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【秋華賞】デアリングタクトの強さだけが光った

  • 2020年10月19日(月) 18時00分

遅れて頭角を現した各馬のこれからも非常に楽しみ


 圧倒的な支持を集めたデアリングタクト(父エピファネイア)が、ほとんど危なげないレース運びで史上初の「無敗の牝馬3冠馬」に輝いた。

 かつてのエリザベス女王杯2400m当時の牝馬3冠馬メジロラモーヌ(1986年)を別にすると、秋華賞2000mが1996年に創設され、現在と同じ牝馬3冠の形ができて今年で25回。牝馬3冠のかかった春の2冠馬はここまで6頭が出走し【5-0-1-0】。2009年の3着馬ブエナビスタはハナ差2位入線降着なので、春の2冠牝馬は秋華賞でほぼパーフェクトに近い成績を残したことになった。未知の距離ではないとはいえ、すごいことである。

 この25年間に誕生した3冠制覇の牡馬は2005年ディープインパクト、2011年オルフェーヴルの2頭だけ。今週【6-0-0-0】のコントレイル(父ディープインパクト)は、父と同じ7戦無敗の3冠馬に挑戦することになる。

 完勝したデアリングタクトは、これからもっと強くなる。パドックでは必要以上の気負いを避けるため、少し離れた最後方で少しチャカチャカしていた。スタートは速くはなかったが、もまれない外枠から1コーナー通過はゆっくり後方6番手。松山弘平騎手は周囲に気を配りながら少しも慌てず、最初からリズムに乗った。1コーナー手前でアップになった中継画面を見て、位置は後方でも、多くのファンが勝利を確信したことだろう。

 そこから外に回ると、4コーナーでオーマイダーリン(父ディープインパクト)などが外から並びかけてきたが、それまではずっと馬群の外キープ。不測の不利だけを警戒していた。スパートを待ったため4コーナーでは横に7-8頭が並んだが、余力十分。抜け出すときに小さく激励のムチが軽く入ったように見えたが、1馬身4分の1(0秒2)差以上の完勝だった。無敗の3冠がかかっていたのに、目いっぱいの内容ではない。同じく5戦目で勝った1996年のファビラスラフインは続くジャパンCをハナ差2着。2002年のファインモーションは続く古馬相手のエリザベス女王杯を制している。2006年のカワカミプリンセスも、結果は降着ながら次走のエリザベス女王杯を1位でゴールしている。

 落ち着いた騎乗で、文句なしの無敗の3冠制覇に貢献しながら、「馬ががんばってくれた。馬におめでとうと言いたい」とコメントした松山騎手に賞賛の拍手が聞こえた。

 初夏のオークスからの直行で勝ったのは2018年アーモンドアイ、2019年クロノジェネシスに次いで3年連続、史上5頭目。まだ消耗などない。アーモンドアイや、クロノジェネシスと同じようにこれからのGI路線で大活躍してくれるだろう。

 デアリングタクトは、父エピファネイア、その母シーザリオ(父スペシャルウィーク)を通して大種牡馬サンデーサイレンスの血を受け、現在、急速に増えているサンデーサイレンスの血量「4×3」の最初のGI馬。同じように3代前にサンデーサイレンスが登場するモーリスにもサンデーの「4×3」型が非常に多い。近年は苦もなく、さらには意図しなくてもサンデーサイレンスの「3×4」「4×3」などの配合が可能なので、やがてはキングカメハメハのクロスもごく普通になり、この2頭はこのあと10-20年後には、現在、クロスのない血統図を探すのが難しいノーザンダンサーや、ミスタープロスペクターのようになるのだろう。種牡馬モーリスはノーザンダンサーの「5×5×4×5」であり、先日の凱旋門賞を制したSottsassソットサス(FR)は5大血統表に現れる範囲だけでも、ノーザンダンサーの「5×5×4」、ミスタープロスペクターの「5×5×5×5」になる。

重賞レース回顧

史上初の無敗の牝馬3冠馬となったデアリングタクト(c)netkeiba.com


 2着マジックキャッスル(父ディープインパクト)の評価復活の快走には、「さすが牝馬3冠のアパパネ、アーモンドアイの国枝調教師」。納得の声があった。関東馬6頭の中で関西への遠征経験があったのは、マジックキャッスルなど3頭。近年はみんな初遠征の初コースなど平気とされるが、初遠征にプラスがないのは事実である。

 大野拓弥騎手の好騎乗も光った。前半1000m通過地点でデアリングタクトが少し動いて順位を上げたとき、デアリングタクトだけに目標を絞ったマジックキャッスル(大野)は、4コーナーを回るまでずっと勝ち馬と同じ進路を直後でマークして回った。4コーナーでも外に振られることなく、直線はデアリングタクトのすぐ内に突っ込んでいる。

 3着ソフトフルート(父ディープインパクト)は、上位馬の中では2つのトライアルも、春のクラシック2冠も不出走の別路線。いきなりの相手強化に最後方に置かれてしまったが、上がり最速の35秒7で突っ込んでの3着は立派。決して前後半「59秒4-61秒2」=2分00秒6の先行馬総崩れの展開に乗じての快走ではなかった。4コーナーでは並んだ馬群の一番外に回らなければならないコースロスがあった。直前の10R「大原S(3勝クラス)1800m」で、秋華賞を無念の除外となったレイパパレ(父ディープインパクト)の馬なりのまま1分46秒3の勝ちっぷり(4戦4勝)も素晴らしかったが、レイパパレも既成勢力とはまったく別路線の上がり馬。

 3冠馬が誕生するには、「同期のレベルが必ずしも高くないことも関係する」という世代はたしかにあるが、ソフトフルート、レイパパレなどはたちまちデアリングタクトのライバルに成長して不思議ない。パラスアテナ(父ルーラーシップ)は、クビの上げ下げで惜しい4着だったが、この馬も春のクラシック組ではなく、テン乗りで初遠征の関東馬。5着したミスニューヨーク(父キングズベスト)も、6着のオーマイダーリン(父ディープインパクト)も春のクラシック組ではない。デアリングタクトの強さだけが光った秋華賞ではあるが、少々遅れて頭角を現した3歳世代牝馬のこれからが非常に楽しみになった。

 期待された2番人気のリアアメリア(父ディープインパクト)は、押して好位に取りつき前走と同様の正攻法のレースになったが、4コーナーを回って失速。渋馬場が応えた一面もあるが、パドックで若い3歳馬らしいみなぎるような覇気がなかった。古馬牝馬だと、少しピーク過ぎに近いような枯れた状態がかえって好結果をもたらすこともあるが、落ち着いた好気配と、覇気の乏しさは紙一重。前回の快勝で復活なったとみえたが、休み明け快走の反動があったのだろう。

 そのリアアメリアもそうだが、4番人気のマルターズディオサ(父キズナ)、強気に先行したウインマリリン(父スクリーンヒーロー)、少々馬体が立派すぎたミヤマザクラ(父ディープインパクト)など、先行したグループは総崩れ。10Rのレイパパレが直線に向くとあえて馬場の中央まで出したように、前半からずっと馬場の内側を通った先行グループは全滅。パトロールビデオで確認すると、上位7着馬まで、最後の直線は馬場の真ん中より外に回った馬だけだった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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