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【天皇賞・秋】歴史に残る大記録を達成したアーモンドアイ

  • 2020年11月02日(月) 18時00分

天才牝馬はエネルギー充電満タン時に能力を発揮するタイプだ


 5歳牝馬アーモンドアイ(父ロードカナロア)の、史上初の芝GI8勝の歴史的な記録が達成された(海外を含む)。

重賞レース回顧

史上初の芝GI8勝馬となったアーモンドアイ(撮影:下野雄規)


 芝GI8勝(牡馬との混合GI4勝)となったアーモンドアイの大きな特徴は、この日対決した5歳フィエールマン(父ディープインパクト)、さらには1歳下の4歳牝馬グランアレグリア(父ディープインパクト)と同じように、狙いを定めたビッグレースを「休養明け」で勝つこと。これで3カ月以上の休み明けは【7-0-0-0】となった。

 実戦に向けた調教技術の大きな進歩、可能な限り活力の消耗を避ける出走ローテーション向きであると同時に、とくに牝馬アーモンドアイの場合は、エネルギー充電の状態でこそ秘める能力全開に結びつくタイプだった。人気で負けた2019年の安田記念、有馬記念。今年2020年の安田記念は、ことごとく休養明けを激走したあと3カ月以上の間隔を空けない休養明け2戦目だった。

 この秋の大きな展望とした芝GI8勝目を達成したアーモンドアイは、したがって、このあとどのレースに出走するかは、この後のアーモンドアイ自身の体調の見極めが何よりも大切になる。負けた前出の3戦、それこそ細心の注意を払い、多くの関係者が「大丈夫。まず心配ない」と判断しての出走だった。しかし、激走の反動に加え、最初から目標にしてきた一戦ではない微妙なローテーションが関係し、結果は思わしくなかった。

 レース後の振り返りで多くの記者が安堵していた。「ここで勝って歴史に残るGI8勝が達成されて良かったのではないか」と。もし負けていたら、まだまだ大丈夫となって、ジャパンC、あるいは有馬記念、香港Cに出走することになるだろう。でも「それでは結果は出ない危険が大きい」という見方だった。

 コントレイル、デアリングタクトが出走する予定のジャパンCに出走し、夢のような対戦が実現して欲しい、と多くの関係者やファンが考えているのは間違いない。陣営から、ここ2週くらいで予定が公表されるだろう。

 負けてはならない今回の天皇賞(秋)。好スタートから好位の外につけたアーモンドアイは、前後半の1000mに3秒2もの差が生じたスロー「60秒5-57秒3」=1分57秒8の難しい流れに、C.ルメール騎手は完ぺきに乗った。直線残り400mまで追い出しを待ち、4コーナーからの3ハロンは推定「10秒8-10秒9-11秒4」=33秒1でまとめている。

 明らかに追い詰められたが、半馬身差とはいえゴールの位置は最初から決まっているから、それは上がり32秒7で猛然と伸びたフィエールマンと、さらにクビ差まで32秒8で差を詰めたクロノジェネシス(父バゴ)を賞賛すべきで、アーモンドアイの完勝である。

 ただ、珍しく見せたルメールの涙は、天才牝馬アーモンドアイとともに歴史に残る大記録を達成した感激だけでなく、勝った、アーモンドアイが負けなくて良かった。アーモンドアイと二人のレースが完結した喜びの涙のようにも見えた。

 レースの流れも、相手も異なるが、1分56秒2の快時計でインから抜け出して3馬身差完勝の昨年の天皇賞(秋)で、ルメールが気を抜くなと使ったムチは2発だった。

 2分20秒6の驚異のレコードで、キセキ(父ルーラーシップ)を捕らえた2018年のジャパンCでは、まだ気を許してはいけないと、間を空けつつ叱咤のムチ4発だった。4馬身差で圧勝の今春のヴィクトリアマイルはノーステッキだった。

 今回の天皇賞(秋)では、内に寄るのを矯正のムチを合わせ、必死のムチが6回入っている。予測されたスローの流れで、理想の位置から抜け出したが、昨年よりタイムのかかる芝コンディションとはいえ、アーモンドアイは実際には非常に苦しいレースだったのではないか。少なくとも楽勝だった昨年の天皇賞(秋)より、また、楽々と抜けた今春のヴィクトリアマイルよりずっと厳しい内容だった。何事もなかったようにアーモンドアイの活力が戻ることを期待したいが、激走型のアーモンドアイは思われるほどタフでしたたかな馬ではないような気もする。

 2番人気のクロノジェネシスは、フィエールマンと並んでのスタートの瞬間、2頭ともに両脇が狭くなったところがあり、「取りたい位置が取れなかった(北村友一騎手)」のが痛かった。後半はスムーズに外からスパートして、勝ち馬を上回る上がり32秒8。ぴたっとマークできる展開なら、もっときわどかったろう。ただ、あまりにもスローになったレースの流れがクロノジェネシス向きではなかった印象はある。まだ4歳。アーモンドアイ、フィエールマンとわずか「半馬身、クビ」差。宝塚記念を独走した総合力で、このあとはどのビッグレースでも主役の1頭となる。

 クロノジェネシスの快走で、今年行われた古馬の牡牝混合の芝のGI7競走のうち「高松宮記念1、2着、大阪杯1、2着、安田記念1、2着。宝塚記念1着。スプリンターズSは1、3着、天皇賞(秋)も1、3着」。早くも年間最多の6勝となった。男馬と混合戦での「牝馬のGI年間勝利数記録」はまだ伸びるかもしれない。

 2着フィエールマンのゴール寸前の伸びは、驚くほど鋭かった。春とは一転、中距離レース向きのシャープな馬体に仕上げた陣営の手腕は素晴らしい。手塚調教師が考えていた以上の中距離適性を爆発させたと思える快走だった。たしかに息の長い末脚発揮可能な東京コースも合っていた。

 スタートで少し挟まれ、直線に向いてからは前にスペースができるのを待つ瞬間もあったように思える。ジャパンC向きと思えるが、間隔を取ったほうがいいタイプでもあり、他馬との兼ね合いもあり次走は有馬記念の公算が高いが、中山の2500mなら守備範囲だろう。有馬記念に注目したい。

 3番人気のダノンキングリー(父ディープインパクト)は、のびのび映る好気配だったが、予想以上のスローペースのためか、好位にいながら行きたがっていた。スローで先手を奪った大阪杯(前半1000m通過60秒4)も案外の内容で差されたように、緩い流れだとリズムを欠いてしまうのかもしれない。本来の走法ではないと判断、直線はムリせずに止めている。まだ4歳。日本ダービー2着馬であり、心身の充実を待ちたい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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