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【ユニコーンS】レースレコードで無敗の勝ち馬誕生

  • 2020年06月22日(月) 18時00分

これから大きな未来が広がっている


 2戦【2-0-0-0】の成績で断然人気に支持されたカフェファラオ(父American Pharoah アメリカンファラオ)の圧勝だった。1分34秒9は、2018年ルヴァンスレーヴ(D.レーン騎手で24日の帝王賞に出走)の1分35秒0を更新するレースレコード。キャリア2戦だけの馬が勝ったのは25回の歴史の中で初めて。無敗の勝ち馬誕生も初めてだった。

 同じ2戦2勝で2番人気のレッチェバロック(父Uncle Mo アンクルモー)をマークするように3コーナー過ぎで早くも2番手。「前半800m46秒1-後半48秒8」=1分34秒9の厳しいペースを終始ラクに追走。残り400mで先頭に躍り出ると、最後までラップが落ちることなく「12秒2-12秒2」で差を広げ5馬身。

 これならダートのビッグレースが集中する距離2000m級もまったく平気。レーン騎手は「毎回、成長をみせている。最初に脚を使いすぎたのが心配だったが、最後まで脚が使えるのは素晴らしい」と絶賛した。さらに高いところにあるビッグレースへの展望が大きくなった。

 まだ25回の歴史の浅い重賞だが、このレースを勝って、のちにGIホースとなった馬は13頭にも達する。そのうち、1997年タイキシャトル、2000年アグネスデジタル、2003年ユートピアは海外のビッグレースも制している。今年、ケンタッキーダービーは9月5日。プリークネスSは10月3日の予定に移った(ベルモントSはすでに終了)。アメリカの状況が悪すぎるだけに、参戦は難しいだろうが、まだわずかに3戦しただけ。これから大きな未来が広がっている。

写真提供:デイリースポーツ


 父は2015年の米3冠馬アメリカンファラオ(祖父エンパイアメーカー)だが、母方はダート血統でもなく半姉Regal Gloryリーガルグローリー(父アニマルキングダム)、さらに上のセン馬Night Prowlerナイトプラウラー(父Giant's Causeway)は、ともに芝のGレースを制している。

 大きな差はついたが2着に突っ込んできたのは3番人気のデュードヴァン(父デクラレーションオブウォー)。スタートは互角だったが、内枠で揉まれるのを嫌ったのと、ハイペース必至を読んで、あえて下げたM.デムーロ騎手の技ありの騎乗だった。

 芝1600mのアーリントンCこそ凡走したが,これで東京ダート1600m【3-1-0-0】。注文をつけたので上がりは最速の35秒5となった。デムーロ騎手が「勝った馬は化け物だった」と振り返るように、強気に先行しなかったのは、結果、正解だったのだろう。

 2番人気の牝馬レッチェバロックは、今回は最初からハイテンションだった。パドックではなんとか我慢しきれたが、馬場入りするころには高ぶりが激しく、なだめつつ2コーナー奥のスタート地点に向かったが、ルメール騎手は返し馬を自重した。

 タイミングがピタリ合って好スタートからハナを切ったが「34秒2-46秒1-58秒4-1分10秒5→」は、距離1400mの前回とほとんど同じ。1200m通過が0秒3遅いだけだった。

 カフェファラオに並ばれた残り400m地点では、追ってはいなかったものの、もう手応えはなく鞍上のルメール騎手はあきらめていた。

 自身の前後半バランス「46秒1-50秒9」=1分37秒0。ハイペースゆえの距離不安が露呈したと同時に、使い始めて3戦目。中間はリズム良く乗り込めていたが、テンションが上がっているだけに強くは追えず、馬体重はプラス12キロ。太いなどということはなく、ダート戦だけにこの馬体でいいのだが、素晴らしい身体つきに見えすぎたあたり、余裕残りだったかもしれない。適距離は本当に1400mまでなのか。また、たぶんに早熟傾向のきらいを持つ背景にも課題を残すことになってしまった。

 逆に、3着ケンシンコウ(父パイロ)はタフな勝負強さが生きた。行きたがるくらいだったが巧みに折り合いをつけ、直線、外からきたデュードヴァンには抵抗できなかったものの、最後までしぶとく脚を使った。まだまだスケールアップに期待できる。

 4番人気のタガノビューティー(父ヘニーヒューズ)は、展開は突っ込んで不思議ない流れになったが、向こう正面でつまずき、鞍上の和田騎手が落馬しそうになったうえ、右のアブミが外れるアクシデント。3コーナーまでにすぐ態勢は立て直したが、大きくバランスを崩しただけに余力を失っていた。

 評価の難しかった伏兵フルフラット(父Speightstownスペイツタウン)は、すでにサンタアニタ(BCジュベナイル)にも、2月のサウジアラビアにも遠征経験があった。今回はハイペースを果敢に先行する形になり、残り400mではカフェファラオに並んでみせた。大きくバテることなく6着は悪くないが、最後は勝ち馬と1秒7差。米G1のBCジュベナイル(8.5F)が勝ち馬と1秒3差なので、カフェファラオの能力の高さを裏付けることになってしまった。

 5番人気のサトノラファール(父ゴールドアリュール)は、538キロの大型馬。大跳びでスケールを感じさせたが、初めての左回りを苦にしたのか、最後までエンジンがかからなかった。今回をいい経験にして欲しい。

 ダートのエース級に育つには、バテながらも粘る厳しいレースや、苦い敗戦を乗り越える経験が必要とされた時代がつづいたが、今年は5戦5勝のコントレイルが皐月賞と、日本ダービーを制した。4戦4勝のデアリングタクトが桜花賞と、オークスを勝っている。キャリアの浅い無敗馬が次々に芝のGIを制する近年は、呼応するように、ダート界のトップグループのローテーションも大きく変わりつつある。

 早い時期の2-3歳戦の評価が上がり、世代の回転がどんどん早くなる流れは、ヨーロッパの主要国や北米が示すように、生産界が強力になるほど加速する競走体系の変化だとされている。理由は、次の世代を早く提供できるから…。これまでは、古馬のビッグレースも同じように高く評価してきた日本の競走(ファンと同時進行)とは、必ずしも一致しないように思われた。しかし、競走馬のレベルが上がるということは、サラブレッド本人たちとは関係なく、一段と回転が早まるということなのだろう。2歳馬は幼い子供のように思えるのだが。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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