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【スプリンターズS】他馬を圧倒したラスト200mの爆発力

  • 2020年10月05日(月) 18時00分

モズスーパーフレアの敗因に見る今年の馬場の特殊性


 芝コンディションの差など問わなかったグランアレグリア(父ディープインパクト)の、圧倒的な強さが浮き彫りになるレースだった。馬場の整備方法が変わりつつある最近10回(中山)の良馬場ではもっとも遅い1分08秒3 (昨年は1分07秒1、レコードは2012年ロードカナロアの1分06秒7) の勝ちタイムなのに、2着ダノンスマッシュ(父ロードカナロア)につけた2馬身差は、最近10回の中では最大の着差だった。

重賞レース回顧

写真提供:デイリースポーツ


 初の1200m挑戦だった3月の高松宮記念(重馬場)は、前半は流れに乗れず「35秒6-33秒1」=1分08秒7。今回も行き脚もう一歩で「34秒7-33秒6」=1分08秒3。このスプリンターズSの内容は、2003年に後方一気を決めたデュランダル(父サンデーサイレンス)の前後半バランス「34秒9-33秒1」=1分08秒0と似ているが、数字とは別に、その迫力はグランアレグリアのほうが一枚も二枚も上だった。

 グランアレグリアの今回の上がり33秒6の中身は「11秒5-11秒6-10秒5」に近いのではないかと推測される。C.ルメール騎手が「きょうは本当に信じられない」と振り返ったのは、この最後の200mの驚異の爆発力だった。

 これで種牡馬ディープインパクト産駒は、芝のGIが組まれている全8通りの距離のGIを制したことになった。また、今年の牝馬陣は牡馬相手のGIを年間に5つ制したことになり(最多タイ)、このあとの活躍しだいで史上最多の6勝以上もありえる。

 またひと回りたくましくなって、今回は504キロでパワフルなスピードを爆発させたグランアレグリアは、2歳夏の新馬戦は458キロだった。そのデビュー戦も含め約4カ月以上のレース間隔がある場合は【5-0-0-0】。それ以下の短い間隔だと【1-1-1-1】。アーモンドアイとそっくり同じように、シーズンごとの目標のGIで全力発揮の牝馬となった。

 シャタリング(地盤を軟らかくする作業)の時期を変更したとされる秋の中山は、あまりにも難しい芝コンディションだった。同時開催の中京よりクッション値は高い数値(やや硬め)の連続なのに、馬場の内側がすぐボコボコした状態になり、例年以上に大きくタイムを要する。スプリンターズS当日も昼休みなどに芝状態を再確認する騎手が見られた。

 この影響をもっとも大きく受けたのが2番人気のモズスーパーフレア(父Speightstown スペイツタウン)だった。ダッシュを利かせ「11秒9-10秒1-10秒8→」=32秒8の前半3ハロンは、「11秒9-10秒1-10秒8→」=32秒8の昨年とまったく同じ。

 だが、ゲート入りを拒み6分以上もスタートを遅らせたビアンフェ(父キズナ)が、興奮おさまらずちょっとムキになって競りかけてきた展開に、内側のボコボコした馬場が重なり、後半は36秒5(昨年は34秒4)にまで失速することになった。モズスーパーフレアは、得意の中山の芝では「32秒3-34秒8」=1分07秒1もあれば、「32秒8-34秒2」=1分07秒0の記録もある前半に果敢にリードするスピード型。

 昨年のスプリンターズSは「32秒8-34秒4」=1分07秒2だった。今年は、昨年より一段とパワーアップした素晴らしい状態とみえたから、モズスーパーフレア失速の最大の要因は、同じ良馬場発表なのに「1秒2」も異なる勝ちタイムとなった芝コンディションの違いだろう。みんな馬場の内が良くないのは分かっていたので、「直線は4、5頭ぶん外に出す予定だったが、他馬がいて出せなかった(音無調教師)」。

 1番人気のグランアレグリア、2番人気のモズスーパーフレアが思わぬ展開になったのと同様に、3番人気のダノンスマッシュ(父ロードカナロア)も出負けする誤算。ただし、最初の1ハロンでロスを最小限にとどめたあと、レース中盤で無理に動かずスタミナ温存。自身のバランスは「33秒6-35秒0」=1分08秒6。この日の馬場ではこれ以上はない内容になったが、グランアレグリアが最後に発揮した能力が素晴らしすぎた。ほぼ理想的に乗ったダノンスマッシュの走破タイムは昨年の3着時より「1秒4」遅い。勝ちタイムの差と平衡して、自身の中身は昨年とほぼ同じだったといえる。

 4着ミスターメロディ(父Scat Daddy スキャットダディ)は、うまく前半なだめて追走し「33秒8-35秒0」=1分08秒8。坂を上がった地点では勝って不思議なかったが、あれ以上は外に回れないから、最後に少しだけ脚いろが鈍った。

 3着アウィルアウェイ(父ジャスタウェイ)は、道中離れた最後方に置かれた。スプリンターズSであれだけ置かれた馬が快走するのは珍しく、自身の前後半は並んでゴールしたミスターメロディとまったく逆バランスの「35秒0-33秒7」=1分08秒7。低評価を上回る快走は賞賛に値するが、今年のスプリンターズSがかなり特殊な1200mだったことを示す典型的な内容でもあった。

 2番人気のモズスーパーフレアだけでなく、4番人気のレッドアンシェル(父マンハッタンカフェ)、5番人気のダイアトニック(父ロードカナロア)、6番人気のライトオンキュー(父Shamardal シャマーダル)も、みんな物足りない結果に終わってしまったが、各馬ともにまさか自身の走破時計が1分09秒台にまで落ち込むとは思ってもいなかったろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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