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【新潟記念】究極の上がり勝負となった伝統のハンデ重賞

  • 2020年09月07日(月) 18時00分

母系に根付く晩成の血が開花したブラヴァス


 フルゲート18頭のハンデ戦らしい混戦になり、14着馬までが1秒0差以内の大接戦に持ち込まれた。レース全体のペースは、前後半の1000m「61秒9-58秒0」=1分59秒9。前半は超スロー。後半1000mの方が「3秒9」も速くなる特殊な流れだった。新潟の外回り2000mは最初の直線が1000m近くも続くため、前半スローで展開することは珍しくないが、さすがに前半1000mが61秒9は珍しく、最近10年の新潟記念では飛び抜けて遅いペースだった(2番目は2011年の60秒9)。前日の3歳未勝利の2000mの前半1000m通過が、形態の異なる内回りとはいえ60秒0だった。

 レース後半、それも最後の800mだけが猛烈に速くなって「45秒0-33秒1-11秒6」。上がり3ハロン32秒台以内を記録した馬が6頭。最速は最後方から直線だけ猛追した4着サトノガーネット(父ディープインパクト)の31秒9だった。新潟外回り2000mの重賞では、2008年の新潟大賞典を勝ったオースミグラスワンの高速記録31秒9が知られるが、2000mの重賞で上がり31秒台はさすがに特殊なペースのもたらす結果であり、少なくとも他場のレースとは関連しない。実際、猛然と伸びて前走の小倉記念を1分57秒7で2着していたサトノガーネットの当時の上がりは、流れが異なるので34秒3だった。

重賞レース回顧

写真提供:デイリースポーツ


 勝った4歳牡馬ブラヴァス(父キングカメハメハ)は、今年3月にオープンに出世すると、新潟大賞典4着(0秒3差)、七夕賞2着(0秒2差)、そして新潟記念制覇。1戦ごとにどんどん地力強化している。まだまだ進展の途上と思われるが、「精神的にゆったりして、折り合いがつき、トモもしっかりしてきた(友道調教師)」と着実な成長カーブを強調した。

 この一族の古馬になっての大活躍は知られる。繁殖牝馬ハルーワスウィート(父Machiavellianマキャヴェリアン)の一族で、出走歴のある佐々木主浩オーナー名義の馬は、初仔ファルスター(牡2008)、2番仔ヴィルシーナ(牝2009)。その産駒が今回のブラヴァス(牡2016)、3歳レヴィオーサ(牡2017)。3番仔ランギロア(牡2010)、4番仔シュヴァルグラン(牡2012)、5番仔ヴィブロス(牝2013)の合計7頭。そのうち4頭がすでに重賞勝ち馬となり、うち3頭はGIを制し、再三の2、3着もあるからすごい。ブラヴァスもやがてはGI級に育つのだろう。

 昨年のクビ差2着につづいて、今年はアタマ差2着のジナンボー(父ディープインパクト)は、入念な調整で期待通りの結果を出したが、力強さ満点のはずの馬体がちょっと小ぶりに映った。この夏の猛暑が響いたか、デキ絶好ではなかったかもしれない。懸念のスタートも決まらず、スタート直後は最後方だった。だが、そこからきわめて巧みだったのは鞍上のM.デムーロ騎手。最後の直線と違い、向こう正面の直線の内側は荒れていない。内ラチ沿いに進路を取ってスルスル進出。3ハロンも行かないうちに2番手に上がり、4コーナーで先頭に並ぶと最後の直線だけ馬場の中央に出した。前半1000m通過61秒9のスローなので、少しも無理な進出ではなかった。最後は、直線1000mのレースのように外ラチ近くで併せ馬の形になったブラヴァスに屈したが、今回は技ありの2着快走だった。切れ味勝負型ではないジナンボーにとり、これほどの高速の上がり勝負は有利ではないが、自己最高の33秒1でまとめての惜敗だから納得だろう。

 3着サンレイポケット(父ジャングルポケット)は、外に回ったブラヴァスよりさらに外へ回って自身の上がりは32秒4。格上がり初戦で初重賞挑戦とすると、54キロのハンデも恵まれた軽量ではなかったから、勝ち馬と同タイム(アタマ、クビ差)の快走は、上がり馬の強みそのものだった。これで左回り芝【3-1-1-0】。トニービン系らしく新潟コースは抜群に合っている。同じファミリーに属するバレークイーンの一族より、6歳末にステイヤーズSを2着したアドマイヤラピスの一族はタフに成長することで知られる。5歳だが、まだ13戦【4-3-2-4】。これから真価発揮がある。

 4着の牝馬サトノガーネット(父ディープインパクト)は、一度最後方まで下がって、直線1000mのコース取りを思わせるように外ラチ沿いへ。かなりのコースロスがありながら上がり最速の31秒9。これで自身9回目の最速上がりとなった。ハイペースの小倉記念でも、超スローの新潟記念でも上がりは最速。展開に左右される後方一気型ではあるが、昨年差し切った中日新聞杯が2000mだった。この距離ならこのあとも怖い。

 レース上がり「45秒0-33秒1」が合わなかったグループと、総合力に疑問のあるグループが凡走するレースになったが、単勝1番人気の3歳馬ワーケア(父ハーツクライ)が10着にとどまった原因のひとつは、ハーツクライ産駒の成長過程の難しさにありそうに思える。ハーツクライの代表産駒のうち、世代限定重賞を別にすると、3歳秋に古馬相手の重賞を勝ったのは、スワーヴリチャード(AR共和国杯)くらい。ほかの代表馬の本格化は、4歳、5歳になってのこと。伸び悩みの時期がある。リスグラシュー、シュヴァルグラン、ジャスタウェイ級でさえそうだった。だから、ワーケアは悲観するには及ばないが、現3歳世代は4歳以上の古馬との対戦になった重賞成績【0-0-0-8】。この点は物足りない。

 3歳秋にチャレンジCを制したサトノクロニクル(父ハーツクライ)の復調に期待したが、もう決着がついたころに上がり33秒0で差を詰めただけの0秒8差。復活はちょっと難しくなったかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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