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たくさんの愛情が繋いできた夢のバトン

  • 2021年01月26日(火) 18時00分
JRA3勝のウォータービルドが今月8日、アロースタッドにスタッドインしました。ディープインパクト産駒で3歳秋には菊花賞出走を目指した一方、度重なる骨折により出世が叶わなかった馬。夢半ばでの種牡馬入りとなりましたが、ウォータービルドがこの世に生を受けたのには、アロースタッド在籍歴最長だった同オーナーの種牡馬・ウォーターリーグの活躍もありました。北の町で注がれたたくさんの愛情が実を結んだ「ちょっと馬ニアックな世界」を今週も覗いてみましょう。

初めて生まれたディープ産駒!


 ウォータービルドは2014年4月1日、北海道浦河町の伏木田牧場で生まれました。

「生まれた時からすごくいい馬でした。普通はこんなにしっかり立てないです」と同牧場の伏木田修氏は、生まれた翌日の写真を見ながら振り返ります。

馬ニアックな世界

▲生まれた翌日のウォータービルド(提供:伏木田牧場)


 すくすくと育っていくウォータービルドを見つめながら当時、伏木田氏は「うちの牧場で初めてのディープインパクト産駒なんですよ。やっぱり顔立ちとかオーラが違いますね」と目を輝かせていました。

 なぜこの年、ディープインパクトを種付けしたのか――その理由は半兄ウォータールルドの活躍にありました。山岡正人オーナー(名義は父・山岡良一氏)はこう振り返ります。

「ウォータールルドが勝ち上がってオープン入りを果たしてくれたんですが、そのお父さんはうちがアロースタッドに預けているウォーターリーグという種牡馬で、種付け料は無料。その産駒が活躍してくれたので、ご褒美でディープインパクトを種付けしました」

 生産牧場にとってもオーナーにとっても初めてのディープインパクト産駒となったウォータービルドは、お坊ちゃまとしてたくさんの愛情を注がれ育っていきました。

 そして、2016年11月の京都芝1800mで武豊騎手を背にデビューを迎えると、いきなり新馬勝ち。その後、骨折が判明し休養に入りますが、約9カ月ぶりとなった復帰戦(英彦山特別・小倉芝2000m)も最後方から差し切り勝ちを決めました。

馬ニアックな世界

▲父ディープインパクトを彷彿とさせた走りを見せた英彦山特別(c)netkeiba.com


「2勝目を挙げた時、4コーナーをスーッと上がっていく姿がディープインパクトそのままだ!と思って、その時に『種牡馬にしたいな』って思いました」(山岡オーナー)

 こうした活躍に、秋はGI・菊花賞を目指したい思いが芽生えます。そこで、厩舎や主戦の武豊騎手とも相談の上、9月に能勢特別(阪神芝2000m)に出走しましたが、約1馬身届かず4着。続く清滝特別を13着に敗れた後、再び骨折が判明し2年3カ月にわたる長期休養に入ることになりました。

 復帰後は脚元への負担を考慮してダートに転向。復帰3戦目には不良馬場を2番手から積極的に運んで勝ち星を挙げ、続く昇級初戦も逃げ粘ってクビ差2着と、ダートでも活躍を見せました。

馬ニアックな世界

▲昨夏は涼しい北海道のBTCで過ごしたウォータービルド


 度重なる骨折がなければ、どこまで出世していただろう、と思わせたウォータービルド。レースで最も騎乗した武豊騎手もその思いを抱いていたようですが、オーナーの「種牡馬にしたい」という思いもあり、昨年末のレースを最後に引退することになりました。

最年長ウォーターリーグは息子と一緒に功労馬に


 ウォータービルドが北海道新ひだか町静内にあるアロースタッドに到着する前日、あるベテラン種牡馬が同スタッドを去っていきました。彼の名はウォーターリーグ。最年長の23歳で、アロースタッドで一番長く種牡馬生活を送っていた馬でした。

「産駒の勝ち上がり頭数はかなりいい方だったと思います。産駒のウォータールルドが2013年にギャラクシーSを勝ったんですが、少ない産駒からのオープン勝ちは逆に目立ちました。まして種付け料が無料ですからね。父デヒアに似た骨太な馬でした」

 そう話すのはアロースタッドを運営する株式会社ジェイエスの前谷雅俊氏。

馬ニアックな世界

▲2016年8月、アロースタッドの放牧地でのんびり過ごすウォーターリーグ


「23歳とは思えない若い馬体で、外が好きなのか、朝、放牧に出る時は『外に出たい』って仕草でチャカチャカしていたようです。アロースタッドを退厩する日も『今日も放牧かな?』という雰囲気で元気よく歩いていたんですけど、そのまま馬運車に乗っていく様子を場長が写真を撮っている姿を見たら寂しく感じましたね……。かなり長くアロースタッドにいましたので」

 この馬の種牡馬としての活躍がなければ、ウォータービルドはこの世に生を受けていなかったかもしれません。大きな功績を残し種牡馬を引退したウォーターリーグは、浦河町の牧場で産駒のウォータールルドと一緒に功労馬として過ごしていくとのこと。ちょっと珍しい“父・息子”水入らずの時間になりそうです。

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▲馬房から顔を出すウォータービルド(提供:アロースタッド)


 入れ替わりでスタッドインしたウォータービルド。前谷氏は実際に見た印象をこう話します。

「競馬で500kg前後で走っていましたので、ディープインパクト産駒にしては大きい馬とは思っていましたが、馬運車から降りてくる姿を見ると予想よりも大きかったです。

 筋骨隆々のガッチリというタイプではありませんが、スラっとしていて、身のこなしも柔らかく、凛とした顔立ちで父ディープインパクトの良い所をしっかりと受け継いでいます。馬格のあるディープインパクト産駒で種牡馬として成功している馬もいますし、芝・ダート二刀流で結果を出しているので、生産者の種牡馬選定では心強いんじゃないかなと思います。

 母系もしっかりしていて、祖母がフォーティナイナーの全妹です。また、5代目に母系クロス(Pocahontas)が入っています。そういった馬は種牡馬として活躍するケースが多いので、それも魅力かなと思います」

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▲大切につながれたバトンは次世代へと夢が広がる(提供:アロースタッド)


 初年度の種付け料は受胎条件20万円。

「ウォータービルドはディープインパクトのいいところをすごく受け継いでいると思っています。種牡馬として活躍するには、たくさんの産駒がデビューすることが重要だと思います。夢が広がりますね」と山岡オーナー。

 ウォーターリーグ、ルルド、ビルドと大切につながれたバトンは次世代へと渡されました。

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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