世界の舞台へ展望は広がった
この秋、GIの1番人気馬「7連勝中」は知れ渡っていた。だが、さすがに「そろそろ危ないのではないか」と、内心みんなが感じていた。ただし、それはこのあと全能力発揮の難しい2歳の「阪神JF」や「朝日杯FS」であり、4歳クリソベリル(父ゴールドアリュール)には国内8戦8勝の底力の裏付けがある。まして、まだ未完成だった3歳時に勝っているのがチャンピオンズC。崩れる危険は少ないはずだ、と不安を振り払った支持だった。
だが、昨年4着に封じた今年5歳のチュウワウィザード(父キングカメハメハ)に差されただけでなく、7歳になっていた昨年2着のゴールドドリーム(父ゴールドアリュール)、3着だった6歳インティ(父ケイムホーム)にも先着を許す4着に沈んでしまった。
4度目の対決でクリソベリルに勝利したチュウワウィザード
当日の馬体重12キロ増の554キロは、3歳だった昨年が550キロなので太め残りには映らなかった。ただ、ちょっと物足りない動きだった追い切りのあとの計測(木曜)が562キロだったため、土曜日に前日追いをかけたものの、休み明けのJBCクラシックを勝ったあと、寒くなる時期の巨漢馬でもあり、調整が難しかったのだろう。体つきは少しも悪くなかったが、王者らしい迫力と威厳はなかったかもしれない。
インティ(外枠13番)をマークするように15番枠から先行した位置取りは昨年とほぼ同じ。そのインティを交わせず、チュウワウィザードにも、ゴールドドリームにも差された内容は物足りなかった。10戦8勝の4歳馬。力負けではない。巻き返しに期待したい。
鮮やかに勝った5歳チュウワウィザードは、2019年のJBCクラシック、2020年の川崎記念に次いでGI/JpnI3勝目。昨年のチャンピオンズC4着を含めて凡走なしの[10-3-4-1]。クリソベリルと4度目の対決で、ついに倒すことに成功した。戸崎圭太騎手とは2戦2勝。皮肉なことにクリソベリルの川田将雅騎手と[7-2-1-0]の名コンビだった。
チュウワウィザードはこの勝利により、来年のサウジC、来春こそは開催…のドバイワールドCを展望することになる。
種牡馬キングカメハメハ産駒は2013年ベルシャザール、2014年ホッコータルマエに続いて3勝目。ファミリーは輸入牝馬ファンシミンから発展する一族で、イトコになるのが2018年のチャンピオンズCなどGI/JpnIを4勝ルヴァンスレーヴ(父シンボリクリスエス)。母チュウワブロッサムの半妹アイアンテーラーもJpnIIIクイーン賞などGI/JpnI6勝馬であり、クリソベリルのファミリーとともに近年の日本の「ダート界」を代表する牝系。ルヴァンスレーヴ(5歳)は、新種牡馬として2021年から社台スタリオンSで供用される。
ゴールドドリームは昨2019年に続いての2着で、チャンピオンズC[1-2-0-1]となった。7歳での2着連対は、2012年までのジャパンCダート時代を含めても、2013年のワンダーアキュートに次いで史上2頭目になる。近年はダート界の世代交代も早まったが、タフなGI/JpnI5勝馬としてまだがんばれるだろう。
インティは、比較的すんなりハナに立って前半1000m通過60秒8だった昨年と異なり、今年は馬体を離してはいてもエアアルマス(父マジェスティックウォリアー)と併走の形で1000m通過60秒3。ちょっと苦しい展開だった。そのため自身の上がり37秒4(昨年は35秒9)となって今年も3着。7連勝したあと、8連敗[0-1-3-4]はきびしい結果だが、少しずつ自在性は増している。引き続きマークはきついが、そろそろ勝機が訪れるだろう。
5着に突っ込んだ6歳モズアスコット(父Frankelフランケル)はこれが引退レース。芝の安田記念、ダートのフェブラリーSの勝ち馬であり、フランケルの後継種牡馬。芝もダートも平気な産駒を送るサイアーとして活躍して欲しい。イトコにあたるTo Honor and Serveトゥオナーアンドサーヴ(G1・2勝馬)は、種牡馬としてもUSAのG1勝ち馬を送っている。
2番人気の3歳カフェファラオ(父American Pharoahアメリカンファラオ)は、浅いキャリアを考慮し途中からうまく外に出したが、ユニコーンSを圧勝した当時の伸びはなかった。これからだろう。年長のチュウワウィザード、ゴールドドリームが示したように、ダートのエースは厳しい敗戦を経験して本物になる。