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未曾有の2020年を振り返る

  • 2020年12月24日(木) 18時00分

競馬界が新たな様式に適応 全ての活況を支える原動力に


 予想外の新型コロナウイルスの感染拡大によって、今年は日本のみならず世界中の国々がその影響を受けた1年であった。我が国においても東京オリンピックの延期に象徴されるように、ありとあらゆるイベントが中止、延期または規模の縮小を余儀なくされ、計り知れないほどの打撃を受けた。

 サラブレッドの生産界においても、コロナ禍が深刻化するにつれて、いずれその影響がより深刻な形で及んでくるであろうと危ぶむ声が支配的になっていた。3月以降、中央、地方ともに競馬場が無観客開催に踏み切り、4月下旬のJRAブリーズアップセールは通常開催を見送って入札形式へと変更。さらには5月に札幌競馬場にて開催が予定されていた北海道トレーニングセールも、ついに中止のやむなきに至り、いよいよ危機感が高まった。

「景気が落ち込んで、馬の売れ行きが心配だ」「1歳市場の開催も難しいのではないか」というような先行きを悲観する声がずいぶん聞かれた。少なくとも、今年の上半期までは悲観論の方が優勢であった。

 しかし、7月のセレクトセールは、コロナ禍によって厳しい入場制限と購買者の事前登録制、報道規制など徹底した防疫体制を敷いた上で、予定通りの開催に踏み切った。そして、結果は、過去最高を記録した2019年に次いで、売上総額、売却率ともに二番目の売り上げを記録。ここだけは不況知らずの活況であった。

 そして、その余波は8月下旬より始まった日高の各市場にも及んだ。コロナ禍によって、7月のセレクトセール翌週に予定されていたセレクションセールは、1か月延期の措置がとられ、史上初のサマーセールとの連続開催となったが、むしろ逆にそれが相乗効果を生む結果となり、いざ蓋を開いてみれば、両市場ともにいずれも前年を大きく上回る結果を残した。

 その勢いは9月、10月になっても衰えることなく、セプテンバーセール、オータムセールともに好況に推移して、シーズンが終わってみれば、市場を主催した日高軽種馬農協は、北海道トレーニングセール中止も何のその、年間を通じて史上最高の売り上げを記録したのであった。

 日高軽種馬農協主催のセレクションセール〜オータムセールまでの全4市場において上場された2362頭(前年比229頭減)のうち、落札頭数は1875頭(前年比76頭減)。売却率は77.27%と前年より3.9%の増加となり、総売り上げも127億8233万円(税込み)に達して、当初の予想を大きく上回る好結果に終わった。

 コロナ禍という未曽有の国難にありながらも、サラブレッド市場が予想外の活況で推移した要因は、まず何と言っても、中央、地方いずれも競馬がほぼ休止に追い込まれることなく、日程を順調に消化できたことが挙げられよう。中でも、とりわけ地方競馬においては、どこの競馬場も非常に好調で、ステイホームとテレワークによって在宅を余儀なくされたファンの多くがネットを通じて馬券購入を続けた結果、すべての競馬場が例外なく売り上げを伸ばした。

 その典型例が、ホッカイドウ競馬である。全82日間の開催で、馬券売り上げが史上空前の520億円を記録したのは以前触れた通りだが、全国的にも、多くの主催者が信じられないような伸びを記録している。

 地全協HPに、本年1月〜11月までの発売金額が競馬場ごとにまとめられているが、それを見ると、この11か月間で、全国の地方競馬はばんえいを含めて1181日間(前年比11日増)が開催され、総売り上げは7664億9294万円。前年比128.7% である。1日平均でも、6億4902万円で、前年比127.5%。主催者別に見ると、南関東4場の伸び率は、もともと売り上げが大きいのでさほど目立たないが、それ以外の各主催者がいずれもかなり数字を伸ばしていることが分かる。

 ばんえいは137日間で373億9505万円。前年比148.2%。岩手は115日間で492億64万円。前年比149.3%。金沢(石川県)78日間で243億8145万円。前年比133.6%。笠松(岐阜県)が80日間で298億2317万円。前年比130.5%。名古屋(愛知県)が101日間で500億4415万円。前年比144.0%。

 園田姫路(兵庫県)は145日間で908億2358万円。前年比138.9%。高知が100日間で643億7793万円、前年比148.1%。佐賀が98日間で384億6942万円。前年比139.2%。

 こうした馬券売り上げの伸びが、コロナ禍にあっても、馬主層のサラブレッドへの所有欲、購買欲に直結していることは疑いなく、今年の各市場の活況を支える大きな原動力になったことは間違いない。

 もうすぐ年が明ける。2021年こそは、何とかコロナ禍が収束に向かって、また以前のように、競馬場に多くのファンが訪れ、競馬を楽しめるようになってくれることを願ってやまない。
生産地便り

多くのファンで賑わう競馬場が一日でも早く戻ってくることを願うばかりだ(撮影日:2018年6月)

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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