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4代母からの期待を背負うチサット

  • 2021年03月30日(火) 18時00分

一族悲願の東京ダービー制覇へ期待が広がる


 南関東のクラシックを目指す有力馬・期待馬が顔を揃えた3月24日の京浜盃は、波乱の決着となった。デビューから5連勝で全日本2歳優駿を制したアランバローズはスタートで出遅れ、砂をかぶって嫌がったか、見せ場をつくれず9着。全日本2歳優駿2着で、年明け初戦の雲取賞を圧勝したランリョウオーは2番手で直線を向いたものそこから伸びず5着。人気2頭が揃って馬券圏内を外した。

大井移籍後2連勝中だったチサットが勝利(C)netkeiba.com、撮影:高橋正和


 勝ったのは、北海道から大井移籍後2連勝中だったチサット。前記2頭に人気が集中したため、3番人気ながら単勝10.1倍。チサットは、母のネフェルメモリーが、東京2歳優駿牝馬、桜花賞(浦和)、東京プリンセス賞などを制した活躍馬だったことが言われているが、じつは4代母のシヤドウから続く南関東の名牝系の血を引いているのだ。

 1978年に川崎・高橋正豪厩舎からデビューしたシヤドウは、2歳時こそ7戦2勝の成績だったが、3歳になって桜花賞(浦和)、関東オークスと南関東の牝馬二冠を制覇(当時まだ東京プリンセス賞は行われていない)。その約1カ月後、シヤドウは変則三冠を狙って東京ダービーに出走。しかし14頭立ての12着に敗れた。

 さらにシヤドウは、当時は夏に行われていた地元川崎の報知オールスターCに挑戦。3歳牝馬ゆえ49kgという斤量に恵まれたこともあったが、古馬の牡馬相手に見事勝利。秋に出走したキヨフジ記念(現・エンプレス杯)では、牝馬同士ながら古馬相手に59kgを背負って勝利してみせた。

 4歳時には勝利がなく引退したシヤドウが13歳時に産んだのがカシワズプリンセスで、母と同じ川崎・高橋正豪厩舎から91年にデビュー。2歳時には7戦5勝で東京3歳(現・2歳)優駿牝馬を制した。

 高橋三郎騎手に乗替った3歳初戦、京浜盃は2着のグレイドショウリに6馬身差をつける圧勝。3歳牝馬オープンの桃花賞は、のちに桜花賞(浦和)を制するエースポポの2着に敗れたが、黒潮盃ではまたもグレイドショウリに1馬身半差をつけて1番人気にこたえた。

 そして臨んだ羽田盃は、単勝1.7倍の断然人気。カシワズプリンセスが牡馬の路線にこだわったのは、母シヤドウが果たせなかった東京ダービーのタイトルを獲るため。5番手あたりを追走したカシワズプリンセスは、3コーナー過ぎから徐々に進出。直線ではほとんど馬なりのまま、逃げていたナイキゴージャスをとらえると、1馬身半差をつけての完勝となった。勝ちタイム(当時の羽田盃は2000m)の2分7秒9は、ロジータの羽田盃の勝ちタイムを2秒3も上回るもの。ロジータが牡馬相手に南関東三冠を制し、東京大賞典も制したのはその3年前のこと。まだ記憶にも新しく、カシワズプリンセスは“ロジータの再来か”と言われるようになった。

 そして臨んだ東京ダービー。カシワズプリンセスの単勝支持率は45.3%。オッズの資料がないのだが、その数字からはおそらく1.6倍程度だったと思われる。個人的なことを言えば、現地で観戦した初めての東京ダービーがこの年だった。入場は約6万5千人と記録にある。コース内にはビジョンもあるにはあったが、今ほど鮮明に見えたわけではない。カシワズプリンセスは中団を追走したが、4コーナーあたりで完全に見失った。それもそのはず、馬群に飲み込まれ、15頭立ての14着だった。

 勝ったのは、カシワズプリンセスが京浜盃、黒潮盃で2着に負かしていたグレイドショウリ。一騎打ちとなって3/4馬身差2着は、同じく羽田盃で2着に負かしていたナイキゴージャスだった。

「スタートしてから行きっぷりが悪かった」というのが当時のコメントだが、何年も経って調教師になっていた高橋三郎さんにうかがったことがある。「レース前から2400mはもたないと思っていた。レース前からみんなが勝てる勝てるって盛り上げるもんだから、その不安は言えなかった」ということだった。

 結果的にそれが最後の勝利となったカシワズプリンセスは、翌年の帝王賞(15着)を最後に引退。13歳のときに産んだケイアイメモリー(中央1戦0勝)を経て誕生したのが、のちにチサットの母となるネフェルメモリーだ。

 冒頭のとおり、桜花賞、東京プリンセス賞を制したネフェルメモリーは、牝馬三冠目の関東オークスへは向かわず、祖母カシワズプリンセス、曾祖母シヤドウが牡馬のカベに跳ね返された東京ダービーに挑戦。堂々の1番人気に支持され、逃げて直線でも先頭。宿願は成就するかに思われた。しかし、ゴール前で後続に一気に交わされ4着だった。

 南関東クラシック戦線の有力馬として浮上したチサットには、4代母シヤドウ、曾祖母カシワズプリンセス、そして母ネフェルメモリーが、牝馬ながら挑んで成し得なかった東京ダービー制覇の夢がかかる。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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