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【津村明秀×藤岡佑介】第4回『カレンブーケドールで3度のGI2着 心に大きく伸し掛かる“GIの壁”』

  • 2020年04月15日(水) 18時00分
with 佑

▲津村騎手心に伸し掛かる“GIの壁”…本音に迫る (C)netkeiba.com


津村騎手をお招きしての同期対談。ここまで本音満載のトークを繰り広げてきていますが、中でも今回が最も津村騎手の本心に迫る回となりました。テーマはズバリ、「GIの壁」。

昨年はカレンブーケドールで、オークス・秋華賞・ジャパンCでGI連続2着。同じ2着でも、秋華賞は自身の変化に気付けた意味ある一戦に。一方でジャパンCは、悔しさがぬぐえないレースだと言います。

高い技術力を誇る津村騎手ゆえに、高まるGI制覇への期待。津村騎手自身はどう感じているのでしょうか?

(取材・構成=不破由妃子)


自分で自分に驚いた!「俺、入ったぁー!!!」


──ご家族の存在が奮起のきっかけになったというお話でしたが、カレンブーケドールとの出会いでさらに火が付いたところもあるのでは?

津村 今思うと、スイートピーSでたまたま依頼をいただいて、あそこでポンと勝てたのが大きかったんですけど、正直、オークスでいうと、自信を持って臨んだという感じではなくて。直線では、僕自身が一番ビックリしてました。めちゃくちゃ長く感じた(苦笑)。

佑介 勝ったと思ったけどなぁ。

津村 もちろん作戦を立てて臨んだんだけど、自分が思い描いていたレースにはならなかったし、決して上手く乗ったとは言えない。俺が思うに、(GI初制覇となった)藤岡のケイアイ(ノーテック)もそうだと思うんだけど、違う?

佑介 いや、その通り。

津村 だからね、案外GIというレースは、大雑把というか、もっと大胆に乗っていいのかもしれないって思えたのがオークスだった。まぁそういう競馬を人気馬でできるかとなると、また難しくなっちゃうんだけど、それを可能にする度胸とかも付けていかなくちゃと思ってる。なにしろ勝っていないからね、GIに関しては悩みがいっぱいだよ。

佑介 めっちゃ気持ちがわかる。でも、そういう気持ちの変化がレースにも現れてるんじゃない? たとえば、去年の秋華賞の直線では狭いところを割ってきたけど、今までの津村だったら、クロノジェネシスの後ろで進路が開くまで一呼吸待っていたんじゃないかと思った。

 もちろん、そういう冷静さが津村の良さでもあるんだけど、あのときは「絶対に引かない!」っていう感じで入っていったよね。負けてしまったけど、すごくいい競馬だったなと思って。

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▲「俺、入ったぁー!!!」馬群をぬって勝ち馬に食らいつくカレンブーケドール (C)netkeiba.com


津村 あれはね…、俺もちょっと驚いた。

佑介 えっ!? 自分で自分に驚いたっていうこと?

津村 そう。「俺、入ったぁー!!!」みたいな(笑)。

佑介 まさか本人がそう思っていたとは(笑)。

津村 最近はもう自分に驚いてないよ。変わっていかなくちゃと思ってるからね。

「敵は真後ろにいた…」一番悔しかったジャパンC


佑介 いい競馬といえば、ジャパンCもすごくいい競馬だったよね。津村本人もガックリきたと思うけど、気持ちがわかるだけに、俺もあのレースはものすごくガックリきた…。

 馬も強くて競馬も思い描いた通りに上手く乗れたけど、それでも勝てないのがGI。それが痛いほどわかっているからね。だから、ゴールしたとき、なんかめっちゃ切なくなった。

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▲先に抜け出したカレンブーケドール、最内から抜け出すスワーヴリチャード (撮影:下野雄規)


津村 確かにジャパンCは、あの3戦(オークス、秋華賞、ジャパンC)のなかで間違いなく一番悔しかったレースだよ。1枠1番という最高の枠が当たったのに、当日思わぬ雨が降ってきて。

 でも、あの日は内ラチ沿いを通った馬しか勝っていなかったから、馬自体は決して道悪が得意ではないけど、ある意味、運が向いてきたかもしれないと思った。で、4コーナーまで思い描いた通りにいって、あとは抜け出すだけだと思ったら…。

佑介 なんかきた、みたいな(苦笑)。

津村 そう。敵はちょうど俺の真後ろにいた…。

佑介 あのジャパンCでいえば、俺は津村が一番上手く乗ったと思ってる。それでも勝てないのがGIなんだよなぁと思いながら見ていたんだけど、案の定、オイシン(マーフィー)が絶賛される流れになって…。

 もちろんオイシンのことは好きだし、いいレースだったと思うけど、直線での津村の進路取りによって、仕方なく内に行ったんだよね、オイシンは。

津村 うん。そうだと思う。

佑介 レースのプランとしては津村のほうが上手くいっていて、それに合わせて切り替えたのがオイシン。その切り替えの上手さはもちろん絶賛されて然るべきだけど、どちらがプラン通りにキレイに競馬をしてきたかっていったら、やっぱり津村だと俺は思う。

 でも、そういうところもね、勝たなくちゃ見てもらえない。結局、勝ったジョッキーが「上手く乗った」ってなるのが競馬だよね。そんななか、哲三さんはコラムでちゃんと津村のことを書いてくれていた。俺、そのコラムを読んでうれしくなったよ。ちゃんと見てくれているなと思って。

(→元騎手の佐藤哲三さんがレース回顧する『哲三の眼』、ジャパンCのコラムはこちらから)

津村 哲三さんのコラムは俺も読んだ。うれしかったよ。ホントに悔しかったからさぁ…。あんまりにも悔しくて、引き上げてくるとき、オイシンのウイニングランをジーッと見ちゃったもん。

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▲津村「あんまりにも悔しくて、ウイニングランをジーッと見ちゃったもん」 (C)netkeiba.com


佑介 「今、あそこにいるのは、ホントは俺だったかもしれないのに…」って?

津村 うん…。ホントに(ウイニングランに)行きたい! と思った。

佑介 行っちゃえばよかったのに! 並んでウイニングランをしたら、「ついに津村が壊れた!」って超話題になったよ(笑)。

津村 東京でウイニングランかぁ、きっと最高だよね。それにしても、あのとき感じた悔しさは、今までに味わったことのない感情だったな。あのときの気持ちをこれからにつなげていかないと…。

 さっき「今が一番競馬が楽しい」っていう話をしたけど、こんなに「GIを勝ちたい!」と思っているのも、ジョッキーになって今が一番だよ。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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