決してレースレベルは低くない
4頭が微差(同タイム)でゴール。10数分を超える長い審議の結果、初GI制覇となったのは5歳の快速牝馬モズスーパーフレア(父Speightstown スペイツタウン)だった。
良馬場だと、前半3ハロン32秒台の快ペースも珍しくないモズスーパーフレアにとって、離しての逃げなのに前後半「34秒2-34秒5」=1分08秒7。全体バランスは望外ともいえる楽なペースになっている。人気で失速した前2戦の案外な内容と、外枠、昨年の15着など左回りもう一歩、重馬場…などが不安視され、直線半ばまでノーマークにも近い単騎逃げになった。
とはいえ、あえて間隔を空けた周到な日程が功を奏し、並ばれて接触の不利がありながら、この馬場で最後の1ハロンも失速せず「11秒9」。これまでの前半のリードを生かした切った逃げとは異なる見事な勝利だった。2位入線の繰り上がりとはいえ、GI制覇には実力はもちろん、こういう運も求められる。
ゴール前は激しい叩き合いとなった高松宮記念(c)netkeiba.com
松若風馬騎手は20回目の挑戦でGI初勝利。それも所属する音無秀孝厩舎の管理馬だったからすばらしい。音無調教師は、「中山は相性がいいから、10月のスプリンターズSに行きたい」。なんと、早くも秋を展望している。昨年のスプリンターズSを1分07秒2(半馬身差2着)など、中山1200mは【3-2-0-0】。2歳時は460-470キロ台だった馬体が、現在はパワフルに成長し490-500キロ台。快速タイプなのに重馬場をこなした自信は大きい。
人気の4歳牝馬グランアレグリア(父ディープインパクト)も、3位入線から繰り上がってハナ差2着。前回の阪神C1400mとは違い、余裕をもっての中団追走とはならなかったあたり、初の1200m以上に渋馬場が序盤のスピード能力を封じていた。直線は外に回って、上がり33秒1は最速タイ(5着シヴァージも同じ)。最後はあと1完歩で差し切る可能性のある勢いだった。一応ではあるが重馬場はこなした。これで1200mから1600mまで、スピードと切れ味路線の主役になるだろう。
4位入線から3着に繰り上がったダイアトニック(父ロードカナロア)は、レースの結果にタラレバはないが、もっとも無念な不利を受けてしまった。前回も好スタートだったが、今回も抜群のスタート。好位のインで流れに乗る理想の展開になった。直線、一瞬は外を見たがスペースはなく、ガラッと空いたセイウンコウセイ(父アドマイヤムーン)と、モズスーパーフレアの間に突っ込み、モズスーパーフレアに並びかけようとした地点で、外から斜行してきたクリノガウディー(父スクリーンヒーロー)に接触されてしまった。
非常に残念な結果だが、GIでみんな必死の追い比べだから、運がなかったとしかいいようがない。4歳以降【4-1-1-2】。動きに一段とバネが加わっている。次走に期待したい。
クリノガウディーは、珍しいGIでの1位入線降着(4着)。2010年のブエナビスタのジャパンC以来だった。和田竜二騎手も「左回りでもたれるのを立て直してはいたんですが…」。申し訳ない斜行だと、制裁の騎乗停止(開催4日間)を受け入れるしかなかった。脚の使いどころが難しい馬なので、1200-1400mは守備範囲だが、テン乗りの馬が6頭もいたなか、この馬がもっとも難しい馬だったかもしれない。
1番人気のタワーオブロンドン(父Raven's Pass レイヴンズパス)は、なだめるくらいの行きっぷりで中団追走から直線は外に回った。手ごたえは十分あるように映ったが、追い出してたちまちバランスを崩したあたり、1200-1400mで2回もレコード勝ちしている切れのいいストライドが持ち味だけに、渋馬場は不向きだった。
2番人気のダノンスマッシュ(父ロードカナロア)は、3回も稍重馬場で好走例があるので少々の重馬場は苦にしないと思われたが、今回はなぜかレース前からすっきりした馬体というより、非力そうに見えた。これで中京芝【0-0-0-3】。コース適性も良くない。
モズアスコット(父Frankel フランケル)は、二の足がつかず前半からまったくリズムに乗れなかった。予定したオーストラリア遠征からの方向転換はベテランのGI馬だけにそう大きな死角ではなく、当日の気配も良く見えた。だが、さすがに1200m(重馬場)でも、という万能タイプではなかった。
タワーオブロンドン、ダノンスマッシュ、モズアスコット…など、かなり物足りない結果に終わった有力馬がいて、斜行接触の降着も重なってしまったが、事実上のレーティング最上位だったグランアレグリアを尺度にするとき、決してレースレベルは低くない。