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【皐月賞】横山武史騎手の巧みなコーナーワークと“懐が深い”騎乗フォーム

  • 2021年04月20日(火) 18時00分
哲三の眼

皐月賞を制し無傷の4連勝! 横山武史騎手もこのポーズ (撮影:下野雄規)


今年の皐月賞を制したのは2番人気のエフフォーリア!これで無傷の4連勝となりました。今回のレースを振り返り、「冷静に周りも見えていて、まさに完勝と言えるレース」と絶賛した哲三氏。1番人気だったダノンザキッドとの攻防や横山武史騎手のレーススタイルについて詳しく解説します。

(構成=赤見千尋)

普段通りの自分の良さを出せたことが一番の勝因


 皐月賞はエフフォーリアが無傷の4連勝で勝利!2番人気とはいえ1番人気だったダノンザキッドと人気を分け合う形でしたから、コンビを組む(横山)武史君にとってもプレッシャーは大きかったと思います。そんな中で、普段通りの自分の良さを出せたことが、一番の勝因だったと感じました。

哲三の眼

口取り式でのエフフォーリアの様子 (撮影:下野雄規)


 枠順の並びで、エフフォーリアのすぐ外側にはダノンザキッドがいました。ダノンザキッドは前走の弥生賞ディープインパクト記念で折り合いに苦労しているように見えたので、今回はエフフォーリアより後ろに付けて来るのではないかと想像していたのですが、川田(将雅)君は好スタートを決めて、好位に付ける選択をしました。エフフォーリアと武史君にとっては、外隣の馬の方がスタートが速く、しかも相手はダノンザキッド。相当なプレッシャーになったのではないかと思います。

 でもここで、武史君は簡単に下げることをしなかった。下げて後ろに回って外に出そうというレースではなく、馬場のある程度悪いところでも自信を持って入って行きました。引かないで内に入って行ったというところは、川田君の馬の位置取りによって内に行かされているところもあると思います。ここは川田君の上手さですが、武史君としては、今のエフフォーリアならば多少馬場が悪くても頑張ってくれるという自信があったのではないでしょうか。そしてそこからの、1、2コーナーの騎乗が絶妙でした。

 今年の大阪杯の時のコラムで、川田君のコーナーワークの上手さについてお話させていただきました。1コーナーに入って行って、コーナーの真ん中辺まではしっかり折り合いをつけて、真ん中辺からは少し出しながら折り合いを付けていた、という話だったのですが、今回の武史君のコーナーワークはその逆。川田君が前にいるので、内に進入してコーナーの真ん中辺まである程度出しながら、川田君の馬よりもアタマ一つ分くらい出て、優位になる形を作りました。そこから抑え出して、ポジション的には川田君の方が前になりましたが、あのコーナーワークは上手いなと。

ヨーロッパの騎手を見ているようなレーススタイル


 本人が駆け引きをしているかしていないかはわからないけれど、展開の中で駆け引きに見えることを自然と出来ているわけです。そしてその駆け引きをしている中で、武史君の騎乗フォームは馬の体幹から離れ過ぎず近過ぎず、懐が深いんですよね。抑えるにしても前に出すにしても、馬のクビの動きに合わせていて、すごくいい間合いで騎乗しているので、ヨーロッパのジョッキーを見ているみたいだなと感じます。

 ヨーロッパのトップジョッキーは、レースの中で簡単には下げないですし、そういうレーススタイルも含め、いいところを見ているなと。昔の日本の競馬のセオリーでは、簡単に下げるというか、折り合いをつけるという意味合いが違っていて。後ろから行って末脚を活かすために折り合いを付けるというのが軸になる考え方でしたが、ある程度いいポジションを取ってそこで折り合いをつけるというのが今の競馬の主流ですよね。

哲三の眼

「すごくいい間合いで騎乗している」と哲三氏 (撮影:下野雄規)


 もちろんレースによって、馬によっては後方からの方がいい場合もありますが、世界のトップジョッキーが毎年たくさん来るようになって、日本の競馬も変わりました。武史君は2017年デビューですから、デビューした時には普通にヨーロッパのトップジョッキーたちが来日して来る環境で、そこがベースになっている世代です。普段のレースを見ていても簡単に下げていないですし、ポジションをまず取るという意識が強いイメージがあって、ライアン・ムーア騎手やオイシン・マーフィー騎手のレーススタイルに近いのかなという風に感じています。

 僕はそういうレーススタイルが好きですし、乗り方に関しては人それぞれ違いますが、肘や膝のラインが絶妙で、懐の深い騎乗フォームもとてもいいなと思いながら見ています。今回のレースでは、4コーナーからの抜け出しが目立ったと思いますが、こじ開けられるという自信があったと感じますし、冷静に周りも見えていて、まさに完勝と言えるレースでした。

 1番人気だったダノンザキッドは結果的に15着に敗れましたが、先ほども書いたように、川田君の「勝つためにはどうしたらいいか」という意思はすごく伝わりました。最初から出して行こうと考えていたのか、当日の馬場やエフフォーリアの状態を見て「後ろからでは届かない」と感じたのかはわかりませんが、勝つための戦略を打ち出して行ったと思います。今回の結果は残念でしたが、この先の巻き返しを期待して応援していきたいと思います。

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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