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【岡安譲アナ×川島壮雄アナ】9年ぶりの牡馬三冠中継! カンテレ名実況の系譜

  • 2020年10月22日(木) 18時02分
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▲オルフェーヴルの三冠実況を担当した岡安譲アナウンサー(左)と今年の菊花賞で実況を担当する川島壮雄アナウンサー(右) (撮影:桂伸也)


いよいよ今週末、ディープインパクト以来、無敗の三冠馬が誕生するか注目が集まります。スポットライトを一身に浴びるのはコントレイル。大きな期待を背負って菊花賞を迎えますが、コントレイル陣営以外でプレッシャーを感じている人がいます。それは、実況アナウンサー。民放テレビ局で唯一、菊花賞の実況を担当するのが関西テレビ放送(本社:大阪市)で、今年は川島壮雄アナウンサーが担当します。

実は、菊花賞を実況すること自体が初めてだという川島アナ。「昨年末のホープフルSの時から、菊花賞実況のことばかり考えて生活してきました」という川島アナウンサーと、オルフェーヴルの三冠達成の瞬間を実況した先輩・岡安譲アナウンサーによる対談を特別敢行! 喋るだけじゃない、実況アナウンサーの素顔が見えてきます。(聞き手・構成:大恵陽子)

杉本清アナ、馬場鉄志アナ…カンテレ競馬実況の系譜


――まずはお二人の競馬との出会いを教えてください。

岡安譲アナウンサー(以下、岡安アナ) 元々アナウンサー志望でしたが、競馬には全く興味がなくて武豊さんの漢字すら読めなかったくらいでした。

 ところがある時、友達が「アナウンサーになるんだったら、一度、関西のあるアナウンサーの競馬実況を聞いた方がいいよ」って言ってくれて、それで見たのが杉本清さんの「それゆけテンポイント! ムチなどいらぬ、押せ!」という実況が収録されたビデオなんです。そこからハマって、その年にナリタブライアンが三冠を獲ったんですよ。

 今度は杉本さんがリアルタイムで喋っているのを聞くことができて、「これはすごい世界だ」って思ったのが、競馬との出会いであり、関西テレビを志すきっかけであり、競馬アナウンサーを志すきっかけでありました。入社する時の自己紹介文に「カンテレに入ったのは競馬の実況をしたいためで、三冠を実況するのが夢です!」と書きました。

川島壮雄アナウンサー(以下、川島アナ) 僕は小学生の頃、ダービースタリオンが流行っていてゲームから競馬に入って、サラブレッドカードを友達と集めていました。ちょうどマヤノトップガンやサクラローレルの世代で、マヤノトップガンは初めて見た時にカッコよくて栗毛の馬体が綺麗で、そのカードがすごく欲しくて、何枚も何枚も買ってようやく当てました。今でもマヤノトップガンのカードはプラスチックのファイルに入れて綺麗に保管しています。

――岡安アナウンサーは埼玉県、川島アナウンサーは神奈川県のご出身ですが、「関西に来ないと三冠の実況ができない」というのは意識しましたか?

岡安アナ それでも関西に来なきゃいけないと思いました。

川島アナ 思いましたね。怖い所に行かなきゃいけないって思いました。

岡安アナ 大丈夫? いま、大阪の人を敵に回したよ(笑)?

川島アナ 当時ですよ、当時(笑)! 今は全くそんな印象を持っていないですけど、関東から出たことのない人間からすると、大阪って本当に遠いというか、外国に行くようなイメージで一大決心でした。

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▲岡安「いま、大阪の人を敵に回したよ(笑)?」川島「当時ですよ、当時(笑)!」(撮影:桂伸也)


――関西テレビには「菊の季節に桜が満開」(1987年菊花賞サクラスターオー)や、「今年もあなたの、そして私の夢が走ります」(宝塚記念恒例コメント)など、数々の名セリフを残した杉本清アナウンサー、「世界のホースマンよ、見てくれ! これが日本近代競馬の結晶だ」(2005年菊花賞ディープインパクト)の馬場鉄志アナウンサーなど、競馬ファンにお馴染みの実況アナウンサーが多く在籍されました。

岡安アナ 杉本さんは97年2月に定年退職なさって、その年の4月に僕が関テレに入りました。初めて仕事で競馬場に行った時に目の前で実況してくださって、「自分のやつを何回も繰り返し聞いて、自分の悪い所を探していく。この繰り返しや。この気持ちをいかに切らさずにできるか、それが大切や」って教えてくださったのが最初で最後のアドバイスです。

 杉本さんとか馬場さんとか、うちの先輩は「これ、どう思いますか?」って、教えを請いに行かないと、教えてくれず、いいものは盗めってタイプでした。

川島アナ 僕も馬場さんから実況のやり方は全く教わらなかったです。馬場さんはとても表現力が豊かで、「どうやったらこんなフレーズを思いつくんだろう?」と聞いたことがあるんですけど、「とにかくたくさん本を読みなさい」と言われました。

岡安アナ 馬場さんが常々おっしゃっているのは、「アナウンサーに必要なのは、感性と教養です」と。教養の部分で、本を読まないといけないし、映画も見ないといけないし、旅をしないといけない。でも、教養だけで凝り固まっちゃわないで、空気を感じることが必要だって。馬場さんの季節の移ろいとかの表現は本当にもう、しびれるんですよね。

 だから、いかにこの感性を鈍らせないようにするかが大事で、僕も桜花賞の前はどんなに忙しくても桜は見に行ったし、菊花賞の前も、いまちょうど香っていますよね、キンモクセイの香りは嗅ぎに行きました。競馬って自然の中で行われているので、自然の息遣いは感じようかな、とは思いましたね。

酒を飲んだ時のフレーズはやめた方がいい(笑)


――岡安アナウンサーはオルフェーヴルが三冠を達成した菊花賞を実況しました。その時はどんな感性を研ぎ澄ませながら準備をしていたんですか?

岡安アナ あの時は2011年なんですよ。皐月賞くらいまでは日本が競馬どころじゃないよなって空気だったと思うんです。それが徐々に立ち直っていった日本全体の社会的空気感っていうのかな、そういうのも一応感じようとはしましたね。で、オルフェーヴルの菊花賞でどこかで言いたかったんですけど、まぁ、オルフェーヴルにぶっ壊されたという……。

川島アナ ゴール後に(苦笑)。

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▲岡安「日本全体の社会的空気感を感じようと。まぁ、オルフェーヴルにぶっ壊されたという……」(撮影:桂伸也)


――1〜2コーナーでジョッキーを振り落としましたものね。

川島アナ 僕はアーモンドアイが牝馬三冠を達成した時に実況をさせてもらいましたけど、桜花賞の実況が自分の中ではそんなに上手くいかなくて、秋華賞ではもっといい表現をしたいと思って、桜花賞が終わってからずーっと考えていました。生活の中心というか。

岡安アナ 分かる! 新聞を読んでいても、ニュースを見ていても、「あ、これだ!」と思ってメモしたりとか。

川島アナ 携帯にメモしたり、お風呂に入っている時にポッと浮かぶ時があるので、すぐそばにメモ帳を置いています。

岡安アナ 逆に、酒を飲んだ時に思いついたのはやめたほうがいいです(笑)。

川島アナ あと、夜とかね。気持ちが何か違いますよね。朝見ると、「なんでこんなこと思いついたんだろう? これは使えんな」っていうのがありますからね。いま、コントレイルに関してもやっていて、お風呂に入る時は横に手書きのメモ帳を置いています。

 ホープフルSまでの3戦も印象的で、ホープフルSが終わった後から「これは三冠馬になる可能性があるな」と思ったんです。アーモンドアイよりさらに長く、年末くらいから(フレーズを)ずっと考えています。

岡安アナ 今年の菊花賞は川島君が喋るって去年にはほぼ決まっていたんだよね。川島君がコントレイルを呼んできたって感じですね。

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▲川島「ホープフルSが終わった後から“これは三冠馬になる可能性があるな”と。年末くらいからずっと考えています」(撮影:桂伸也)


「外からダービー馬が襲ってくる」とか初GIで言えません


――おふたりとも栗東トレセンで取材もされています。そこで感じたことで実況に生かしていることなどはありますか?

岡安アナ トレセンでは馬に会いに行くことを大事にしています。競馬って機械じゃなくて動物が走るので、「可愛いなぁ」とか「この馬、こういう仕草なんだ」とか、そういった温度感を感じたいんです。馬を見て、例えばオルフェーヴルだったら「当てはまる言葉ってなんだろうな」って。

川島アナ 担当の調教助手さんが一番間近でその馬を見ているので、報道では出ていない馬の一面を知ると、こちらも愛着が沸きますね。今年、『競馬BEAT』でシャンプーハットのこいでさんがコントレイルの取材で大山ヒルズに行ったので、僕もついて行かせていただきました。

 コントレイルがすごくリラックスしていて、走りの凄さとは結びつかないんです。「オンオフの切り替えが上手」って陣営の皆さんもおっしゃっていますけど、まさにその通りだなと感じましたし、それでいて黒くて綺麗な馬体でした。テレビとか写真とは違って、生の色というか、空気を感じることができました。

岡安アナ 彼のいいところは、何より競馬が好きというところですね。あと、馬券も。

川島アナ 馬場さんから「馬券を買って身銭をきらなきゃ覚えへんで」って教わりました。岡安さんはエンターテイナーで、どのレースも岡安さんが喋ると華やかになります。GIの初実況はいつですか?

岡安アナ 2007年、ダイワスカーレットが勝った秋華賞。

川島アナ 初めてで「外からダービー馬が襲ってくる」とか言えません。

岡安アナ エンターテイナーって言ってくれるのはすごく嬉しいです。僕の場合は杉本さん、馬場さん、石巻ゆうすけさん、大橋雄介さんがいらして、争いに勝たないとGIを喋れないっていうのがあったので、常に「何か言ってやろう」とスケベ心がありました。今でも、平場のレースであっても勝負を捨てたらダメだと思っています。

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▲岡安アナのGI初実況となった07年秋華賞「ダイワスカーレット踏ん張るか。外からダービー馬が襲ってくるー!」(c)netkeiba.com


川島アナ すごいですよね。それってすごく勇気がいると思うんですよ。自分の実況で「ちょっと違うことが言えたかな」と思って見返してみても、「普通のこと言ってるなぁ」って自己嫌悪に陥ります。いき過ぎると、自己満足の実況になってしまいますしね。

主役の馬を立たせる表現を―


――いよいよ菊花賞が1週間後に近づいてきました(※取材日:10月16日)。川島アナウンサーは今年、菊花賞を初実況にして三冠達成もかかります。いま感じるプレッシャーを1から100で表すと?

川島アナ 100を超えるプレッシャーがあります。早く喋りたいって気持ちの時もあるんですけど、時間が経つと「まだ来ないでくれ」って、いろんな気持ちが渦巻いて情緒不安定です。コントレイルという馬だけじゃなくて、お父さんのディープインパクトがいたり、京都競馬場が改修工事に入ることがあったり、お客さんが少しずつ帰ってきましたけど、今年は無観客が続いたり…。

岡安アナ いろいろあるよね、今年は。デアリングタクトが無敗の牝馬三冠達成した翌週かもしれないし(※18日に達成)。

川島アナ いろいろありすぎて、気を抜くと頭がパニックになってしまうので、一つずつやっていこう、と意識しています。

岡安アナ いろんな選択肢がありすぎて、どの表現をチョイスしていくか、非常に難しい菊花賞だと思うんです。ここでいいものをポンと出したら、“川島帝国”になりますよ。

川島アナ 恐ろしいです。GIの前に、こんな取材もないですもんね。僕たちアナウンサーに「お気持ちを聞かせてください」だなんて。

岡安アナ 菊花賞って“クラシック”なので、他のレース以上に荘厳なんですよ。馬たちにとっても初めての3000m。おそらく最初のスタンド前で引っ掛かる馬もたくさんいるだろうから、そこでコントレイルの様子を常にチェックしながら実況者がどう表現するかですね。オルフェーヴルの時もスタンド前で掛かったもんなぁ。

川島アナ 3歳牡馬たちと一緒に初めての3000mなので、コントレイルについていくような実況をお届けできればなと思います。

 GIレースについて、ジョッキーの方を含めて日本で1、2を争うくらいそのことを考えていると思うので、ともすれば「これくらい皆さん知っているでしょう」という目線で喋りがちなんですけど、蓋を開けてみると説明が足りないとか、先にいき過ぎていたということがあるので、また原点に立ち戻って皆さんと一緒の目線に立って喋れるかが難しいところでもあります。

岡安アナ 彼の良さの一つは、的確な描写だと思います。馬を取り違えることはほぼないですし、良くも悪くも敵を作らない実況。嫌味がない実況なので、聞きやすいと思いますし、レースに入っていけると思います。

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▲今年の菊花賞実況の“聴きどころ”は…「彼の良さの一つは、的確な描写。嫌味がない実況なので、聞きやすいし、レースに入っていける」(撮影:桂伸也)


川島アナ 主役は馬なので、自分の考えてきたことを押し付けにならないように、馬を立たせられるような表現ができればと思います。

岡安アナ 緊張するなっていうのは無理な話なので、大いに緊張したらいいんじゃないですか。しかし、今年は静かなる緊張だね。僕の時(2011年菊花賞)でさえ、6万8000人が入っていて、大歓声でちょっと緊張がほぐれましたけど、無観客は喋っていてもシーンとしていて、スベっているみたいな感じになるんです。

川島アナ お客さんは入っていますが声は出せませんから、直線も静かなわけじゃないですか。どんな感じになるんだろうって思います。

岡安アナ 大丈夫ですよ。もし失敗したら、責任を取って来年から私が実況をします(笑)。

川島アナ そうなっちゃいますから(苦笑)。先輩たちの背中を見てきたので、自分を信じてやるのみだと思います。

■『競馬BEAT』第81回菊花賞(GI)
午後2時40分〜4時00分放送(※一部地域除く)

出演者:杉崎美香、川島明(麒麟)、坂口正大(元調教師)、高橋賢司(競馬エイト)ほか
ゲスト解説:岡部幸雄(元騎手)
実況担当:川島壮雄アナウンサー(カンテレ)

(了)

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