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共同通信杯の記憶と「お家時間」

  • 2021年02月11日(木) 12時00分
 先週行われたきさらぎ賞は「出世レース」として知られているが、今週の共同通信杯の「出世レース」ぶりもかなりのものだ。

 過去10年の勝ち馬のうち、2012年ゴールドシップ、2014年イスラボニータ、2015年リアルスティール、2016年ディーマジェスティ、2017年スワーヴリチャードと半数の5頭がGIホースになっている。

 1998年のこのレースは降雪のためダート1600mに変更され、GIIIの格付けのないグレード外の重賞として行われた。そこを勝ったのは、同年のジャパンカップを制し、翌年の凱旋門賞で「勝ちに等しい」とまで言われる2着となったエルコンドルパサーだった。

 その共同通信杯にはスペシャルウィークも出走する予定だった。が、1月の白梅賞(500万下)で2着に敗れたため、別の500万下に登録するも除外。そのため共同通信杯前週のきさらぎ賞に目標を切り替え、優勝。賞金面でクラシック出走権を確実にした。

 もし白梅賞を勝っていたら、ダート変更された共同通信杯でエルコンドルパサーと戦っていたかもしれない。

 そうなっていたら、どちらが勝っていただろう。勝っても負けても、スペシャルウィークの次走は弥生賞で、そこからクラシックを目指していたと思われる。エルコンドルパサーも、当時は外国産馬の出られるレースが限られていたので、ニュージーランドトロフィー4歳ステークスからNHKマイルカップという、現実と同じローテーションを歩んでいたはずだ。

 競馬雑誌の種牡馬紹介記事でサートゥルナーリアの血統表を見ながら、そんなことを考えていた。サートゥルナーリアの母の父がスペシャルウィークで、父方の曾祖父がエルコンドルパサーの父でもあるキングマンボなのだ。

 サートゥルナーリアが繋養されている社台スタリオンステーションの種牡馬展示会が行われたのが2月9日。翌日、2月10日に行われたアロースタッドの展示会に登場したモズアスコットの写真を知人がSNSにアップしていたのを見て、時の流れの速さに愕然としてしまった。

 モズアスコットは2018年の安田記念と2020年のフェブラリーステークスを勝ち、芝・ダート両方でのJRA・GI制覇をなし遂げた。それは2004年のアドマイヤドン以来の偉業で、その前にもアグネスデジタル、イーグルカフェ、クロフネが達成している。交流GIまで範囲をひろげると、ホクトベガも芝・ダート両方でのGI制覇をなし遂げている。

 モズアスコットは去年12月のチャンピオンズカップにも出ていた(5着)ので、つい最近まで走っていたように感じるのは錯覚ではないにせよ、連闘で勝った安田記念も記憶に新しいだけに、不思議な感じがした。

 相変わらずの無観客開催とはいえ、競馬がスケジュールどおりに行われているのはありがたい。

 先週の土曜日、以前本稿で紹介した弁護士馬主の白日光さんが所有する3歳牝馬のスンリが、エルフィンステークスで最低人気をはね返すクビ差の2着と好走した。何につけても苦楽をともにすることが大切なので、応援馬券の複勝を買っていたら、30倍以上ついて嬉しい思いをした。

 2走前、中京芝1400mの紅梅ステークスで10着に終わったのは、距離が短すぎたのだろう。エルフィンステークスの直線での脚を見ると、もっと距離があってもいいように感じられた。今後を楽しみに見守りたい。

 幸い、私の執筆ペースは、コロナの前とほとんど変わっていない。が、競馬場やトレセンでの取材が激減するなど、動きは大きく変わってしまった。草野仁さんや浅田次郎さんのように、毎週必ず競馬場で朝から最終まで勝負していた人は、生活のリズムが変わりすぎて困っているのではないか。

 私も、平時なら競馬場に行っていたであろう「お家時間」を有効に使いたい。

 そのひとつが読書だと思うのだが、父が死ぬ直前まで、伊集院静さんの『いとまの雪 新説忠臣蔵・ひとりの家老の生涯』を読んでいた。赤穂藩家老・大石良雄の気持ちを追いながら、武士の死について考えているうちに、父の死を受け入れるにあたり、自分の構えも自然とできてきたように思う。

 父が死んでからは、忙しかったのと、疲れて本をひらくような気分になれなかったのだが、蓮見恭子さんの『涙の花嫁行列 たこ焼きの岸本(2)』を楽しく読んで、気持ちが軽くなった。

 私も、そういうものが書けるようになりたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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