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コロナ禍における競馬開催の現状と今後

  • 2020年03月31日(火) 18時00分

“鎖国”の競馬が検討されるべき?


 前回の本コラム『地方血統の活躍』の最後のほうで、浦和・桜花賞の血統的な期待馬としてアクアリーブルに触れていたのだが、見事に勝ってしまった。

「勝ってしまった」というのはやや失礼な表現だが、デビューから圧倒的な強さで連勝を続け、断然人気に支持されていたレイチェルウーズの存在があってのこと。それでもアクアリーブルの佐藤賢二調教師は「前走以上に調教で絶好調だった」と、勝てる自信があったようだ。

 ホッカイドウ競馬の角川秀樹厩舎からデビューしたアクアリーブルは、母がJpnIIの関東オークスを含め南関東牝馬二冠を制したアスカリーブルということで血統的な注目は高かったものの、門別の2歳牝馬重賞では3戦していずれも掲示板外。盛岡に遠征して知床賞で重賞初制覇を果たしたものの、人気馬の凡走もあって評価を上げるような相手関係でもなかった。

 ところが船橋に移籍し、ユングフラウ賞での2着、そして桜花賞の勝利で、2歳時とは一変というべき充実ぶりを見せた。管理する佐藤賢二調教師には、前回のコラムでも取り上げたブラヴールによる京浜盃に続く2週連続での3歳重賞制覇。あらためて南関東クラシック戦線での厩舎力の高さを見せた。

 さて本題。新型コロナウイルスの影響で2月27日の大井・名古屋・佐賀から無観客で競馬が行われるようになって1カ月が過ぎた。雪のため打ち切り・延期となった3月29日の中山を別にすれば、日本の競馬はすべてここまで予定どおり実施されている。

 海外の主要国で言えば、英・愛・仏の競馬はすべて停止。ご存知のとおりUAE(ドバイ)の競馬はドバイワールドCデーを実施しないままシーズン終了となった。

 感染者数が最多となったアメリカでも開催を取り止める競馬場が増えてきた。主要競馬場でも、サンタアニタ、キーンランド、アケダクトなどが停止。これらの競馬場では通常であればケンタッキーダービーへの重要な前哨戦が行われる時期で、そういう意味ではケンタッキーダービーを9月5日に延期という判断(3月中旬)は早かった。主要競馬場で開催されているのは、アーカンソー州のオークローンパーク競馬場と、28日に予定通りフロリダーダービーが行われたフロリダ州のガルフストリームパーク競馬場くらいだろうか。

 日本と同じように無観客ではあるものの、ほぼ予定通り開催が続けられているのは、香港とシンガポールだ。

 オーストラリアでは州ごとに対応が異なっていて、開催を取り止める州(主催者)も少なくないなか、4月のオータム・カーニヴァルを間近に控えたニューサウスウェールズ州では、3月23日以降、州内にとどまる騎手にのみ騎乗を認めて開催が行われる。また他州から遠征する馬の出走は許可されるが、人(調教師や厩務員など厩舎スタッフ)の帯同は認めないという。

 日本でも新型コロナウイルスの影響をできるだけ避けて開催を続けられるよう、今後はこのような措置が必要ではないか、と思ったところ、徐々にそうした措置がはじまるようだ。

 重賞競走を除く交流競走の取り止めが28日にJRAから、同じく30日にNARから発表された。正確にはレースの取り止めではなく、レースは実施しても交流競走としては行わないということ。ひとまず期間は4月末まで。5月以降はあらためてのお知らせとなっている。

 時間は前後するが、前述アクアリーブルが勝った桜花賞当日(3月25日)の浦和開催では、騎乗予定だった金沢の吉原寛人騎手、高知の赤岡修次騎手が“家事都合”という理由で騎乗変更となっていた。また翌26日に若草賞が行われた名古屋でも、大井の笹川翼騎手が同様に“家事都合”で騎乗変更となっていた。

 いずれも遠征騎手ゆえ、後日、吉原騎手に聞いたところ、やはり感染リスクのための騎乗変更だった。主催者などから要請があったわけではなく、「自分が移動することで感染させてしまったら大変なことになる」(吉原騎手)とのことで自主的に遠征を取り止めた。自身は感染・発症せずとも、移動によってウイルスを拡散させるリスクがあり、賢明な判断と言えるだろう。

 日本の競馬は、今のところ幸いにも馬券の発売がネット限定となっても売上がそれほど落ちていないという、世界でもきわめてまれな恵まれた状況にある。あと1〜2週間程度で感染が収束するとは考えられず、競馬を続けていくためには、ニューサウスウェールズ州のような、いわば“鎖国”の競馬が検討されるべきではないか。

 たとえば日常的に交流が行われている南関東でも、重賞以外はその競馬場の所属馬のみの出走とし、騎手も他場での騎乗は認めない。

 厩舎と競馬場が離れている中央競馬で“鎖国”の競馬は非現実的かもしれないが、たとえば今開催されている競馬場でいえば、中山、阪神、11日から始まる福島で、それぞれ騎手はもちろんのこと、できるだけ人の移動を少なくする。

 騎手や厩務員らから感染者が出れば開催をストップせざるをえない。そうなる前に、多少は不自由でも、競馬場ごとに可能な限り閉鎖した状態での開催は検討されるべきではないか。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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