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【ジャパンC】「三冠馬対決」 歴史的名牝が見せつけた女王らしさ

  • 2020年11月30日(月) 18時00分

軒並み好内容だった上位馬の今後にも注目


 歴史的な牝馬アーモンドアイ(父ロードカナロア)が引退レースに選んだ頂点のGIジャパンCで、さらに栄光のゴールを重ねた。

 近年の名牝は素晴らしい。なおかつ強い。いかにタフで丈夫であっても、牝馬は長期にわたり高い競走能力を保つことは難しいとされてきたが、5歳アーモンドアイは引退レースのジャパンCを完勝。2014年の5歳ジェンティルドンナは有馬記念を、2019年の5歳リスグラシューも有馬記念を勝った。2009年の5歳ウオッカは日本での最終レースとなったジャパンCを制し、4歳ダイワスカーレットは2008年の有馬記念を制して引退している。

 アーモンドアイは、歴代No.1の海外を含むGIを9勝。海外を含む総獲得賞金はついに歴代トップの19億1526万余円に達した。

重賞レース回顧

アーモンドアイのGI勝利数、総獲得賞金はともに歴代No.1の記録となった(撮影:下野雄規)


 天皇賞(秋)を制して歴代トップのGI8勝となった時点で、少しでも疲れがあれば大事にそのまま引退するのではないかとされたが、今年の三冠牝馬デアリングタクト(父エピファネイア)、同じく三冠牡馬コントレイル(父ディープインパクト)のジャパンC挑戦の報を受けて、ならばと、ファン大歓迎の「三冠馬対決」を引退レースに選んだ。

 回復を確信して、活力を残すように少し控えた調整が大正解。パドックに現れたアーモンドアイは、天皇賞(秋)と寸分違わずどころか、日本の競馬史に残る牝馬にふさわしく、さすがのオーラを漂わせていた。以前より迫力を増して父ゆずりの筋肉質体型になりながらも、女王らしくしなやかだった。長く待たされたスタートも一番速かった。

 珍しく好スタートを決めたキセキ(父ルーラーシップ)の作ったペースは「前半1000m通過57秒9→1200m1分09秒4→1600m1分33秒1→」。自身が2分20秒9の快時計で2着に粘った2018年でさえ「59秒9→1分11秒7→1分34秒8→」だった。

 ここまで17連敗を続け、かつての粘り腰を欠くキセキの「少しかかって行く気になった」気持ちのままに果敢に飛ばした戦法は、結果は8着失速でも、ただ沸かせただけではない。2000m通過1分57秒5で、まだ離して先頭。残り1ハロン標(2200m)を過ぎてもまだ先頭だった。結果、自身の前後半バランスは「1分09秒4-1分14秒7」=2分24秒1となったが、単勝オッズ4460円の脇役となった6歳キセキの抵抗は、失敗ではなかったはずだ。

 レース全体はアンバランスな数字が残るが、好位4-5番手で折り合ってライバルの動きを牽制しつつ、能力全開に成功したアーモンドアイ(C.ルメール)自身の前後半バランスは推定「1分12秒5-1分10秒5」=2分23秒0(上がり34秒7)。C.ルメール騎手は、天皇賞(秋)、エリザベス女王杯、マイルCSに続きGIを4連勝(秋のGI5勝)となった。

 3歳コントレイルは、少しだけ前の出が硬いような印象はあったが、菊花賞からまた一歩前進の素晴らしい体になっていた。位置取りからすると、自身の前半1200m通過は1分13秒台後半になる。本当は行きたがるくらいで不思議ないペースなのに、静かな追走となった。この点では、これで40回、「菊花賞3000m→ジャパンC2400m」を連勝した馬が1頭もいない3歳牡馬の厳しいローテーションを思わせた。

 だが、アーモンドアイの前後半バランスから推測すると、コントレイルの後半1200mは「1分09秒5前後」に達する。上がりは最速の34秒3。外に回ってチャンピオン牝馬アーモンドアイと0秒2差は、矢作調教師が「リベンジできないのがすごく悔しい」と残念がる素晴らしい内容だった。ただ、脚を余した内容ではないとは映った。

 無敗の三冠馬シンボリルドルフも、同じく無敗の三冠馬である父ディープインパクトも菊花賞の次のレースで負けている。アーモンドアイが歴史的な大記録を達成したジャパンCなので、3歳コントレイルはこれから広がる未来を展望したい。陣営も認める「コントレイルのベストは2000m級」の適性は、多くのファンも納得している。

 3歳牝馬デアリングタクトは、4コーナーでスムーズに、鋭く動けなかったあたりがまだキャリア5戦の弱みだったか。5戦の戦歴でジャパンCを制した馬はいないという歴史を変えることはできなかったが、進路が狭くなり、進むコースを変えながらゴール寸前になって、もう一回猛然と伸びた。うまく外に回ったコントレイルとはクビ差。強気な正攻法に徹し、ずっと射程に入れていたアーモンドアイと0秒2差だけ。アーモンドアイに続く4歳牝馬のエースがグランアレグリアなら、3歳のトップは断然デアリングタクトである。

 アーモンドアイの初年度の交配相手は「エピファネイアが候補(吉田勝己代表)」とされる。すると産駒は、サンデーサイレンスの「4×3」だけでなく、Hail to Reasonの「5×5」、 Northern Dancerの「5×5」まで、対決したデアリングタクトと同じ配合形になる。出現した3歳デアリングタクトの貢献は大きい。

 惜しい4着と5着だったのは、4歳牝馬カレンブーケドール(父ディープインパクト)と、5歳牡馬グローリーヴェイズ(父ディープインパクト)。この着差だから、カレンブーケドールはすこしも崩れたわけではない。追って伸びてきた。また、グローリーヴェイズは途中から離して飛ばしたキセキの2番手。自分でスパートしなければならない一番苦しい立場に立っていた。着順以上の中身を認めたい。

 11カ月の休養明けで、激しくイレ込むもっとも懸念の死角をみせていたワールドプレミア(父ディープインパクト)が6着。復活が約束される好内容だった。

 ジャパンCが「1番人気、2番人気、3番人気」の順番通りに決着したのは初めて。また、人気上位の5頭が、5着までを独占したのも初めてだった。これでこの秋のGIシリーズは1番人気馬がなんと7連勝となった。今週も…なのだろうか。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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