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【ミシェル・ペイン騎手】「まるでおとぎ話」兄と掴んだメルボルンC制覇の夢/後編

  • 2020年08月03日(月) 18時01分
ノンフィクションファイル

▲騎手を夢見る女性たちへ伝えたいこととは?(C)Dream Factory LLC


映画『ライド・ライク・ア・ガール』が7月19日から全国で公開中。オーストラリア競馬界最高峰のレース・メルボルンカップを初めて制した女性騎手の半生を描いています。今回はそのモデルとなったミシェル・ペイン騎手のインタビューが実現!

後編では念願のメルボルンカップ制覇の瞬間を振り返ります。さらには「日本の競馬について」「女性ジョッキーの境遇」「調教師として」「今後の目標」などなど、盛りだくさんに語るほか、ミシェル騎手本人が思う映画の見どころも!

※このインタビューは電話取材で実施しました。

この馬でメルボルンカップを勝つよ!


――それでは次に、プリンスオブペンザンスについて教えてください。映画の中でもプリンスとの出会いのシーンは印象的に描かれていました。

ミシェル プリンスオブペンザンスに初めて跨った日のことは今でもしっかり覚えているんです。また別の怪我から復帰したばかりの時だったのですが、トライアル(模擬レース)で乗せてもらう機会がありました。

 この時の騎乗で、これは素晴らしい馬だと感激して、その後はこの馬のレースはもちろん、調教やトライアルも絶対に乗れるように最優先で乗っていました。自分にとってはそれだけ特別な馬だったのです。

――管理していたのはダレン・ウィアー調教師ですが、どういう経緯があったのですか?

ミシェル ダレン・ウィアー調教師はあまり女性騎手を使わない調教師でした。ですが兄のスティーヴィーが厩務員として働いていた縁もあり、「まずは調教から乗せてください」とお願いしたのが始まりです。競馬で能力のある馬に乗せてもらえるようになるまでは時間がかかりましたが、少しずつ使ってもらえるようになりました。

――プリンスオブペンザンスとの時間の中で、大きな舞台を意識するようになった瞬間はありましたか?

ミシェル たくさんありましたけど、特に思い出深いのはデビュー5戦目のフレミントン競馬場での一戦ですね。2000mのレースに出走したのですが、中距離にも関わらずレース中に完全に引っかかってしまって、これはもう勝てないと思いました。ところが道中で無駄にエネルギーを消耗したのに、直線では驚異的な末脚を見せつけて見事に優勝したんです。

 この馬の強さとタフさを改めて認識して、レース後のジョッキールームで他の女性騎手たちに「この馬でメルボルンカップを勝つよ!」と宣言して、本当にその通りになりました。

――そんな宣言をされていたんですね! プリンスオブペンザンスとともに6勝を挙げましたが、それでもメルボルンカップ前には乗り替わりの可能性もあったようで...

ミシェル そうですね、映画にもあった通りオーナーの中にはもっと実績のある騎手を乗せたいと思っている人もいたんですよ。幸いにもメインオーナーの2人のうち、騎手の決定権を持っているオーナーが本番でも私を乗せることを支持してくれたので、無事に乗せてもらえました。

――レースシーンが臨場感たっぷりに描かれていましたが、改めてレースを振り返っていただけますか?

ミシェル スタートは立ち遅れてしまったんですが、向正面では少し行きたがる所をなんとかなだめて、リズム良く流れに乗れました。残り1000mの地点では2番人気の馬の後ろという非常に良い位置に付けることが出来ました。

 残り600mでも非常に良い手応えだったので、これは勝ち負けになると思いましたが、それと同時にここでの判断が勝利に直結すると思い、とにかく冷静に、焦らず馬の進路を確保することを意識しました。

――映画でも「スペースが空く瞬間を見逃すな」というお父さんの教えが描かれていましたが、焦らず騎乗されていたんですね。

ミシェル 過去に数え切れないほどメルボルンカップの映像を見て、4角で抜群の手応えだったのに焦って仕掛けてしまったために負けた騎手をたくさん見てきましたからね。冷静に騎乗することを一番に意識していました。

 そして残り300mでゴーサインを出すと素晴らしい反応で、残り200mでは自分は何もしなくても良いほどの手応えでそのままゴール板を駆け抜けてくれました。

――ゴールした瞬間はガッツポーズが飛び出しましたね。

ミシェル その瞬間は、本当に言葉に出来ないほどの喜び、そして自分の仕事をやり遂げた達成感と安堵感で満たされました。夢見心地のままウイナーズサークルに戻ると、兄のスティーヴィーが迎えてくれて...溢れんばかりの大観衆に、子供の時からずっと一緒だった兄と共にメルボルンカップの勝利を称えてもらいました。

 自分の人生の中で最も特別な瞬間だったし、今でも信じられないくらい、まるでおとぎ話のような瞬間でした。

ノンフィクションファイル

▲ダウン症を患っている兄と共に掴んだ栄光の瞬間!(写真:本人提供)


日本の優秀な競走馬はいつでもウェルカムです!


――続いて日本の競馬についてお伺いします。そのメルボルンカップで1番人気だったのは日本馬フェイムゲームでした。

ミシェル 日本の競走馬は本当にレベルが高いと思います。プリンスオブペンザンスも日本になじみのある血統でしたしね。レース中の運に恵まれなかったこともあり着外に終わりましたが、フェイムゲームは

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