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リベンジに沸いた第53回ばんえい記念

  • 2021年03月25日(木) 18時00分

不振を乗り越えて掴んだ大きな勝利


 今年で53回目を迎えたばんえい記念が、去る3月21日(日)に帯広競馬場で行われ、昨年3着のホクショウマサルが見事に雪辱を果たし、初優勝した。阿部武臣騎手、坂本東一調教師ともにばんえい記念は初制覇。人も馬も初物づくしの記念すべきばんえい記念となった。レース後の勝利騎手インタビューでは、阿部武臣騎手が、集まったファンの前で感極まって涙する姿が印象的であった。

生産地便り

見事な末脚で差し切り、ばんえい競馬の頂点に立ったホクショウマサル


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「念願だった」と話すばんえい記念制覇に感極まる阿部武臣騎手


 コロナ禍ではあるが、やはりこのレースだけは生で見たいと思い、朝8時に自宅を出発した。天候は雨。私宅のある浦河町からは、通常“天馬街道”と呼ばれる国道236号線を使って大樹町まで出て、幕別町忠類から帯広広尾自動車道に乗って帯広市に至るルートが一般的だ、しかし236号線は、冬期間に雪崩の危険性がある場合、しばしば通行止めになる。この日も、往路は通過できたものの、帰路は午後の早い時間帯からすでに通行止めの措置が取られてしまった。

 雪がほとんど消えている日高側から野塚トンネルを通過し十勝側に出たとたん、景色が一変した。十勝地方は折からの低気圧により雪になっていた。競馬場到着は午前10時半。駐車場は8割方、埋まってきている。開門の12時までまだかなり時間があったが、そのまま車内で待機することにした。11時過ぎにはほぼ満車となった。 

 依然として雪が降り続いている。水分の多い春の雪なので、みぞれに近い。開門前には入口に200人ほどが三列で並んでいた。11時20分。検温を受け、入場する。

 スタンド内部はすでにかなりの人混みである。外気温はほぼ0度。寒いのと、雪のせいで、入場者の大半は中で過ごすことになる。やはり密状態になっているのが心配であった。

 とはいえ、昨年のばんえい記念が無観客の中で実施されたのを思い出すと、競馬場には大勢の観客がいた方が良いと改めて感じる。新型コロナ感染のリスクがあるにせよ、レース毎に熱心なファンがエキサイトゾーンに並び、レースの流れに沿ってゴール方向へ馬と一緒に歩きながら観戦する。これがばんえい競馬の醍醐味である。

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歩きながら観戦するファンの方々


 雪質がどんどん変わり、ついに雨になったが、それほど強い降り方ではない。傘を片手に観戦するファンもいる。冷たい雨を避けてレースの合間には外から人の姿が消える。その分、スタンド内はもうぎっしりである。

 レースが進み、いよいよ第9レースのばんえい記念に出走する各馬がパドックに姿を現した。人だかりが増えている。熱心にカメラを構える人が多い。大勢のファンが見守る中、騎手を背に各馬が周回を終えて、スタート地点へ移動して行く。それを追いかけながら付き添うように歩くファンもいる。

 午後5時25分。陸上自衛隊第5音楽隊の奏でるファンファーレが場内に響き渡り、いよいよ第53回ばんえい記念がスタートした。馬場水分は2.7%。出走馬10頭。

 ちょうどこの時間帯には雨が気にならない程度にまで上がってくれた。ただ、馬場は水分を含んでいて、かなり軽そうだ。

 難なく第一障害を越えた各馬が、第二障害の手前まで進む。そこで一旦止まり、息を整えて第二障害に挑む。乾いた馬場ならば、重量1トンの橇を曳いて第二障害を上がるのは、相当な負担になるが、今年に限っては、それこそ「ひと腰」で一気に乗り越える馬が続出であった。最初に6番コウシュハウンカイ(藤本匠騎手)と4番キタノユウジロウ(菊池一樹騎手)がほぼ並んで坂を下りてくる。その直後に9番ホクショウマサル(阿部武臣騎手)、そして一番人気のオレノココロ(鈴木恵介騎手)と続けて順調に第二障害をクリアする。

 馬場が軽いためにレース展開が淡白に感じるほどである。1トンを曳いているとは思えないような力強い動きで、先行した2頭にホクショウマサルがどんどん迫り、ゴール手前であっさりと交わして先頭で決勝点を通過した。第二障害を降りてから、一度も止まらなかった。

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31連勝中と満を持して挑んだ昨年は3着、見事に雪辱を果たす結果となった


 1着ホクショウマサル、2分43秒4。2着キタノユウジロウ、3着コウシュハウンカイ。1番人気に支持されたオレノココロは4着に敗れた。勝ちタイムが2分台での決着は近年では2012年に次ぐ速さで、しかも、最後尾のソウクンボーイ(村上章騎手)のゴールまでわずか40秒弱しかかかっておらず、いつもの年とはいささか様相が異なっていた。馬場状態が明暗を分けた一戦であった。

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▲激闘を演じた2着キタノユウジロウと、▼3着コウシュハウンカイ


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 ところで、私事ながら、浦河への帰り道のこと。236号線が午後の早い段階から通行止めになったのは知っていたが、何と午後8時に、もう一本のえりも方面からのルート、336号線も広尾町音調津(おしらべつ)で落石の恐れありとのことで同じく通行止めの措置がとられたため、ついに大樹町で泊まることになってしまった。

 もうひとつのルートは、帯広に戻り、道東道で千歳を経由して日高自動車道で戻るか、さもなくば日勝峠を超える274号線で清水町〜日高町を走るか、である。どちらも、かなりの大回りになり、所要時間もざっと7時間くらいはかかりそうで、ついにその日のうちに帰宅するのを断念したという次第。ばんえい記念当日、自宅に戻れなくなったのは初めてであった。

 北海道の3月は、稀にこういうアクシデントが起こる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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