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【天皇賞・春】総合力の高さで連覇達成もレースレベルに疑問

  • 2020年05月04日(月) 18時00分

競馬は時計が全てではないが……


 人気の5歳フィエールマン(父ディープインパクト)が、昨年に続き天皇賞(春)3200mの2連覇を達成した。勝負どころの手応えは、ルメール騎手が「楽に差し切れると思った」というほどは良く映らなかったが、図ったようにハナだけ差し切った。総合力と、絶対に差し切ってみせるという人馬の勝負強さで上回った勝利だった。

 ただ、勝者を称える観戦記ではないので記録面に注目すると、レース前からAランクのステイヤーではないと考えられていた通り、フィエールマンは3200mの天皇賞(春)を2勝した史上6頭目のチャンピオンホースとなったが、必ずしもハイレベルの3200mではなかった。

 このあと宝塚記念を視野に入れる手塚調教師が「もっと短い距離のほうが、切れ味を出せるのではないか」と振り返ったように、身体つきもひと回りたくましくなったフィエールマンは、これからは2400m前後を中心の中距離タイプとして完成されるのだろう。

 途中から徐々に進出し、昨年(接戦の2着はグローリーヴェイズ)と同じように、最後は伏兵スティッフェリオ(父ステイゴールド)とマッチレースになって勝ったが、中身はだいぶ異なる。

 芝状態は、直前の糺の森特別1800mが昨年と0秒2差の1分46秒0。下級条件の1400mがそっくり同じ1分21秒3だったから、昨年との馬場差はごくわずかだった。

 昨年の中身は、前半1600m通過1分38秒3「47秒6-50秒7」のあと、後半は1分36秒7「50秒5-46秒2」=3分15秒0だった。レース上がりもフィエールマンの上がりも34秒5。

 今年の中身は、前半1600m1分39秒1「50秒5-48秒6」の通過で、後半は1分37秒4「49秒5-47秒9」=3分16秒5となった。ルメール騎手は武豊騎手のキセキ(父ルーラーシップ)が途中で動いて、みんな楽をしたい中盤でペースが落ちていないことを察知すると、道中でそれほど進出しなかった。昨年は最終4コーナーでもう先頭に並んでいたが、今年はスパートを遅らせ4コーナーを回る地点ではまだ7-8番手だった。それで自身の上がりは同様の34秒6。

 2周目の向こう正面中間を過ぎた2000m通過地点は、昨年が「2分04秒0」。今年は「2分03秒4」。息を入れたい中盤で速くなった結果、それが響いて後半の全体時計はかかっている。ルメールのペース判断はすばらしかった。

 ただし、こういう流れだと、今年の阪神大賞典が史上3位の好タイム3分03秒0の結果が示すように(中盤でキセキが動いた)、レベルの高いステイヤー同士の対戦ならもっとタイムは速くなる。ところがきつい流れになった結果、昨年より全体時計が「1秒5」も遅くなってしまった。

「競馬は時計ではない」というのは、もともと勝った陣営だけに許されるコメントだが、手塚調教師はレースのあと、天皇賞(春)を連覇したフィエールマンを称えるだけでなく、「これがベストではなく、もっと短い距離の方が合っている」とした。見事に的を射た勝利トレーナーの談話だった。

 明らかに年ごとの馬場差はあるが、勝ち時計の3分16秒5は、歴代17位タイにとどまる。馬場差も、流れの違いもあるが、父ディープインパクトは上がり33秒5で3分13秒4であり、超高速馬場のハイペースだった2017年のキタサンブラックのレコードは3分12秒5である。

フィエールマン

提供:デイリースポーツ


 2着スティッフェリオは、連覇したフィエールマンとわずかハナ差(11センチ)の惜敗だった。最初の1ハロン以外13秒台のラップなしの、息の入れにくいきびしい流れを3番手で先行し、最後の直線に向いて先頭に立つと、残り200mの地点では勝ったと思わせるシーンもあった。

 ここまでの勝ち星8勝、2着4回はすべて2200m以下だが、あと一歩のところで、種牡馬ステイゴールドの天皇賞(春)史上最多4勝の記録「レインボーライン、ゴールドシップ、フェノーメノ2勝」がさらに伸びるところだった。

 スティッフェリオの母の父Mtotoムトトは、1988年のキングジョージVI世&クイーンエリザベスDSを快勝し、凱旋門賞2着はトニービンと小差。その父Bustedバステッドもキングジョージ(略)の勝ち馬で、Crepello→Donatelloとさかのぼる伝統のBlandford系であり、種牡馬Bustedはディープインパクトの祖母の父にも登場する。

 ミッキースワロー(父トーセンホマレボシ)は、道中、フィエールマンと前後する位置。少し行きたがるのをなだめ、能力は出し切った印象がある。横山典弘騎手も「勝った馬が強かった」とフィエールマンを称えた。体型からも本当のベストは2000m-2500mだろう。

 急な乗り替わりとなったユーキャンスマイル(父キングカメハメハ)も、うまく流れに乗り、勝ち負けできる形だったので、ほほ能力は出し切っているだろう。フィエールマンとは3000m級で3回対戦し「0秒2、1秒5、0秒4」差。残念だがこれは仕方がない。

 キセキは懸念のスタートがうまくいき、最初は好位で流れに乗っていたが、途中でスイッチが入りハナを切る形になってしまった。行く気になったら主導権を握るのは(半分は)想定内だったと思えるが、やむを得ずダンビュライト(父ルーラーシップ)、スティッフェリオと馬体を離して外から先頭に立つと、前半1000m-2000mが「60秒4」。なだめても少しもペースが落ちなかった。残り200mまで先頭は阪神大賞典と同じであり、すっかり難しい馬になってしまった。菊花賞3000mを勝ってはいるが、とくにいまは気性面で長距離タイプではないということか。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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