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また名馬が天国に

  • 2021年03月04日(木) 12時00分
 3月になった。年度が変わったので、これからは敬称ありの場合、「角居勝彦調教師」は「角居勝彦氏」、「蛯名正義騎手」は「蛯名正義調教師」と記すことになる。

 その角居氏にとって、調教師最後の週末となった2月27日、土曜日。同氏が管理し2005年に日本のオークスとアメリカンオークスを制したシーザリオが世を去った。19歳だった。

 2005年は、ディープインパクトが無敗の三冠馬となった年だ。ディープのダービーが終わったあと、育成馬時代に厩舎長としてディープを見ていたノーザンファームの横手裕二さんは、「今、ディープと戦わせて一番面白いのはシーザリオかもしれませんね」と話していた。

 それほど高い競走能力を見せていたシーザリオであったが、故障のため、結局アメリカンオークスが最後のレースとなり、現役を引退。ディープとの直接対決は実現せぬまま、繁殖牝馬となった。

 シーザリオの仔たちも素晴らしい競走能力を発揮し、3番仔エピファネイアが菊花賞とジャパンカップ、6番仔リオンディーズが朝日杯フューチュリティステークス、そして9番仔のサートゥルナーリアがホープフルステークスと皐月賞を制覇。3頭とも種牡馬になった。

 シーザリオは、角居氏によると、一部の人間にしか心を開かないところがあったというが、傍目には、気性の激しさや難しさを感じさせるところはそれほどないように映っていた。が、前述した産駒たちの激しい気性を見ると、母も、危ういほど強いものを内に秘めていたと思われる。

 エピファネイアの産駒には無敗で牝馬三冠を制したデアリングタクト、リオンディーズの産駒には過日のサウジダービーを勝ったピンクカメハメハがいる。シーザリオの血が持つ爆発力は、これからもさまざまな舞台で、私たちを熱くするパフォーマンスを見せてくれるだろう。

 シーザリオが他界してから3日後の3月2日、2001年に日本ダービーとジャパンカップを制し、年度代表馬となったジャングルポケットが死亡した。23歳だった。

 クロフネ、アグネスタキオン、マンハッタンカフェと同い年で、3歳上のスペシャルウィーク、エルコンドルパサー、グラスワンダーの世代同様「最強世代」と言われた。

 ジャングルポケットが勝ったダービーの前に、故・西城秀樹さんが君が代を歌った。私は子供のころから西城さんのファンだったので、近くで聴きたかったのだが、歌いはじめたときにはスタンド上階にいて、遠くからしか見えなかった。そんな個人的な記憶が、ジャングルポケットの強さを思い返すと、自然と脳裏に蘇ってくる。

 種牡馬として、ジャガーメイル、クィーンスプマンテ、オウケンブルースリ、トールポピー、トーセンジョーダン、アヴェンチュラと、6頭のJRA・GI勝ち馬を送り出した。さらに、2016年のJBCクラシックを勝ったアウォーディー、2014年の全日本2歳優駿を制したディアドムス、そして、2007年の共同通信杯などを制し、ウオッカが勝ったダービーで1番人気になったフサイチホウオーなど、いろいろなタイプの産駒がいる。

 この馬の血も、父系としても、牝系としてもつながれている。

 シーザリオもジャングルポケットも、天国でのんびり過ごしてほしい。

 寂しい話ばかりになってしまったが、新年度の始まりということは、新人騎手、新人調教師が活動を始める、新たなスタートの季節でもあるわけだ。

 先日、栗東トレセンの事務所前で、撮影などのために三々五々集まってきていた新人騎手たちとすれ違った。みな、私たちが何者かなど知らないはずなのに、気持ちよく、元気に挨拶してくれた。

 そして、まだ私のなかでは騎手としての印象が強く残っていてピンと来ないのだが、四位洋文調教師も、管理馬を着実に集めて出走の準備を整えている。今週は阪神と小倉で4頭を出走させる予定だという。

 ところで、今週行われる「弥生賞ディープインパクト記念」を、一昨年までのようにただ「弥生賞」としたり、単に「ディープインパクト記念」と言ったり書いたりしては誤りになるのだろうか。ジャングルポケットとフサイチホウオー父仔も勝ち馬に名を連ねる「共同通信杯(トキノミノル記念)」の「(トキノミノル記念)」は追加された副題だ。が、「弥生賞ディープインパクト記念」は改称されたレース名なので、やはり、こうしてフルで記すのが正しいのか。

 書きながら、先日、日本一長い駅名「トヨタモビリティ富山Gスクエア五福前(五福末広町)」がニュースになっていたことを思い出した。「弥生賞ディープインパクト記念」より、「アメリカジョッキークラブカップ」や「朝日杯フューチュリティステークス」のほうが少しだけ長いのだが、「カップ」は「C」、「フューチュリティステークス」は「FS」に短縮できる。「アイルランドトロフィー府中牝馬ステークス」も長いが、これも「トロフィー」を「T」、ステークスを「S」にできるし、JRAサイトのレーシングカレンダーなどでは「アイルランドトロフィー」を略している。

 今回もとりとめのない話になってしまった。

 杉花粉のせいで、目がかゆい。これは毎年のことなので仕方がないが、コロナによる取材制限は相変わらずつづいており、昨年同様、競馬場が遠い春になりそうだ。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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