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「苦肉の策」をプラスに

  • 2020年04月30日(木) 12時00分
 先週の木曜日、本稿が更新される少し前のタイミングで、JRAから5月31日までの開催におけるコロナ対策が発表された。

 それにより、5月31日の第87回日本ダービーが無観客で実施されることが明らかになった。1932(昭和7)年に始まった日本ダービー史上、無観客で行われるのは、戦時中の1944(昭和19)年以来、76年ぶり、2度目のこととなる。

 今週が新型コロナウイルス感染拡大防止のための無観客競馬の10週目となる。これまで毎週のように、JRAによる人馬の移動距離の短縮、人間の競馬関連施設への立ち入り制限、距離の確保などの手段が講じられてきた。

 今行われている競馬と、それに向けた調教、開催準備などが、最小限の移動・人員と、最大限のソーシャルディスタンスにおけるものだろう。

 無観客競馬は寂しいが、それでも、競馬がつづけられているだけでありがたい。

 ハンコ文化からの脱却だったり、出張に代わるオンライン会議だったり、フレックスタイムの徹底だったり、9月新学期導入の可能性だったりと、コロナ対策でせざるを得なくなったことのうち、収束後も、肯定的な意味で継続できそうなことが出てきている。

 コロナではないが、例えば、予算の都合でアコードのプラットフォーム(骨格)とエンジンを流用したホンダ・オデッセイがスタイリッシュに仕上がって大ヒットするなど、「苦肉の策」がヒットにつながったり、定番になったりすることもままある。

 競馬の場合は、どんなことが考えられるだろう。主催者にとっては、ネット投票の拡大か。「IT弱者」と呼ばれる中高年も参加することにより、従前とは異なるファンサービスの必要が生じるかもしれないが。

 私たちファンにとっては、レースや調教を見る媒体の重要度がさらに増した。こうなると、テレビのないところ(最近知ったのだが、若い世代にはテレビを見ない人や、テレビを持っていない人が驚くほど多い)でも安価に視聴できるグリーンチャンネルウェブはありがたい。加入者が増えて、ひとりあたりの料金が下がってくれるとよりありがたい。

 埒の向こう側の関係者にとっても、例えば、特に若手騎手は、騎手の東西間の移動制限によって騎乗機会が増えることもあるだろう。移動制限がなければ乗れなかった馬で好結果を出し、それを機に飛躍する騎手が出てきてほしいとも思う。

 さて、先に触れた9月新学期が導入された場合、日本の社会全体、そして競馬界はどう対応していくのだろう。

 9月から新学期、新学年が始まるということは、8月限りで卒業した人は、9月から働くわけだから、9月入学は自動的に9月入社につながっていくのか。

 競馬学校の入学も9月にスライドされないと、生徒がブランクなく入学することができなくなる。

 また、今は、JRAの新年度は3月、NARの新年度は4月スタートとなっているが、それもこの際だからと、9月スタートで足並みを揃えることができる。降着ルールが変更されたときは、両者の導入時期にひと月のズレが生じていたのだが、そうした不都合がなくなるわけだ。

 クラシックレースの施行時期は、北半球では世界的にほぼ足並みが揃っている。それはやはり、馬の出産の季節に合わせ、みんなが生まれてから丸3年経ったころに一番の力比べをしよう、という考え方に則したものなのか。

 9月新年度スタートとなっても、年度代表馬は従前どおり1月から12月までの成績によって決められるだろう。

 騎手、調教師、馬主、生産者などのリーディングも同様だろうが、新人騎手だけは(新規調教師もそうだが)、9月から12月までの4カ月間だけの成績で争うことになるので、新人賞(JRA勝最多勝利新人騎手)の評価が難しくなる。それでも、キャリアで一度きりのチャンスである新人賞はあったほうがいいだろうから、4カ月の短期決戦にするのか。それとも、新人騎手だけは別枠として、翌年8月までの「年度」で評価するのか。スッキリするのは前者のような気がする。

 ただ、一般の学校に9月新学期を導入しようという議論が始まったのは、多くの児童・生徒が授業のカリキュラムをまともにこなせていないからだ。が、競馬の場合、サークル内部に関しては、人と馬とを回すことができている。現時点で競馬学校騎手課程に在籍している生徒に関しては、従前どおりの新年度スタートでも問題ないというか、そのほうがスムーズなのかもしれない。

 つまり、来年の新人騎手は3月にデビューし、競馬学校騎手課程の新入生は9月に入学(試験日程も変わってくるだろうが)ということになる可能性もあるわけだ。

 ゴールデンウィークが始まった。前にも書いたように、私は仕事柄、1週間仕事場の外に出なかったり、10日以上誰とも会わなかったりということが珍しくない。好むと好まざるとにかかわらず、テレワークと「ステイホーム」が日常になっている。

 みなさん、ステイホームはいかがですか。「あと何日の辛抱だ」などと考えると苦しいでしょうが、「これも仕事だ」と思えば、案外平気なものです。こんなことまで仕事になってしまうのは「非常時」だからです。この非常時を生き抜いたという事実は、必ず何らかの力になるはずです。今は、「苦肉のステイホーム」で、ともに力を蓄えましょう。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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