうがないですね。また一からやり直しです」と語っていた。

生産地便り

ホクショウマサルに騎乗した阿部武臣騎手


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センゴクエースに騎乗した菊池一樹騎手


 さて3月24日、今年度のばんえい競馬は全日程を終了した。売り上げは151日間で310億8567万8100円を売り上げ、前年比127.25%を記録した。また21日のばんえい記念当日も、1日の売り上げが前年の2億4344万1900円から2億7157万3300円と、無観客でもネット発売が堅調だったために大きく数字を伸ばした。

 なお令和2年度は4月24日開幕予定になっている。何とか新年度は観客を入れての通常開催が実現することを願うばかりである。

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岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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