この勝利で今後の展望は大きく広がった
人気の分散した18頭立てのハンデ戦を制したのは、日本ダービートライアル「青葉賞」2400mをレースレコードで制しながら、剥離骨折のため本番に出走できなかった3歳牡馬オーソリティ(父オルフェーヴル)だった。
史上5頭目の3歳馬でのアルゼンチン共和国杯制覇となったオーソリティ(撮影:下野雄規)
決して調教の動きは悪くもなかったが、陣営は「長期の休養明け。中間は折り合い難をみせるなど、初の古馬相手だけに...」など、あまり強気ではなかったうえ、大外18番を引いたため3番人気にとどまった。だが、好スタートから巧みに流れに乗せたC.ルメール騎手の好騎乗もあり、ただ1頭の3歳馬ながら最後まで脚さばき衰えず完勝。馬場差があったとはいえ、4週後の日本ダービーの時計を1秒1も上回る2分23秒0で東京2400mの青葉賞を勝った秘めるスケールを見せつけた。
グレード制導入の1984年から秋シーズンになったアルゼンチン共和国杯を制した3歳馬は「1984年メジロシートン、1994年マチカネアレグロ、1997年タイキエルドラド、2017年スワーヴリチャード」に次いで5頭目。近年の勝ち馬では、やがてGI大阪杯、GIジャパンCを勝ったスワーヴリチャードの7戦目より少ない、まだ6戦【4-0-1-1】のキャリアの勝ち馬になる。このあとの展望は大きく広がった。
母ロザリンド(父シンボリクリスエス、母シーザリオ)は、種牡馬として評価急上昇エピファネイア(10歳)の1歳下の全妹。シーザリオ産駒の牡馬(エピファネイア、リオンディーズ、グローブシアター、サートゥルナーリア)の大活躍は知られるが、牝馬を通した孫世代からもGII2勝の活躍馬が登場したことにより、シーザリオ(母キロフプリミエール)のファミリーはさらに大きく繁栄するだろう。
父オルフェーヴル(12歳)は、15年生まれの初年度産駒(今週のエリザベス女王杯出走予定ラッキーライラック、皐月賞馬エポカドーロ、サラス、ロックディスタウンなど)を輩出したあと、ちょっと産駒が伸び悩んだ。そのため2019年の種付け頭数は52頭にまで激減して心配されたが、早めに頭角を現したオーソリティ、シャインガーネット...など2017年生まれの産駒の活躍により、今春2020年の交配数は3倍増の165頭。
かつて、シーザリオの父スペシャルウィーク(父サンデーサイレンス)も同父系があふれた数年目に種付け頭数が半減したことがあり、評価を取り戻したあとに、ブエナビスタ、トーホウジャッカル、リーチザクラウンなどの活躍馬を送り出した経緯がある。オーソリティの台頭を喜んだのは関係者だけではない。オルフェーヴルと、スペシャルウィーク(2018年没)だったかもしれない。
レースの流れは、前後半バランス「1分12秒2-(6秒4)-1分13秒0」=2分31秒6。飛ばす形になったミュゼエイリアン、オセアグレイトは少し速かったが、楽々と3番手を進んだオーソリティの前後半1200mは推定「1分13秒0-(6秒4)-1分12秒2)=2分31秒6(自身の上がり34秒4)。中盤に流れの緩む部分もあってレース上がりは「34秒9」。大半の馬が内を避けた今年の芝コンディションからすると、勝ちタイムはほぼ標準。中間地点では先頭から最後方グループまで30馬身はあろうかというタテ長の隊列になったが、最初から控えたグループは、ちょっと流れ(ペース)を読み間違えたかもしれない。めったに後方一気が決まらない流れの多くなった過去8年のアルゼンチン共和国杯(東京2500m)のレース上がり平均は「34秒48」。今年もスタミナ勝負の35-6秒台にはならなかった。
2着に突っ込んだラストドラフト(父ノヴェリスト)は、久しぶりの東京だったためかちょっと落ち着きのない素振りで、馬体も少し細く映った。だが、中団の前寄りでうまく折り合い、初の2500mながら上がり34秒2で伸び、6番人気にとどまった低評価をくつがえす好内容だった。
1月のAJC杯2200mでは、4コーナーで外に振られ脚を余すように3着に突っ込んでいる。今回のような2400m前後のレースが合っている。3歳、4歳馬が上位3着までを独占したこのレース結果は、未来へ続くだろう。
3着に突っ込んだ4歳サンアップルトン(父ゼンノロブロイ)は、もう代を経たとはいえ4代母シャダイマリア(父マリーノ)は、ベテラン6歳(旧表記7歳)になって天皇賞(春)を制したアンバーシャダイ(父ノーザンテースト)の半姉。そこにノーザンテーストを配したのが3代母にあたるアンバーネックレス。オープンに出世してまだ3戦目。今回は前半で流れに乗り遅れたうえ、直線は内にささり気味になり上がり最速の34秒1を記録しながら3着止まりだが、真価発揮はこれからと思える。
人気の中心ユーキャンスマイル(父キングカメハメハ)は、途中から早めにスパートを開始したものの、内枠のため馬場コンディションの良くない内を通らざるをえなかったのが、ハンデ頭の58キロだけに痛かった。2着とは0秒2差だけ。最後の直線はもっと外に出したかったが、残念ながら馬群の密集した位置なので、外に出せなかった。
2番人気のサンレイポケット(父ジャングルポケット)も、勝負どころで外から来られ、やむをえず内に突っ込む形になった。2-3着馬と「0秒2、0秒1」の差は、通らされたコース差だけだろう。
4番人気メイショウテンゲン(父ディープインパクト)は、細身に映るくらいのほうが切れるタイプだろうが、当日輸送なしでマイナス12キロは誤算。追走に余裕がなかった。
大駆けに期待したバレリオ(父ステイゴールド)は果敢に先行し、オーソリティをマークする位置にいたが、残念ながら最内枠からずっと内を追走したスタミナロスが響いた。