スマートフォン版へ

【続報】馬主と調教師は聖域なのか?――「持続化給付金」大量受給問題

  • 2021年03月29日(月) 18時01分
 2月21日更新のコラムで触れた持続化給付金の大量受給問題は、余波がなおも続いている。JRAは3月5日、美浦・栗東の全ての調教師、騎手、調教助手、厩務員(補助員も含む)を対象とした受給状況の調査結果を農水省に報告し、翌6日に発表した。だが、発表後も新たな受給者の申告があり、再調査が行われるなど、基本的な事実関係の把握も終わっていない。

 今後は警察の捜査や、給付金を所管する経済産業省(中小企業庁)の調査の行方が焦点となるが、競馬界がこうした案件への制裁手段が限られているという問題も浮上してきた。一方で、制度的補完には限界があり、業界として社会的責任といかに向き合い、コンプライアンス(法令順守)を担保していくかという難題が重くのしかかる。

事態の重大性 認識に温度差?


 コロナ禍を受けた感染防止対策の影響で、営業的に打撃を受けた個人・法人の事業者の支援策として経産省が打ち出した持続化給付金を、中央の厩舎関係者が大規模に受給していた事実が報道されたのは2月16日。翌17日には衆院予算委員会で野上浩太郎・農水相が「JRAに厳正な対応を指示した」と答弁。これを受け、JRAは日本調教師会(橋田満会長)を通じて、各厩舎の受給状況の調査に入った。まずはその後の動きを整理する。

 厩舎関係者への全数調査は、記名欄のある調査票に自書する形で行われた。非受給者以外を、(1)適正受給 (2)申請後受給前に取り下げ (3)申請後受給前に取り下げ予定 (4)受給後返還 (5)受給後返還申請も不受理 (6)受給後返還申請前 (7)受け取ったまま――の7つに分類し、それぞれに対し、副業の状況など適正と判断した理由▽取り下げ・返還の時期 ▽手続の進行状況を質問していた。

 全数調査(以下「1次調査」とする)が進行中の時期に、実は厩舎関係者の間に、「受給しても返還すれば非受給と同じ」との考えがあったという。私的な会話でそうした発言を聞いたという話が、早くから聞こえていた。調査票を見れば、調査主体の日本調教師会も、事前に調整したJRAも、当然ながらこの考えを否定していたわけで、見えてくるのは、事態を問題視する側と当事者の間の相当な温度差である。

 この温度差は1次調査の結果発表が3月6日にずれ込む一因となった。JRAは3月1日に定例の役員人事を控えており、できれば2月末(27日が土曜のため実質的には26日)までに農水省への報告を終えたい状況にあった。ところが、集計が進む中で、栗東の調教師の受給者数(正確に言えば自己申告者)が美浦より少ないとの話が広がり、「震源は栗東のはずなのに」という疑問や当惑の声が出た。

 こうした雰囲気の中、調教師会は1次調査で受給を申告した人に対し、申請・受給に至った状況や税理士の助力の有無、取り下げや返還手続きを踏んだ経緯などを質問する2番目の調査票を送付。締め切りは2月28日に設定された。調査が月をまたいで続行する形となり、未申告の受給者にとっては一種の圧力として作用する形になった側面はある。

騎手・調教師の1割が受給


 曲折の末、3月6日に発表された1次調査結果は以下の通りだった。受給者は調教師が19(美浦11、栗東8)、騎手13(美浦8、栗東5)、厩務員・調教助手133(美浦23、栗東110)の計165人。発表時点で49人が既に給付金を返還し、114人が返還手続き中。残る2人のうち1人は美浦所属で、副業で飲食店を営んでおり、ここでの減収を理由とした申請だった。栗東所属のもう1人は病気休職中で接触が難しい状況だったが、後に「適切でない受給」と判断された。受給総額は1億8983万9222円に上った。

続きはプレミアムサービス登録でご覧になれます。

登録済みの方はこちらからログイン

コラムテーマ募集
教えてノモケン! / 野元賢一
このコラムでは、コラムニストに解説してほしいテーマを募集しています。
競馬で気になっている話題を、下記フォームからお寄せください。
質問フォームへ

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング