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【神戸新聞杯】はっきりと捉えた父に続く無敗の3冠

  • 2020年09月28日(月) 18時00分

警戒すべきは夏の上がり馬か


 無敗の2冠馬コントレイル(父ディープインパクト)が最後は流すようにトライアルの神戸新聞杯を楽勝し、通算6戦【6-0-0-0】となった。

 これで、無敗【8-0-0-0】のまま菊花賞を制した1984年の3冠馬シンボリルドルフ(父パーソロン)、無敗【7-0-0-0】のまま2005年の3冠制覇を達成した父ディープインパクト(父サンデーサイレンス)に続き、史上3頭目の無敗の3冠馬にリーチがかかった。

重賞レース回顧

写真提供:デイリースポーツ


 落ち着き払ってパドックに登場したシャープなコントレイルを見て、「あれっ、日本ダービー(460キロ)や、皐月賞(462キロ)と比べて成長していないのではないか」といぶかしがる関係者もいたが、数字で分かるような変化がないのは、実は心強い材料だった。

 2歳時より、あるいは3歳の春よりひと回り身体が大きくなって(成長し)、どんどん強くなっていくトップホースは数多く存在する。だが、鍛えることによってずっと理想の馬体を崩さないチャンピオンも存在する。

 ディープインパクトは3冠レースを「444→448→444キロ」。渾身の仕上げで12勝目を記録した引退レースの有馬記念(4歳時)は、3歳時と少しも変わらない438キロだった。

 もう1頭の無敗の3冠馬シンボリルドルフは、3冠レースを「470→476→474キロ」で勝ち続け、4歳秋のジャパンC制覇も多少増えただけの480キロだった。少なくとも3歳秋のコントレイルは、あまり馬体重は変化しない方がいい。完成が早いとかではなく、すでに自身の身体の理想のバランスが整っている可能性がある。

 変化しないほうがタフで丈夫なのは良くあるケースで、ちょっと古いファンなら知っている記録がある。15歳(現表記14歳)春までダートを中心に活躍したミスタートウジン(現役は1988年から2000年)は、2歳秋の新馬戦が518キロ。99戦目の引退レースが520キロだった。

 最近10年間の菊花賞で馬券に関係した30頭のうち、半数以上の「18頭」が神戸新聞杯出走馬。セントライト記念組が「5頭」。そのほかのステップは「7頭」になる。

 神戸新聞杯組は超強気になっていいが、神戸新聞杯組18頭のうち、本番で3着以内に快走した馬のうち「16頭」までは、トライアル神戸新聞杯の「1-3着馬」だった。残る2頭は神戸新聞杯4着と5着馬であり、この2頭は菊花賞でも3着止まりという非常にシビアな記録がある(あくまでたった最近10回だけのことなので参考程度)。

 コントレイルは強気になれる。日本ダービー3着のヴェルトライゼンデ(父ドリームジャーニー)にも、5着ディープボンド(父キズナ)にも、皐月賞、日本ダービーに続いて決定的とも思える差をつけた。皐月賞であまり差のなかったガロアクリーク、サトノフラッグの2頭は、日本ダービーを完敗のあと先週のセントライト記念でも負けて、大きく変わってはいなかった。既成勢力に逆転される危険は少ない。

 これに、過去20年間の菊花賞馬は、日本ダービー出走馬「9頭」に対し、春は皐月賞にも日本ダービーにも不出走馬が「11勝」し、3冠の歴史が大きく変化していることを重ね合わせると、コントレイルが警戒すべきは、セントライト記念のバビット(父ナカヤマフェスタ)、神戸新聞杯で一旦は2着かと思わせたロバートソンキー(父ルーラーシップ)のような春は無名の上がり馬という図式がみえてくる。

 ただ、神戸新聞杯2着のヴェルトライゼンデは、軽い骨折、セントライト記念を発熱で予定変更のアクシデントがあり、まさかぶっつけで3000mの菊花賞はないから、今回はあくまで試走のトライアルだった。道中も無理に動かず、4コーナーでは(通過順の取り方にもよるが)、メイショウボサツ(父エピファネイア)と並んでほぼ最後方だった。そこから外に進路を変えて直線だけ突っ込むレースで2着。上がり35秒4は最速。ほぼ馬なりに近かったコントレイルとの差は大きいが、コース、距離の適性、状態…など、プラス要素が重なるとき、「さすが日本ダービー3着馬。昨年の菊花賞馬ワールドプレミアと酷似する血統背景の弟」というシーンはありえる。

 3着ロバートソンキーは、林調教師が「震えました。ジョッキー(伊藤工真騎手)が完ぺきに乗ってくれた」と絶賛するように、わずか3戦の1勝馬、強敵との対戦もなかったキャリアを考えると驚くべき快走だった。スタートで挟まれて後方追走。リプレイで確認すると、もっとも苦しい位置でずっともまれていたのがロバートソンキー(伊藤工真)だった。4コーナーで前方にコントレイルの姿を見つけると、後を追うように馬群に突っ込んでいる。寸前まで2着もありそうだったその中身は濃い。

 祖母トウカイテネシーは、前出の無敗の3冠馬シンボリルドルフ産駒で、1991年の2冠馬トウカイテイオーの全妹になる。トウカイテイオーは無敗で春の2冠を制しながら、故障のため菊花賞には出走できなかった。ロバートソンキーから数えて8代前の母になるヒサトモ(繁殖名久友)は、日本の名馬物語に登場する1937年の日本ダービー馬。

 繁殖に上がった久友は、第二次大戦後の動乱期だったこともあり再び競馬場にもどり、数戦したのち、1949年の秋に浦和競馬場で急死(心臓麻痺)したとされる。それから30年以上も経って、久友からたった1本の細い糸でつながっていたトウカイミドリからオークス馬トウカイローマンが誕生し、さらにトウカイテイオーが出現した物語は知られるが、ロバートソンキーもまた、たしかに伝説の牝馬ヒサトモの直系子孫になる。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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