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TUBE前田オーナーが語る愛馬ノブワイルドへの想いー『シービスケット』が手繰り寄せた運命の巡りあい<第3回>

  • 2021年03月02日(火) 18時01分
ノブワイルド

「競馬場よりも牧場に出向くのが好き」という前田オーナー。ノブワイルドが種牡馬となり、ブルドッグボスとのライバル対決第2章を誰よりも楽しみにしている。


日本の夏を象徴するバンド、TUBEのボーカリスト、前田亘輝(のぶてる)氏。じつは、“ノブ”や“サマー”の冠号で愛馬を走らせる、競走馬のオーナーでもある。芸能人オーナーは少なくないが、ひとつ勝つだけでも困難なのが競馬の世界。オーナーとして多くのことを経験させてくれた愛馬ノブワイルドとの邂逅を振り返ってもらうと同時に、競馬への熱い想いを語ってもらった。(取材・文・構成=長谷川雄啓)

ノブワイルドに託すブルドッグボスとのライバル物語の続き


 明けて9歳で迎えた、今年1月の船橋記念。先頭に立って快調に飛ばしていたが、直線に入ったところで急にペースが落ちた。

「家のリビングで見てました。思い出しましたね、過去2回のことを。とにかく、予後不良にならないでくれと。すぐに小久保師から電話があったけど、声が動揺してて。その日の競馬場を出るまでが勝負だというから、馬運車に乗れたと聞いたときには、ひとまずホッとしました。獣医さんからも、夜遅くまで、何度もまめに連絡をいただきました」

 小久保師も振り返る。

「自分がその場に行って、ワイルドを見て、ちょっとヤバいなというのと同時に、もしかしたら助かるかもっていうのがあったので、獣医に何をいわれようが自分で添え木を巻いて、馬運車に積んで帰ったんですけど。じつは、あんまりあのときの記憶が無いんですよね…」

 左前球節完全脱臼。しかし、スタッフの懸命の治療と、ノブワイルドの生きようとする力で、命は助かった。まさに、不幸中の幸い。すると、オーナーと調教師がほぼ同じぐらいのタイミングで、種牡馬への道を提案したという。

「ブルドッグボスの存在だと思います。ほぼ“一矢”ぐらいしか報いてない(笑)。同じ小久保厩舎で、ともに南関東を盛り上げて、向こうが3歩も4歩も先をいってたけど、今度はその子どもたちにストーリーの続きを描いてほしいと。産駒が同じように南関東を盛り上げたら面白いんじゃないかっていうのがまずあった」とオーナー。

 しかし、周りの馬仲間からは、反対の声も大きかったという。

「僕はレースも好きだけど、牧場にいるほうがもっと好き。現地に何度も足を運んでいれば、繁殖の厳しさはよくわかる。ミュージシャンでいえば、自分でピアノを作って弾くとか、ギターを組み立てて弦まで自分で作って、みたいなものじゃないですか。難しいのはわかってる。でも、自分でやってみたいんですよ。仕事は全部、人まかせ(笑)。だけど、何故か馬だけは…。なんででしょうね」

ノブワイルド

現役時代、ノブワイルドを管理した浦和の小久保智調教師(左)と、多くのレースで手綱を執った主戦の左海誠二騎手(右)。(撮影:高橋正和)


オーナーとトレーナーが思い描く夢、そして種牡馬としての可能性


 ノブワイルドの種牡馬としての可能性を、小久保師はこう語る。

「母系にアンバーシャダイが入ってるじゃないですか。だから、古いといえば古い血なんです。ただ、ボクの印象のなかのアンバーシャダイは、ドーンとカッコいい馬だった。体幹の強さがあって。ノブワイルドにはその血統がちゃんと受け継がれているんですよ。まさに、そのままって感じ。そのうえで、スピード馬の傾向に出たのがいい。最後にケガをしたときでも、何ていうのかなぁ、オドオドもせず、『ちょっと痛いんだけど、何とかしてくれませんか?』って感じで、ドシッとしてた。芯が強くて本当にいい子。それらを産駒に伝えてくれるんじゃないかと期待しています」

 さらに小久保師は続ける。

「地方競馬の浦和から、交流重賞まで勝ってJBCにも行けたし。一緒に飛躍できたかなぁと思うんですよ。だから、ワイルドの仔が厩舎に来たときに、今度は逆に、ボクがワイルドに重賞のプレゼントをしたいと、今はそう思ってるんです」

 前田亘輝オーナーも、愛馬に思いを馳せて、こう語る。

「中央で未勝利戦を勝ったときが、忘れられなくて。次元の違うスピードを見せてくれた。鞍上の藤田伸二騎手が何もしない。跨がっているだけ。レース後、『ちょっと追ったらレコードでした』っていうから、『じゃ、追ってよ』と(笑)。ドキドキさせられることも何度もあったけど、とりあえず最後は種牡馬として繁殖にいけて。出会えて本当によかったです。ホント、ワイルドだったなぁと。ノブワイルドには、心からありがとうといいたい。どこまで続けられるかわからないけれど、子どもたちの走る姿が、今から楽しみで仕方ないんです」

 引退競走馬のセカンドキャリアについても、できることはやっていきたいと語る。

「自分がGIを勝つより、そんな環境が整うことのほうがうれしい」と、照れくさそうに話す表情は、まさに屈託のない少年のような輝きに満ちていた。

 ノブワイルドは、繋養先の北海道新冠の白馬牧場で種牡馬生活に入る。ライブのアンコールのように、ノブワイルドの第2幕の幕開けを心待ちにするファンの拍手は、ずっと鳴り止まないはずだ。

ノブワイルド

現役最後の勝利となった20年習志野きらっとスプリント。短距離戦で見せた卓越したスピードが、産駒に受け継がれることを期待したい。(撮影:高橋正和)


(了)

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