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【京成杯AH】大きく異なる馬場コンディションを克服した一戦

  • 2020年09月14日(月) 18時00分

昨年とはまるで違う流れをこなして連覇達成


 中山の芝コースは、導入された「クッション値」が予測(期待)されたよりいきなり高い数値「やや硬め」になりそうなことが関係したのだろう。秋の中山の開幕週は、同時開催の中京に比べ非常にタフな芝コンディションに設定されていた。

 昨年の京成杯AHは「1分30秒3」。同日の古馬1勝クラスの芝1200mが「1分07秒2」だったの対し、今年は同じ良馬場発表でも京成杯AHは「1分33秒9」。同日の昨年より条件が上の古馬2勝クラスの芝1200mが「1分09秒3」だった。

 昨年は超高速すぎたので、これを別にすると過去10年間(09-18年)の京成杯AHの平均勝ち時計は「1分32秒29」。今年は、秋の中山らしく時計の速かった当時と比較すると、芝1600mで少なく見積もっても「1.5-2.0秒」はタイムを要するコンディションだった。

重賞レース回顧

写真提供:デイリースポーツ


 昨年の前半は「33秒3-44秒2-55秒4→」。最初の1ハロン過ぎからどんどんピッチを上げたトロワゼトワル(父ロードカナロア)が、今年も他馬の行き脚を確認できる同じ10番枠なので、先手を奪うと予測された。だが、1ハロン過ぎに一気に先手を主張したのは3歳スマイルカナ(父ディープインパクト)だった。

 レース後のインタビューで「昨年とは違って大人になっていた。カッカして行きたがったりしなかった(横山典弘騎手)」というトロワゼトワルは、メイケイダイハード、スマイルカナに次いでコースに先出しとなったが、コースに入るとそのまま静かに立ち止まり、かなり長いあいだ馬場を確認するように見渡していた。落ち着き払っている。

 スマイルカナが果敢に行った今年の前半は「35秒0-46秒7-58秒3→」。馬場差を考慮してさえ、高速の京成杯AHとすれば予測とはまったく異なるペースで、勝負どころにさしかかる1000m通過は2019年より「2秒9」も遅かった。

 前後半800mのバランスは「46秒7-47秒2」=1分33秒9。見た目にも分かる緩い流れで、3コーナー過ぎで先頭集団にいたスマイルカナ、トロワゼトワル、ボンセルヴィーソがそのまま1-3着を占めている。

 勝ったトロワゼトワルは、昨年とはまるで違う流れをこなし、実に3秒6も異なる勝ちタイムで連覇達成。これは距離が1600mに戻った1984年以降、ブレイクタイム(02、03年)、マイネルモルゲン(04、05年)に次いで3頭目だった。

 快時計で圧勝した昨年と比べると、物足りない印象はあるが、昨年と同じ4番人気(3キロ増のハンデ)で、昨年とは大きく異なる馬場コンディションを克服。逆転でサマーマイルチャンピオンに輝いたのは立派だった。先手主張かと思えたが、トロワゼトワル(全6勝)の逃げ切り勝ちは、高速馬場を読んだ昨年の京成杯AHだけになる。

 これで母の父としての種牡馬ハーツクライの重賞5勝(海外を含む)は、すべてロードカナロア産駒(4頭)との組み合わせとなった。ヌーヴォレコルト(父ハーツクライ)の現2歳の初仔はロードカナロア産駒。リスグラシュー(父ハーツクライ)は、初年度の今年はモーリスを交配され受胎しているが、ひょっとすると次はロードカナロアかもしれない。

 ハナ差2着のスマイルカナ(父ディープインパクト)は、現3歳世代の古馬相手の初重賞制覇を実に惜しいところで逃がしたが、大外からスタートし、終始マークされながら寸前まで粘りに粘った。14キロ増えて424キロとなった身体は数字以上に大きく映り、弾むバネも光った。

 母エーシンクールディ(JRA、公営で計15勝)は今年の新種牡馬エイシンヒカリ(父ディープインパクト)の半姉。スマイルカナは同じ芦毛の叔父とほとんど同じ血統背景を持ち、4-5歳時に本物になったエイシンヒカリと同じような成長カーブを描いてくれるだろう。

 3着ボンセルヴィーソ(父ダイワメジャー)は、ハナ、ハナ差。ゴールの瞬間はついに勝ったかと思わせる勢いだったから、残念。ここまで31戦、1番人気になったことは一度もなく、重賞挑戦9回中、人気より下回った着順は1回だけ。それで【0-3-5-1】。どうしてもあと一歩が足りない成績を残しているが、もうさすがにこの次は名前通りの「いい仕事を」してくれるのではないかと注目したい。

 1番人気のアンドラステ(父オルフェーヴル)は、中山1600mでは有利な内の5番枠。好スタートから少し控えると、外から他馬に来られるたびに首が高くなり、初の中山も気にしたのか4コーナーでは最後方近くに下がっていた。まだキャリア8戦の牝馬。もまれ弱さが出てしまったのは残念だが、気を取り直した直線は脚を使っている。今回は案外の結果になったが、のびのび走れる広いコースに移って巻き返してくること必至。

 1番枠で2番人気のルフトシュトローム(父キンシャサノキセキ)は、ふだんから首の高くなりがちな若い気性が死角だった。前回のNHKマイルCでも馬群に突っ込んで行けなかった。アンドラステと同じようにどんどん下がって4コーナーでは最後方。そして戦意喪失。ふつうは有利な中山1600mの内枠だが、現時点のこの馬には最悪の枠順だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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