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高額賞金にビックリ!園田金盃―3000万円の舞台裏―

  • 2020年12月22日(火) 18時00分
今年の「園田版・有馬記念」には各陣営の思いが詰まっていました。JRAデビューを断念するも園田ではピカイチの良血馬、戦死を遂げた僚馬の思いを背負って走った馬、大逃げと粘り込みに復活の兆しを窺わせた馬――

12月9日に行われた園田のグランプリレース・園田金盃(今年から賞金が倍増の3000万円!)を全身全霊で戦った人馬にまつわる「ちょっと馬ニアックな」舞台裏を覗いてみましょう。

母の父ディープインパクトの力


 今年11月はじめ。下原理騎手と新子雅司調教師は深い絶望の淵にいました。

「2000mを超えるとめちゃくちゃ強い」(新子調教師)というタガノゴールドで金沢・北國王冠(2600m)に遠征したものの、2着で入線直後、タガノゴールドは突然倒れ、下原騎手による必死の心臓マッサージの甲斐なく心不全により息を引き取ってしまったのでした。

 連覇を目指す園田金盃まであと1カ月に迫った頃でした。

 それ以来、レース前に「怖い」という感覚を抱くようになったという新子調教師。とはいえ、緩い仕上げで勝てるほどレースは甘くなく、その葛藤に悩まされていることが伝わってきました。

 その葛藤を跳ね除けるかのようにタガノゴールドの死から5日経った日、重賞・東海菊花賞でオーナー・調教師・騎手すべてが同じコンビのタガノジーニアスが勝利を遂げました。

「涙が出るほど感動した」というほど大きな意味を持った1勝。

 その勝利をプレゼントしてくれたタガノジーニアスで新子調教師と下原騎手は今年の園田金盃に挑むことにしました。

馬ニアックな世界

▲僚馬の思いを背負って走ったタガノジーニアス(写真右端は新子調教師)


 一方、新子調教師と重賞でたびたびライバル関係にあるのは橋本忠明調教師。上半期こそ新子調教師に地元重賞6連勝を許したものの、後半に巻き返してこちらも地元重賞6勝。亡きタガノゴールドの良きライバル・エイシンニシパを擁していました。しかしエイシンニシパは不思議なもので、新春賞は3勝を挙げるのに対し、同舞台の園田金盃は未勝利。今年こそはの思いで「ここを大目標に、年明けから逆算してローテーションを組んできました」と話します。

 そしてもう1頭、同厩舎で園田金盃を目指し仕上げられたのがジンギ。父ロードカナロア、母の父ディープインパクトという良血は本来ならJRAでデビューするはずでした。実際、JRAで競走馬登録をされたのですが、前進気勢に欠けることから「園田でデビューを」と、この地へやってきたのでした。期待通り、3歳で重賞2勝を挙げると4歳の今年、摂津盃でいきなり古馬相手に重賞制覇。「ディープインパクト産駒は地方のダートが合わない」と言われることもありますが、母の父にその血を持つジンギはポテンシャルの高さからそんなジンクスをどんどん跳ね除けていったのでした。

 こうして迎えた園田金盃(1870m)はファン投票と記者選抜によって出走馬が決められる園田のグランプリレース。

 向正面からスタートが切られると、逃げて重賞7勝のマイタイザンが好ダッシュから先手を奪い気分よく逃げました。1周目スタンド前では10馬身近くリードを取り、離れた2番手にジンギ、直後にエイシンニシパ、さらにその後ろにタガノジーニアスと続きました。レースが動いたのは向正面半ば。ジンギが仕掛けると後続も動き始めますが、ジンギの手応えがいいのは明らかで、直線でリードを広げ、5馬身差で勝利しました。

馬ニアックな世界

▲ジンギが5馬身差の圧勝


「抜け出してまだふわふわ遊んでいて、5馬身も離していると思いませんでした。直線でもハミを取っていない中で、強かったですね」と鞍上の田中騎手。そんな中でこれだけの強さを見せるのですから、「来年の方が楽しみ」と橋本調教師も目を輝かせるはずです。

馬ニアックな世界

▲橋本調教師も来年以降の活躍に期待をよせている


 2着は同厩舎の屋台骨を支えるエイシンニシパ。敗れはしましたが、「横綱」と称するように重賞11勝を挙げるベテラン馬は年明け1月3日に新春賞3連覇を目指す予定です。

 そして3着に粘ったのはマイタイザン。今春は1400mに主戦場を移していましたが、ふたたび得意の中距離戦に戻ってきました。「園田金盃を目指すことが決まって、そのために秋は姫山菊花賞から始動しました」(杉浦健太騎手)という狙い通り、「休み明け3走目で状態は良くなっていました。気分よく行かせたぶんハイペースになりましたが、復活の兆しが見えました」と悔しさの中に希望を膨らませていました。

馬ニアックな世界

▲復活の兆しが感じられたマイタイザン


 思いを背負ったタガノジーニアスは5着。

「今年の園田金盃はジーニアスで!って思ったけど、終わってみればそんなに上手くいかないなって感じました。敗因は馬場なのか輸送なのか……輸送した方が体がほぐれる感じがします」(新子調教師)と、今後は重賞2勝を挙げる東海地区への遠征も視野に入れられるようです。

諦めムードを変えたい!園田金盃3000万円の理由


 今年の園田金盃が例年以上に注目を集めた理由の一つに、前年の1300万円から倍以上の3000万円に1着賞金が大幅増額されたことがありました。これは今週、JRA馬も参戦する兵庫ゴールドトロフィー(JpnIII)よりも高額。その背景には好調な売上げがあるのですが、さらなる理由を兵庫県競馬組合の前年度の番組担当者はこう話します。

「関係者に広く賞金が行き渡るようにするには、平場の1着賞金や手当てを増額するのが一番手っ取り早い手段ではありますが、より有望な2歳馬が兵庫県に入厩してほしい、より強い馬が兵庫県から出てほしいという思いから重賞賞金の大幅増額を決定しました」

 今年は他にも兵庫ダービーや兵庫大賞典を1着賞金2000万円にするなど、注目の集まりやすい重賞レースを大幅に増額することで、より園田・姫路競馬のアピールにつなげようという思いがあったのでしょう。

「ダートグレード競走は高額賞金を出してはいますが、『所詮、JRAの関係者が勝って帰るだけのレース』という諦めがあり、なかなか厩舎関係者にダートグレード競走に対してモチベーションを持ってもらうのが難しいなという実感がありました。1着賞金でレース内容が決まるわけではありませんが、ダートグレード競走の他にもう一つ目玉となる競走が欲しかったこと、また地元馬だけのレースでもこれだけの賞金が出るということで、厩舎関係者により一層強い馬づくりに励んでもらえればという思いがありました」

 もちろん、ダートグレード競走を目指している厩舎もありますが、好勝負できる馬が頻繁にいるわけではありません。より現実味のある夢を提供し、ライバル同士がしのぎを削ってよりレベルの高いレースになれば、という意図が「地元重賞」には込められていました。

「この先、園田金盃を他地区との交流として開放する予定は今のところありません。あくまでも園田競馬の暮れのグランプリとして来年以降も盛り上げていければと思います」

 園田金盃が終わった夕方、Twitterに「この勝利でジンギの収得賞金が1億円を超えました!」と投稿したのですが、私が見ていた地方競馬公式サイトはすでに園田金盃の賞金を加算して表示していたそうで(仕事が早い!)、正しくは「あと約2200万円で1億円ホース」となります。申し訳ございませんでした。

 ジンギはこの後、状態を見て白鷺賞(地方西日本交流重賞、1月28日、姫路2000m)か佐賀記念(JpnIII、2月11日、佐賀2000m)を目標にするとのこと。年が明けてもまだ5歳。地方馬ながら1億円ホースとなれば、関係者にとって夢はますます広がることでしょう。

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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