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矢作イズムを胸に活躍誓う田中一巧調教師

  • 2020年05月12日(火) 18時00分
馬ニアックな世界

▲今週は田中一巧調教師と矢作芳人調教師とのちょっと馬ニアックなお話(提供:田中一巧調教師)


矢作芳人厩舎のネクタイピンを「お守りのようなもの」と、レースのたびにいつも身に付けている地方競馬の調教師がいます。園田・姫路競馬の田中一巧調教師。開業前に矢作厩舎で研修を行い、4月30日には念願の重賞初制覇も遂げました。その直後、矢作調教師からは祝福の言葉とともに「タイトル後の●●がないとダメだろ!?」とある物が贈られたといいます。

尊敬してやまない矢作調教師と田中一調教師との「ちょっと馬ニアックな」お話です。


「地方もJRAも関係ない」受け入れてくれた矢作調教師


 田中一調教師が矢作厩舎で研修を行ったのは2017年9月。地方競馬全国協会から調教師免許を交付された1カ月後でした。矢作厩舎の門を叩いた理由は2012年にさかのぼります。

「岩田(康誠)さんが乗ったディープブリランテが日本ダービーを勝ったのを見て、矢作厩舎ってカッコいいなと思いました」

 感動を覚えたレースの翌日、スポーツ紙に大きく載ったディープブリランテの記事を切り抜き、今でも「黄色く変色してしまいましたけど、持っています」といいます。

 矢作厩舎で研修中は、当時まだ未勝利だったタイセイトレイル(2019年アルゼンチン共和国杯2着)の調教に乗りました。

「すごく可愛い馬で、担当(当時)の池田康宏厩務員に『この馬に乗りたいです』とラブコールを送っていました。矢作厩舎に研修に行けることになったのは池田さんとの縁がきっかけで、タイセイトレイルは当時からすごく乗りやすい馬でした」

 地方競馬から突如一人やってきた調教師。しかし、矢作調教師は「地方もJRAも関係ない」と受け入れてくださり、他の厩舎スタッフや所属ジョッキーたちともすぐに打ち解けられました。

「中谷(雄太)さんも(坂井)瑠星も、よく声をかけてくれました。そのまま矢作厩舎にずっといたかったくらいです」

馬ニアックな世界

▲厩舎所属の坂井瑠星騎手とのツーショット


 9月下旬に研修を終えると、同年12月6日、田中一巧厩舎として記念すべき初出走を迎えました。

「次はみんなと乾杯したい」


 ちょうどその頃、矢作調教師から1本のシャンパンが贈られました。

「開業祝いにドン・ペリニヨンを頂いたんです。『重賞を勝ったら開けよう!』と決めました」

 また、矢作厩舎のロゴマークの入ったネクタイピンをレースではいつも着用。「僕にとってはお守りみたいなものです」と、管理馬を見守ります。

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▲さわやかな黄色いネクタイを着用する田中一巧調教師 胸元を見てみると…


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▲かっこいいネクタイピンが!矢作厩舎の池田厩務員からプレゼントされたものだとか


 2018年は34勝、2019年50勝と着実に成績を伸ばしていくと、今年は積極的に他地区へ遠征をしました。

「遠征は今年の厩舎の目標でした。本当は昨年もそのつもりだったんですけど、行ける馬がいなくて」

 新型コロナウイルス感染拡大の状況も考慮し、もちろん遠征にあたっては多くの感染防止策をとりました。

 そして4月30日、笠松競馬場で行われた地方全国交流の重賞・オグリキャップ記念(2500m)をマイフォルテでついに勝利したのです。

 レースは4〜5番手から運び、3〜4コーナーで先に抜け出した2頭を直線で強烈な末脚で差し切るという内容。

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▲直線で豪快に差し切ったマイフォルテ(c)netkeiba.com、撮影:谷口浩


「ディープインパクト産駒で、直線はまさに『飛んで』きましたね。マイフォルテと同じ窪田康志オーナーのチェスナットコートには矢作厩舎で研修時代に調教で乗っていました。研修中、自分が調教をつけた馬が勝つところが見たいなと思っていたら、チェスナットコートが瑠星で甲武特別を勝ってくれました。その後、天皇賞・春に出走した時には京都競馬場で応援しました。僕の力は全然関係ないですけど、携わらせてもらった馬が活躍するのはすごく嬉しいですね」

 マイフォルテはお父様である田中範雄厩舎からの移籍ですが、矢作厩舎からつながる不思議な縁もありました。

 そして、大切に飾っていたドンペリを開ける日がいよいよ来ました。

「オグリキャップ記念当日は帰宅したのが遅かったので、先週末の全休日前夜にゆっくりいただきました。でもね」

 田中一調教師は興奮した声でこう続けました。

「こないだ矢作先生が兵庫チャンピオンシップ(ダノンファラオ)で園田にいらした時に『おめでとう。タイトル後のお祝いの美酒(ドンペリ)がないとダメだろ!?次のタイトルも獲れるように頑張れ』と、また1本いただいたんです。家に帰って、その意味をよく考えました。また重賞を勝つには次のドンペリというか、そういう目標のようなものがないとできないだろ、ということかなと。矢作先生はいつもストーリーがあって、言葉としては短くても、すごく思いやりを感じました。僕にとってはとても意味のあるドンペリで、モチベーションにもなります」

 実は昨年の大晦日、重賞・園田ジュニアカップをキクノウィングで2着だった時、田中一調教師は勝ち馬を見つめながら悔しがっていました。奇しくも勝ったのは父・範雄調教師。あと一歩のところまできて、より一層、重賞制覇への思いが強くなったことでしょう。

 再びドンペリの開封を目指して、マイフォルテは6月4日、重賞・六甲盃(園田、2400m)に出走する予定です。ここには兵庫の中距離大将格・タガノゴールドも出走予定。

「タガノゴールドは2000mを超えるとさらに強さに磨きがかかりますが、つけ入る隙もあるんじゃないかなと思っています。また重賞を勝って、今度はみんなで乾杯したいですね。せめて、厩舎スタッフみんなと」

 その頃には新型コロナウイルスが収束し、共に汗を流してきた厩舎のみなさんとお祝いができるといいですね。

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▲今度勝利したときは厩舎のみんなでお祝いができるといいですね!(c)netkeiba.com、撮影:谷口浩

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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