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【ヴィクトリアマイル】完成期に到達した本物の強さ

  • 2020年05月18日(月) 18時00分

歴史の「頂点」にその名を刻む可能性が高くなった


 アーモンドアイ(父ロードカナロア)の快勝を予測したファンも、さすがにノーステッキのままルメール騎手が軽く気合をいれただけで、うしろを振り返る4馬身差の独走までは想像できなかった。ルメール騎手はライフホース(騎手人生の中で最高の馬)の独走に、「エンジンは…まだあった。大人になって静かになった」と振り返った。

 これで海外を含むGI成績【7-0-1-1】。7勝を記録したのは史上7頭目になる。歴代の名馬と異なり、アーモンドアイの今回はまだ通過点。このあとどんなレースに出走となるのか未定だが、歴史の「頂点」にその名を刻む可能性が高くなった。快レコード2分20秒6のジャパンCも、1分56秒2で抜け出した天皇賞(秋)も強かったが、激励のムチは入っていた。完成期に到達した今回の強さこそ本物だった。

 昨年の安田記念。不利が重なり無念の3着に終わったアーモンドアイをみて、無言のまま帰っていった7万4千人のファン。有馬記念。残念なアーモンドアイをみて、ずっと悲しい気持ちが消えなかった9万人のファンに、馬なり圧勝のアーモンドアイを目の前で声援を送っていただきたかった。

重賞レース回顧

写真提供:デイリースポーツ


 トロワゼトワル(父ロードカナロア)が果敢に先手を奪ったレースの流れは、「前半800m45秒6-(1000m通過56秒7)-後半800m45秒0」=1分30秒6。前後半のバランスは、後半が光ってきついペースに映らないが、これはアーモンドアイが抜けだした最後の1ハロンを楽々と11秒6でまとめたからの数字。逃げて惜しい4着(2着と0秒1差)に粘った1600mのJRA記録を持つトロワゼトワルは「45秒6-45秒8」=1分31秒4だった。高速コンディションとはいえ、これはヴィクトリアマイル史上今年を入れて3位の勝ちタイムにも相当する記録であり、前半1000m通過「56秒7」はきびしいペースだった。

 果敢に飛ばしたトロワゼトワルの三浦皇成騎手は、騎手の移動制限でルメールが美浦に来られないので、2週連続アーモンドアイの追い切りに騎乗し、スキのない万全の仕上げに貢献している。ルメール騎手は、三浦騎手のライバルへの細心の調教を勝利騎手インタビューで深く感謝していることを伝えた。

 アーモンドアイには完敗だったとはいえ、挑戦者らしく正攻法の3番手追走から2着に粘ったサウンドキアラ(父ディープインパクト)は価値ある快走だった。3勝クラスからスタートした昨秋以降、重賞3連勝を含み【4-1-1-0】。よくぞ好調期間がつづいたというより、1戦ごとにスケールアップしているから驚く。ファミリーの日本での代表馬は、GI勝利を含み28戦10勝のビリーヴ(父サンデーサイレンス)。母の父は芝、ダートを問わずGI格を6勝もしたミラクルホース=アグネスデジタル。タフなのだろう。

 同期のアーモンドアイとは少し異なるタイプだが、たくましさなら互角以上。追いつくのに時間はかかったが、同じ5歳のノームコア(父ハービンジャー)、プリモシーン(父ディープインパクト)に肩を並べる存在に成長した。

 そのノームコアは、連覇はならなかったが、上がり33秒2はアーモンドアイの32秒9に次ぐ2位タイ。出負けというほどではないが、スタートが決まらず、アーモンドアイを射程にいれるために、道中で脚を使わざるをえない形になったのが痛かった。昨年の再現はならなかったが、猛然と伸びて1分31秒3なら能力はほぼ出し切った。

 一方、プリモシーンはこれだけの成績を残しているが、ちょっと難しい一面があり、道中で馬群にもまれると全能力を発揮できないところがある。コースにも距離にも問題はないが、最近は1-2番人気になると、なぜか好走したことがない。逆に少し評価が下がると途端に巻き返してくるから不思議だ。

 1番枠のため、外に馬群ができて最初から苦しいレースになったのが4歳ラヴズオンリーユー(父ディープインパクト)。スムーズなレースにならなかった。かつて、事実上無敗に近かった06年のオークス馬カワカミプリンセスがこのレースを復帰戦に選んで凡走したことがあるが(不利もあった)、こういう流れの東京の1600mは、レース間隔の空いている馬にとって、2000mやオークスの2400mより苦しいことが多い。自分のリズムではなく相手(レース)に合わせて、きつい流れを前半から追走しなければならない。

 近年は調教技術の格段の進歩でローテーションを問わないことが多いが、半年ぶりでキャリア5戦だけ。この馬自身の前半1000m通過は58秒3だった計算になるが、そんなレースは経験したことがなかった。アーモンドアイでも苦戦したかもしれない。

 シャープな身体つきになり、落ち着きも、トップホース独特のムードもあった。次は高速のマイル戦にも適応できるはずだが、2000m級の方が合う体型とも思えた。

 コントラチェック(父ディープインパクト)は、これで自身が主導権を握ったレースは4戦4勝。しかし、ハナを切れなかったレースは【0-1-1-4】。武豊騎手はこういうハイペース必至のレースで、「何がなんでもハナに立って…」という荒い流儀ではまったくない。人馬ともにつらいレースだった。

 伏兵の1頭としたシャドウディーヴァ(父ハーツクライ)は、対プリモシーンとの比較だと東京新聞杯の内容からそう差はないはずだったが、そろって8着、10着では、もう少しメンバーの落ちるレースを待つしかない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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