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【AJCC】古馬芝の中長距離路線の主役へ名乗りをあげた一戦

  • 2021年01月25日(月) 18時00分

底を見せない4歳馬が春の大目標へ展望を大きく広げた


 雨の染み込んだ芝の塊が飛び、大半の馬が最後は泥だらけになる不良馬場。勝ちタイムは「63秒3-(12秒6)-62秒0」=2分17秒9。レース上がりは「37秒9-13秒3」。1985年から中山の芝2200mで行われて以降(2回だけ東京)、史上もっとも時計を要したタフなレースとなった。

 重馬場の巧拙、枠順が明暗を分けたのはたしかだが、同時に各馬の秘める底力、総合力が結果に反映したレースの印象が残った。実際、人気馬が上位を独占している。

重賞レース回顧

期待に応え勝利したアリストテレス(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 勝った4歳牡馬アリストテレス(父エピファネイア)は、勝ち馬としてはキャリア最少タイの10戦目であり、2着の4歳牡馬ヴェルトライゼンデ(父ドリームジャーニー)は9戦目。3着したラストドラフト(父ノヴェリスト)も5歳馬ながら戦歴は浅くまだ11戦目。

 多くのエース級が引退し、また、ベテランホースが多くなった。ビッグレースの主役級が乏しくなった印象のある古馬芝の中-長距離路線で、上昇の期待できる4歳馬、5歳馬が上位を占めたのは伝統のGIIとして望ましい結果だったかもしれない。

 菊花賞2着のアリストテレスは、ルメール騎手が「今回はトップコンディションではなかった。それでもGIIを勝てた」と振り返ったように、すばらしい馬体に成長してはいたが、調教の動き、返し馬に入った当日の身のこなしに、断然の1番人気馬とすると心もとない印象があった。約半年前までは[1-4-0-1]の1勝馬。それが、コントレイルと大接戦の菊花賞2着を含み、この半年で[3-1-0-0]。このあとさらに良くなるだろう。

 陣営は、タフな馬場で早めに動きながら押し切った内容に自信を深めた。この春は、3200mの天皇賞(春)を大目標に、3月末の阪神大賞典3000mか、日経賞2500mをステップに選ぶことになる。このアリストテレス、デアリングタクトなど、大半の活躍産駒がサンデーサイレンスの「4×3」で知られる父エピファネイア(11歳)は、まだ3歳-4歳の2世代だけの出走で早くも総合種牡馬ランキング7位に上昇(1月24日終了現在)。

 父エピファネイアは、ジャパンCを4馬身差で圧勝し、不良馬場の菊花賞は5馬身差で独走した。アリストテレスの母ブルーダイアモンドは、輸入牝馬バレークイーンの一族としてもいいが、4代母は英オークスを大差で勝ち、英セントレジャー制覇のあと、凱旋門賞2着の名牝Sun Princessサンプリンセス。アリストテレスは大物に育って欲しい。

 菊花賞ではアリストテレスから1秒4差の7着にとどまったヴェルトライゼンデが、力強く巻き返して半馬身差の2着。射程内でマークしていたアリストテレスを3コーナー過ぎから負かしに出た。一度は手応えが怪しくなりながら、坂上からもう一度伸びている。

 宝塚記念、有馬記念を制した父ドリームジャーニーの距離適性を受け継ぎ、また、寸詰まりに映る体型から、2200-2500mがベストではないかとされる。実際3000mの菊花賞では最後に鈍った。

 だが、7歳までトップクラスで31戦(9勝)の父はきわめてタフだった。ベストは2400m前後としても、ドリームジャーニーには天皇賞(春)で小差の3着もあり、さらに母方には距離をこなせる背景がある。似た血統背景をもつ兄のワールドプレミアは、3歳限定とはいえ菊花賞3000mを勝っている。日本ダービーでコントレイルに完敗の3着当時より、明らかにパワーアップしている。まだキャリア9戦だけ。これから父と同じようにタフな成長力を示してくれるだろう。

 残念だったのは、上がり最速の37秒0で伸びながら、0秒1差3着だったラストドラフト。パドックでは直後を歩くアリストテレスよりひと回り以上も身体を大きく見せる素晴らしい状態だった。中位追走から後方のサトノフラッグ(父ディープインパクト)の一気の動きに合わせるようにスパート態勢に入ったが、追い込みの決まりそうにない馬場を考えるとちょっと動くのが遅かったか。外からサトノフラッグ、モズベッロ(父ディープブリランテ)に来られたため、直線に向いて外に回るスペースがなかった。

 最後に、苦しい位置から少しでも外に回ろうと突っ込んだのが、アリストテレスと、ヴェルトライゼンデとのあいだの狭い場所。勝ち馬と2着馬は馬体を併せようと動く。最後は2頭に挟まれて接触したほどだった。結果的に…ではあるが、まだ脚はあった。

 この馬場で内枠1番のサトノフラッグ、2番サンアップルトン(父ゼンノロブロイ)は、まさか強引に先行するわけにもいかず、下げて3コーナーでは最後方の一団。サトノフラッグは外から強引にスパートしたが、この馬場で3コーナーから動いては失速する。

 先行したウインマリリン(父スクリーンヒーロー)と、ステイフーリッシュ(父ステイゴールド)は、直線入り口で後続が一気に進出してきたから外に回れなかった。上位の3頭はそろってこの2頭より直線で外に回った馬だった。明らかにインが不利だった馬場を考えると、4着と6着でも決して力及ばずの中身ではないと思える。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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