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期待にこたえての快勝と、波乱の決着と

  • 2020年09月15日(火) 18時00分

大一番で鮮やかに人気馬を差し切った伏兵


 9月13(日)に地方競馬で行われた2つの重賞、盛岡・青藍賞、高知・黒潮菊花賞は対象的な結果だった。

 青藍賞は7頭立ての少頭数というということもあったが、3連単は1番人気の組合せで配当は410円。一方の黒潮菊花賞は、人気の中心となった2頭ともが掲示板を外し、6→9→3番人気の決着。3連単は49万2500円という大波乱。馬券的には堅すぎたのと大荒れだったのとで難しかったが、どちらも内容のあるレースだった。

 まずは青藍賞。勝ったのはヒガシウィルウィンで、岩手移籍後2連勝。2017年の3歳時に東京ダービー、ジャパンダートダービーの南関東二冠を制し、NARグランプリ年度代表馬に選出された。翌2018年には大井・サンタアニタトロフィーを制したが、重賞制覇はそれ以来2年1カ月ぶりのこととなった。

 岩手転入初戦となった8月1日の準重賞・すずらん賞は、昨年の岩手二冠馬パンプキンズと一騎打ち。直線を向いたあたりではパンプキンズのほうが優勢に見えたが、残り50mあたりでヒガシウィルウィンがようやく振り切り2馬身差をつけての勝利。管理する菅原勲調教師は「レース上がりの息遣いが本物ではありませんでしたが、久々の影響もあったと思います」と、あまり納得できない様子だった。

 そして今回の青藍賞も、ヒガシウィルウィンにとっての相手はパンプキンズ。逃げてペースをつくったパンプキンズに対して、今度は早目につかまえにはいかず、1番枠だったこともあり、ラチ沿いでパンプキンズを前に見る位置でレースを進めた。そして4コーナー、ヒガシウィルウィンは外に持ち出してパンプキンズをとらえると、手応え十分に直線半ばから突き放し、7馬身差をつけての圧勝。3着馬には大差がついた。この勝ち方には菅原調教師も納得だったようだ。

 次走について明言はされていないが、10月12日の南部杯ということになれば、2018年10月の船橋・日本テレビ盃(5着)以来となる中央勢との対戦。一線級との対戦でさすがに勝ち負けまではどうかだが、地元代表としての期待がかかる。

 一方、人気馬共倒れとなった黒潮菊花賞だが、とはいえ凡戦だったわけではない。

 一般的に「いいレースだった」と言われるのは、期待された人気馬同士のガチンコ勝負であることが多い。しかし波乱の決着であっても、人気馬が力を出し切り、たとえ展開に恵まれたのであったとしても伏兵馬がその可能性を信じて勝ったのであれば、いいレースだった、見ごたえのあるレースだった、と言っていいのではないだろうか。

 高知一冠目の黒潮皐月賞を勝ったレインズパワー、二冠目の高知優駿を勝ったリワードアヴァロン、2頭が中心になってのレースと思われた。実際にその2頭がレースを引っ張ったのだが、お互いを意識するあまり、負けたくない気持ちが出すぎる結果となった。

 昨年末に門別から移籍したリワードアヴァロンの、ここまで高知での4勝はいずれも逃げ切り。気性的に難しいところがあるようで、逃げないと気分を損ねてレースをやめてしまうし、とはいえ逃げて直線単独先頭でもソラを使ってレースをやめようとしてしまう。

 リワードアヴァロンにはそれがうまくはまっての勝利となったのが高知優駿。単騎マイペースでの逃げが叶い、最後の直線ではたしかに首を上げてソラを使うような場面はあったがすぐに立て直し、2番手で追ってきたレインズパワーを1馬身半差で振り切った。

 その後、リワードアヴァロンは5着、5着に負けているが、このときは何が何でもという逃げ馬ガンバルンがいたため。今回、そのガンバルンは3日前に笠松で行われた西日本ダービーに遠征し、ここは不在。そして迎えた黒潮菊花賞は、高知優駿と同じ1900mでもあり、リワードアヴァロンの単騎逃げが叶いそうなメンバーになった。

 しかしそれを許さなかったのが、レインズパワーだった。ゲートが開いてリワードアヴァロンが気合をつけてハナに立つと、そうはさせまいとレインズパワーが追いかけた。その場面を映像で確認できたのはほんの一瞬だけ。カメラは徐々に後続馬たちのほうに振られてしまい、次に前の2頭が映ったのは、スタンド前の直線で隊列が決まって流れが落ち着いたあと。その間、どんな駆け引きがあったのかは映像からは確認することができない。

 が、想像はできる。逃げるしかないリワードアヴァロンに対して、それを負かすには楽に逃がすわけにはいかないレインズパワー。しかしほかにリワードアヴァロンにからんで行く馬がいないため、レインズパワーはみずから競りかけていくしかなかった。

 2周目に入って先頭から最後方まで15馬身以上もあろうかという縦長の展開が、3-4コーナーでは一気に凝縮。レインズパワーがリワードアヴァロンをとらえにかかって2頭が先頭で馬体を並べていたが、そこまで。

 3番手を追走してロスなく内を回ってきたペイシャワイルドにも、末脚勝負で後方からまくってきたフルゴリラにも、勝ったと思える場面があった。しかしこれらをまとめて外から差し切ったのが、これまで人気2頭には歯が立たなかったフリタイム。馬はもちろん、デビュー2年目の多田羅誠也騎手にも、厩舎初出走から6年目の工藤真司調教師にも、重賞初制覇となった。

 予想だにしない結果で、当然予想もまったくハズれたが、各馬各鞍上それぞれ勝ちたいという気持ちが伝わってくる見ごたえのあるレースだった。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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