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牧場賃貸の「その後」

  • 2020年12月10日(木) 19時01分

馬に関してはゼロからのスタートだった


 先月、二度にわたって当欄で紹介させて頂いた藤原照浩さんの「その後」について触れたい。

 生産牧場を開業するにあたり、まず必要なものは、土地、施設、農機具、そして繁殖牝馬である。藤原さんの場合、私の牧場をそのまま受け継ぐ形でのスタートとなったので、土地と施設、農機具に関しては、不十分ながらも一応のものは揃っている。しかし、肝心の繁殖牝馬をどうするか、が最初の課題であった。

 今年7月一杯まで牧場の従業員として働いていた藤原さんには、もちろん自身の所有する繁殖牝馬などはいないので、馬に関してはゼロからのスタートであった。

 生産牧場における繁殖牝馬は、大きく分けると2種類に分類される。すなわち、自己所有馬と預託馬である。自己所有馬は、読んで字のごとく、自身で所有する繁殖牝馬なので、全ての経費は自分で負担することになるが、生産馬が市場などで高額落札されたりすれば、思いがけない収入をもたらしてくれる“夢”がある。

 それに対して、預託馬は、繁殖牝馬のオーナーから馬を預けてもらい、毎月の飼養管理費としての預託料が収入源となる。藤原さんは、まず安定した固定収入をある程度確保するために、最初は預託馬中心での牧場経営から始めることにしたらしい。

 ところが、いきなり生産牧場を開業したとは言っても、知名度は低く、実績もまだないために、当初は「馬集め」に苦労していた。あてにしていた預託馬の話も破談になったり、立ち消えたりして、一時は精神的にやや落ち込みかけてもいた。

 しかし、その後、人づてに開業したという噂が広まって行くにつれて、徐々に藤原さんに声をかけてくれる人々が現れるようになった。

 待望の繁殖牝馬第一号が入厩したのは、11月初旬のこと。8歳の空胎馬ながら、とある生産牧場が藤原さんに格安で譲ってくれることになったのだ。

 それをきっかけに、あちこちから繁殖牝馬を預かって欲しいという依頼が舞い込み始め、今日現在で、藤原さんの飼養管理する繁殖牝馬は計4頭になった。のみならず、期間限定ながら、骨折休養中の当歳馬や、1歳馬なども預けてくれる方が出てきた。さらには、今後、現役を引退した直後の「上がり馬」も、複数入厩してくる予定という。

「上がり馬」というのは、競走生活を引退し、来春から繁殖牝馬として供用する若い牝馬のことだが、防疫上、生産牧場では、分娩予定馬と接触させないように隔離する必要がある。早期流産の原因となる馬鼻肺炎(ERV)の感染を予防するために、放牧地や厩舎を妊娠馬から完全に離さなければならないのだ。そこで、藤原さんは、そうした上がり馬も預かることにしたのである。

 幸い、私の牧場は、厩舎が3棟あり、それぞれ離れていることと、放牧地の配置も、上がり馬と前述の繁殖牝馬たちとを完全に分離し、一定の距離を置いて放牧することが可能だ。そんなことから、藤原さんは来年夏までの期間限定ながら、上がり馬も受け入れることに決めたらしい。

 さて、先日、藤原さんの元に、浦河でフリーの騎乗者として活躍するポール・ウイリアムソンさんがやってきた。ウイリアムソンさんは、スピードスケートの五輪代表ウイリアムソン・師円さんや妹のレミさん(同じくスケート選手)の父としても知られるが、実は副業で、動物用移動式体重計の販売代理店を営んでいる。厚さ10センチ未満で、畳一枚分程度のサイズだが、三分割して持ち運びできるので、生産地ではすでに多くの牧場で活用されている優れものだという。重量も軽い。三分割すれば、それぞれがわずか15キロしかないので、女性でも持ち運びできる。

生産地便り

牧場に体重計を購入した藤原さん


生産地便り

持ち運び可能な移動式体重計は多くの牧場で活用されている


 藤原さんは、さっそくこれを注文したのである。預託馬から生まれた当歳の体重を定期的に計測することが、飼養管理上の貴重なデータになる、という考えである。価格は45万円(税別)。薄いので、馬にとっても違和感なく体重計の上に乗ることができるようだ。

生産地便り

薄い体重計は馬にとっても乗りやすいようだ


 藤原さんの牧場は日々、少しずつではあるが、生産牧場としての体制が整ってきている。

 最後にひとつ、お知らせを。このほど藤原さんは、YouTubeも始めた。興味がおありの方は、ぜひ一度ご覧頂きたい。
藤原さんのYouTubeチャンネル「Horsy Cafe」

生産地便り

YouTube撮影中の藤原さん

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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