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イレネー記念とばんえい記念

  • 2021年03月23日(火) 18時00分

またあらたな時代が始まるばんえい競馬


 ばんえい十勝が3月21日の開催で2020年度の全日程を終えた。今シーズンでまずよかったのは、昨年までばんえい記念の2週前に行われていたイレネー記念を、ばんえい記念前日の土曜日に実施したこと。今はコロナ禍という特殊な状況だが、日本全国からばんえい記念観戦に訪れるファンにとって、2日連続のビッグレース開催はうれしい。

 平地の競馬であれば“ダービー”の注目度が断然だが、ばんえい競馬では、ばんえいダービーよりも、2歳シーズン(明け3歳)のチャンピオン決定戦であるイレネー記念のタイトルを重んじる雰囲気がある。そういう意味では、土曜日にイレネー記念、日曜日に最高峰のばんえい記念という連続開催は盛り上がる。

 めずらしく混戦のメンバーとなったイレネー記念は、一冠目のナナカマド賞、二冠目のヤングチャンピオンシップには不出走で、ここが重賞初挑戦だったオーシャンウイナーが制した。ナナカマド賞は、売上が厳しかった2005〜07年には特別戦として行われたが、仮にその時代も重賞としてカウントするなら、NARのデータベースで調べることができた1993年以降、重賞初挑戦でイレネー記念を制したのは、今回のオーシャンウイナーが初めてだった。

 オーシャンウイナーの父はキタノタイショウで、イレネー記念は父子制覇となった。ばんえい記念も制したキタノタイショウは、2017年のばんえい記念(2着)を最後に引退して種牡馬となり、はじめて種付けをしたその年の8月に残念ながら死んでしまった。それゆえ残した産駒は、現3歳のわずか一世代のみ。NARのデータベースで検索すると、すでに引退した馬も含めてばんえいの競走馬として登録された産駒は22頭。オーシャンウイナーは、その数少ない産駒の中から2歳シーズンのチャンピオンとなった。

 ちなみに、キタノタイショウの引退レースとなった2017年のばんえい記念の勝ち馬は、同レース初挑戦で制したオレノココロだった。

 オレノココロは、オーシャンウイナーがイレネー記念を制した翌日のばんえい記念を最後に引退。ばんえい記念最多タイの4勝目を賭けて臨んだが、残念ながら4着。敗因のひとつは、すでに言われている通り、雪から雨になっての軽い馬場。

 そのばんえい記念は、同じくこれが引退レースとなった同期のコウシュハウンカイが前年同様、第2障害を先頭で切った。キタノユウジロウ、ホクショウマサル、ミノルシャープが差なく続き、オレノココロはやや差があっての5番手。乾いた馬場なら、おそらくオレノココロが届いていたと思われるタイミングだ。しかし前が止まらなかった。

 これまでばんえい記念に5度挑戦して3着が最高だったコウシュハウンカイにとって、この雪と雨は、最後の最後に天の恵みだったかもしれない。しかしそれをわずかに上回ったのは、ホクショウマサルの勢いと、キタノユウジロウの若さだった。

 それにしても、前の3頭がひと腰で第2障害をクリアし、さらにその3頭とオレノココロ、少なくとも4頭が第2障害を越えてからゴールまで一度も止まることがなかった。映像に映っていない部分もあるので確認はできないが、6着メジロゴーリキ、7着カンシャノココロも止まっていない可能性がある。1トンで争われるばんえい記念でこんな展開はめずらしい。

 水分量は2.7%だが、その数字よりもずっと馬場は軽かったように思われる。勝ちタイムは2分43秒4。2分台の決着は2012年にニシキダイジンが勝ったとき(2分34秒0)以来で、そのときは5.1%だった。

 勝ったホクショウマサルは、ばんえい記念は昨年初挑戦で3着だったあと、今シーズン前半はいわゆる“重病み”(※高重量戦を使ったことで反動が出ること)でまったくレースにならず。それで後半よく立て直したものと思う。

 ホクショウマサルの坂本東一調教師は、騎手時代、2007年にトモエパワーでばんえい記念を制したが、調教師としては初制覇。阿部武臣騎手は、ばんえい記念12回目の騎乗で初制覇。さらに阿部騎手は今シーズン180勝を挙げて初めてばんえいリーディングのトップに立った。映像で見ただけだが、表彰式のインタビューは感動的なものだった。

 今シーズンのばんえい競馬では、12月29日の売上が6億9728万3400円となり、1979年10月21日に記録した1日の売上レコード6億1千万円余りを41年ぶりに更新。そして今年度の売上総額483億5278万7900円は前年度比155.5%で、これまでの最高額322億9248万8800円(1991年度)を大きく上回るレコードとなった。

 廃止の危機もあって2007年度から帯広市の単独開催となったばんえい競馬は、その後も売上が下がり続け、2011年度は年間総額で103億6442万1300円にまで落ち込んだ。ばんえい競馬の重賞最多勝記録25勝を挙げたオレノココロ、そのライバルとして重賞15勝を挙げたコウシュハウンカイがデビューしたのは、その翌年のこと。まさにばんえい競馬がどん底だった時代だ。

 ばんえい競馬の1日平均の売上は、底を打った2011年度が約6730万円で、2020年度は約3億2235万円。平地の競馬と異なりJRA-PATでの発売がないにもかかわらず、売上は約4.8倍にもなった。ばんえい競馬の復活とともに活躍した2頭の名馬が引退して、4月からばんえい競馬はまたあらたな時代が始まる。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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