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【エプソムC】大波乱をもたらした騎手の馬場読みの巧拙

  • 2020年06月15日(月) 18時00分

ベテランの好判断と若手の積極策が相見えた直線の攻防


 少し回復しかけた不良馬場が波乱を呼び、3連単421万9320円はJRAの重賞レース史上9番目に相当する大波乱となった。

 東京の芝は回復に向かうと、なぜか馬場の内側の方が早く回復するとされる。午前中は多くの馬が馬場の内側を嫌ったが、終日「不良馬場」でも日曜は降雨がなかったため、8Rの古馬1勝クラスの芝1600mを逃げ切った野中悠太郎騎手のモデレイト(単勝2万9010円)は、ラチ沿いを避けた程度で、あまり外を回らなかった。2着に伸びたD.レーン騎手のジーナスイートは1番内から伸びた(多分に苦しまぎれだったのと、レーン騎手は空いた内を衝くのが嫌いではないこともあるが…)。

 続く10Rの芝1600mの芦ノ湖特別(2勝クラス)を勝ったサトノフウジンは、ラチ沿いもそれほど不利ではないことを察知したD.レーン騎手のイン衝き作戦が正解だった。

 追い込みは決まりにくい芝コンディションで(とくに外からの)、また、馬場の内側を通っても、コースロスがないだけに不利はないとなった中でのエプソムC。

 果敢にハナを切ったのは18頭立て18番人気のトーラスジェミニ(父キングズベスト)。

 もちろん気楽な最低人気だからでもあるが、木幡育也騎手(21)は8Rで上位人気馬の1頭シャワークライムに乗って、外枠なので大事に外を回った。ところが、逃げた最低人気のモデレイトに離されたうえ、内に突っ込んだジーナスイート、同じように内から伸びたサナチャン(8番人気)にも交わされてしまった。

 トーラスジェミニは、ハナを切ると迷うことなく内ラチ沿いを逃げまくった。自身の中身は「前半800m47秒2-(11秒9)-後半800m48秒8」=1分47秒9(自身の上がり36秒7)。少々きついペースになり、結果は「1馬身半、ハナ」差の3着だが、単に大波乱の立役者となっただけでなく、追い込みの決まらない芝と、馬場の内側も大丈夫と読んだ痛快な逃げ粘りだった。果敢な積極策で、あと一歩で賞金加算もあろうかというハナ差3着。決して恵まれての好走ではなかった。

 近年は明らかに4歳馬向きが顕著なレース(今年は3、4、5着)だったが、発憤したのはベテラン内田博幸騎手のダイワキャグニー(父キングカメハメハ)。前回の新潟大賞典は背負い頭の57.5キロとあっていいところなく14着凡走だったが、自己最高の馬体重516キロで動けなかったのだろう。今回は16キロも絞って昨年5月のメイS1800mを完勝した際と同じ500キロ。中間の意欲的な調教も光ったが、気合乗り抜群。先出しで一気に馬場に飛び出すと、得意の東京コースを再確認するような返し馬だった。

 6歳=6歳で決着したのは37回の歴史の中で初めてのこと(4歳=4歳は15回もある)。

 これでダイワキャグニーの全8勝は芝1600-2000mの東京コース。不思議なことにオープン特別勝ちは5回もあるが、重賞制覇は(連対も)初めてだった【1-0-2-10】。自在のダイワキャグニーはムリに先行しないこともあるが、今回は差しの利かない馬場を読んで、前半から気合をつけながら2番手を譲らず、直線も外に回る素振りも見せない内田博幸騎手の好騎乗が快走につながったことはいうまでもない。

写真提供:デイリースポーツ、撮影:園田高夫


 ゴール前のきわどい2着争い「ハナ、アタマ、クビ、クビ、クビ差」を、寸前に叩き出して2着したソーグリッタリング(父ステイゴールド)も、最内枠から早め早めに進出した藤井勘一郎騎手の好騎乗によるところが大きい。昨年のエプソムC3着から「2-3-4着」の善戦を続けること7回。仕掛けどころの難しい馬に、今回はテン乗りだった。夏場にも良績があるので、次走も好勝負だろう。

 差して上位に台頭できたのは4着アンドラステ(父オルフェーヴル)だけだった。まだ今回が7戦目。初めて馬券圏内から外れたが、今回は格上がりで、初の重賞挑戦、初コース。特殊な馬場状態でなかったら勝ち負けだったろう。母方は一世紀以上もドイツを中心に発展してきた名牝系。もちろん渋馬場は大丈夫。この夏の注目牝馬となった。

 見せ場十分だった5着アトミックフォース(父ワークフォース)は、昨秋からどんどんパワーアップし、素晴らしい体型とストライドを誇る馬に成長したが、まだ追い比べになって切れ味に乏しいのが課題。これからさらに良くなるだろうが、いまなら強気に飛ばす手もあるかもしれない。

 1番人気のサトノアーサー(父ディープインパクト)と、2番人気ピースワンパラディ(父ジャングルポケット)は、差はごくわずかだったが、6着と7着(2着とは0秒1-2差)。

 サトノアーサーは渋馬場をあまり気にしないのと、D.レーン騎乗とあって支持が高まったが、ずっと善戦止まりのレースと同じでもうワンパンチ不足だった。少々の渋馬場は気にしないのは確かだが、1分48秒0の走破時計が示すように、今回はこの馬にはタフすぎるコンディションだった。一連の自身の上がりは34秒-35秒台であるように、もっと軽い馬場向きで、底力を問われるレースは合わない印象が残った。

 ピースワンパラディは、アンドラステ、ゴーフォザサミットの35秒6に次ぐ上がり35秒7を記録したが、スタートもう一歩で位置取りが悪くなってしまったのが残念。インから伸びたが、先着を許したのは道中で自分より前に位置した馬だけだった。

 3番人気のレイエンダ(キングカメハメハ)の昨年のエプソムC快勝は、前半1000m通過63秒9の超スローに乗っての抜け出しで、自身の上がりは32秒7だった。今年は歓迎ではない不良馬場になった時点で、最初から苦しい状況だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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