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【ラジオNIKKEI賞】父譲りのスタミナで後続を突き放す圧勝劇

  • 2020年07月06日(月) 18時00分

秋が楽しみな新星は名門牝系出身


 CBC賞の行われた阪神の芝は稍重に回復したとたん、断然「内枠の先行タイプ有利」だった。9Rの兵庫特別も、10Rの西脇特別も内枠の逃げ馬が快勝し、CBC賞も内枠から果敢に飛ばしたラブカンプー(父ショウナンカンプ)の快勝だった。

「輸入種牡馬テスコボーイ→サクラユタカオー→サクラバクシンオー→ショウナンカンプ…」と連続するサイアーラインの活力は素晴らしい。テスコボーイ直父系産駒の重賞制覇は、日本での初年度産駒ランドプリンス(1972年皐月賞)からスタートし、残念ながら連続重賞勝利は途中で切れてはいるが、5歳牝馬ラブカンプーが初重賞を制したことにより、あと一歩で半世紀に手が届く「49年間に渡り…」の大記録が生まれた。

 サクラバクシンオーの後継種牡馬は、ショウナンカンプ(22歳)だけでなく、グランプリボス(12歳)、もっと若い人気種牡馬で来年2歳がデビューするビッグアーサー(9歳)もいる。テスコボーイ(父Princely Gift)系は不滅である。

 福島の芝も、回復して「ラジオNIKKEI賞」は稍重。2006年にハンデ戦となって以降、今年は56キロのキメラヴェリテが回避したため、なんとトップハンデが54キロという特殊なハンデ戦になった。馬場状態も難しく、人気は大きく割れた。

 行きたい馬が揃ったが、団野大成騎手(20)が直前の7レースの落馬事故で骨盤骨折に見舞われ、伏兵バビット(父ナカヤマフェスタ)に乗り変わったピンチヒッターはベテラン内田博幸騎手。好スタートから先手を奪うと、他馬にハナを譲る気配などみせずに絶妙のペースに持ち込んだ。

 コーナー4回の小回りコース。ライバルの追撃がきびしいので、自分のリズムで先行するのは難しいが、バビット(内田博幸)の作り出したペースは「前半35秒4-47秒3-(12秒3)-後半47秒7-35秒8」=1分47秒3。見事なまでのバランスラップで、2着以下を5馬身も突き放した上がりは、ただ1頭だけ35秒台。逃げ圧勝となった。

 みんな54キロ以下の軽ハンデ。実績上位馬はいない。これからの可能性を問われる新星大歓迎のレースにふさわしく、この勝ち方には光るものがある。

 父ナカヤマフェスタ(その父ステイゴールド)は、2010年の宝塚記念(稍重)でブエナビスタを封じ、秋に遠征した凱旋門賞(重馬場)ではR.ムーアのワークフォースと頭差大接戦の2着に快走。ステイゴールド系らしく海外遠征に強く、渋馬場も平気だった。

 母の父タイキシャトルは時計勝負の良馬場も、3戦全勝のダートも平気。渋馬場のジャックルマロワ賞(仏)の勝ち馬であり、不良馬場の安田記念馬でもある。

 母アートリョウコと、輸入牝馬の祖母グランスオークスの成績は目立たないが、祖母の全兄フォティテンは輸入種牡馬。3代母Dry Fly(父Mill Reef)の半兄ゲイメセン(有馬記念のメジロパーマーの母の父)も輸入種牡馬。種牡馬Raja Baba(ロイヤルスキーの父)もこの一族。

 バビットの4代母Gay Missileの牝系はずっと古くから日本でも人気の著名牝系であり、現代では主流父系の岐点にもなる名種牡馬A.P.Indyの3代母、また種牡馬Lemon Drop Kidの3代母がGay Missileになる。母アートリョウコは公営の1勝馬ではあるが、大変な名門ファミリー出身といえる。

 バビットは馬体重以上に大きく映った。内田博幸騎手は「かなりスタミナがある」と、この秋の展望に期待をもたせた。スピード競馬向きとはいえないが、この馬場で1800m1分47秒3の独走には、秋に向けた新星として大きな魅力がある。

写真提供:デイリースポーツ(撮影:三好信也)


 3コーナー過ぎから手が動いていたパンサラッサ(父ロードカナロア)が、しぶとく脚を使って2着。5馬身離されたが、強敵相手にもまれてきたキャリアが生きた。快速系とはいえないが、さまざまなタイプを送るロードカナロア産駒の中では、渋い底力を秘めた中距離タイプとして成長してくれるだろう。CBC賞で11着にとどまった牝馬ディメンシオンの半弟だが、姉よりこなせる距離の幅は広いと思える。

 3着に伸びてきたディープキング(父ディープインパクト)は、一旦は下がるような場面もあったが、4コーナーから馬群を割って伸びたのは立派。今回がまだ4戦目の1勝馬とすれば上々だろう。全兄サトノキングダムは素晴らしい素質を秘めながら、足踏みの期間が長く大成できなかったが、センスあふれる中距離タイプとして大きく成長したい。

 4着パラスアテナ(父ルーラーシップ)は、落ち着いた好気配で、「これが良馬場なら…」と思わせたが、スタート直後から浮ついたようなフットワークになり、道中の行きっぷりに余裕がなかった。3コーナーから追い上げて直線も伸びてはいるが、鋭さ兼備の牝馬らしいところがなかった。今回の最大の敗因は渋馬場だろう。

 2番人気グレイトオーサー(父ノヴェリスト)は、まだキャリアも浅く気性の若さが心配とされていたが、スタート直後から口を割り、完全にムキになってしまった。D.レーン騎手は2コーナー過ぎで動いて出るような騎乗はしない。あまりに行きたがるので行かせる結果になったが、4コーナー手前ですでにギブアップ。こういう敗戦のあとは立て直しに少し時間がかかるかもしれない。

 同じ堀厩舎のサクラトゥジュール(父ネオユニヴァース)も、そうチャカチャカしていたわけではないが、キャリア6戦のわりに幼い気性をのぞかせる気配だった。最後は大外に回って伸びそうなシーンもあったが、案外の伸び脚。ここまで1600mに良績が集中するのは距離適性というより、折り合いの難しい気性ということか。

 ルリアン(父キズナ)は、510キロ台だがスマートにみせる好馬体。キャリアの浅い馬だけに揉まれない外枠も有利と思えたが、スムーズに追走しているように見えて「外へ逃げるところがあった(坂井瑠星騎手)」。たしかに4コーナーでも斜め前にいるパンサラッサから離れたいように外に行きたがっていた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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