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【マイラーズC/QE2世C】いかに馬の力を引き出すか…怖がらずシンプルな騎乗を選んだ古川吉洋騎手

  • 2021年04月27日(火) 18時00分
哲三の眼

見事な騎乗でV! 笑顔を見せる古川吉洋騎手 (C)netkeiba.com


今週はふたつのレースをピックアップしてお届けします。まずはマイラーズC。急きょ乗り替わりとなるも、見事ケイデンスコールとともに勝利を飾った古川吉洋騎手。「素晴らしい騎乗ぶり」と絶賛の哲三氏ですが、レース前は少し心配な面もあったそうで…?香港で行われたクイーンエリザベス2世Cでは、ラヴズオンリーユーが久しぶりのGI制覇。今回初めて注目したというC.ホー騎手の騎乗について振り返ります。

(構成=赤見千尋)

心配を吹き飛ばす素晴らしい騎乗ぶり


 マイラーズカップは2番人気だったケイデンスコールが差し切り勝ち。急きょの代打だった古川(吉洋)君の騎乗はお見事でしたね。古川君は僕の現役時代からの、可愛い後輩の一人です。馬のことも騎乗のことも普段からいろいろと考えているジョッキーで、もちろん考えるのはとてもいいことですが、今回の乗り替わりのニュースを聞いた時、少し心配だなという気持ちがありました。

 何を心配したのかというと、ケイデンスコールはここ2戦、岩田(康誠)騎手鞍上で好結果を出していました。岩田君独特の内に突っ込んで行く騎乗で、そういう形で結果を出していたわけですから、同じような形を選択するのではないかと。もしそうなったらちょっと厳しいのではないかと想像していたんです。

 しかし、そんな僕の心配を吹き飛ばす素晴らしい騎乗ぶりでしたね。古川君の中にも、前任者の乗り方は頭の中にあったとは思いますが、そこにこだわることよりも、いかにスムーズにケイデンスコールの力を引き出すか、というところに主眼を置いた騎乗だったと思います。

 道中は外に出し過ぎずに揉まれない位置取りで、直線で外に出して伸びて来るという形。見ている分にはとてもシンプルな騎乗だったと感じますが、先ほども言ったように内を突いて結果を出して来た馬に対して、しかも重賞で急きょの乗り替わりの上、上位人気になっている、という状況を考えると、かなり勇気が要ることだなと。

 外に出してしっかり反応してくれるのか、というところを怖がらずに、シンプルな騎乗を選択しました。直線の伸び脚は素晴らしかったですし、そこに繋がって行くのが道中の運びで、特に4コーナーの回り方は馬にとって走りやすい形だったと感じます。

 3馬身くらい前に馬を置いていて、前の馬に付き過ぎず、外回りの惰力を使って伸びて来るようなイメージ。そこでスピードに乗せることが出来たので、あとは力通りというところに持ち込めたのが良かったと思います。

哲三の眼

「直線の伸び脚は素晴らしかった」と哲三氏 (C)netkeiba.com


 これは僕の持論ですが、自分の考えにこだわってしまい、「何番手に行きたい」「どこを走りたい」という騎手自身のやりたいことが見え過ぎる騎乗というのは、重賞やGIではあまりいい方向に行かないと考えています。若馬の頃や下級条件などステップアップしていく過程では必要だと思いますが、重賞やGIで馬がある程度出来上がっている場合は、騎手がどうこうしたいというよりも、馬の力をそのまま出してあげる方がいいのではないかと。

 古川君のことを応援しているからこそ言いますが、GIなどではちょっと考え過ぎているのではないかと感じていました。でも今回、急きょの乗り替わりで短時間にいろいろ考えることがあったと思いますが、その中で「馬が走りやすいように」というシンプルな競馬が出来たことは、大きな経験になったと思います。ずっと頑張って来た古川君がこうしてチャンスを掴んで好結果を出してくれたこと、僕もとても嬉しいです。

「世界には巧い騎手がたくさんいる」と改めて実感


 香港で行われたクイーンエリザベス2世カップはラヴズオンリーユーが久しぶりのGI制覇を決めました。鞍上のC.ホー騎手は今回初めて注目させてもらったのですが、世界には巧い騎手がたくさんいるんだなと改めて感じました。

 4コーナーの回り方を見ていただきたいのですが、少頭数のコーナリングで内有利か外有利かというところを外有利に持ち込む乗り方をしているんです。4コーナーの回りしな、右手綱をちょっと開いているんですが、開いたまま前に追っ付けて、すぐに拳を戻していない。4コーナーを回り切って、直線の立ち上がりで右拳を戻し、そこでハミがしっかり掛かるように持って行っている。

 前に進むためのコーナリングなのか、コーナリングで走りのバランスを整えたいのか、というところで、前に進むコーナリングだと感じます。もちろん馬によってや馬場によって状況は変わりますが、僕には遠心力を使ってスピードに乗せているように見えるし、4コーナーでスピードに乗っているので直線の加速が速いですよね。

 さらに、全体的に言えることは、馬のクビの使い方、使わせ方が巧いなと。ラヴズオンリーユーの走りを見ていると、クビ筋の筋肉の使い方がすごくなめらかで、クビの動きをロックしていないんです。僕が一番大事にしている動きはクビの付け根から頭の先の方の動きで、この動きからこの馬はどういうタイプなんだろうと考えていくわけですが、一歩一歩の走りを見ているとまったくロックが掛かっていない。ペースダウンするために抑える場面はありますが、クビの根っこのところにロックを掛けるような抑え方をしていないんです。

哲三の眼

久しぶりのGI制覇を決めたラヴズオンリーユー (撮影:Lo Chun Kit)


 先週もお話ししましたが、以前の日本の競馬は最後の決め脚重視で、道中はロックを掛けて折り合いを付け、直線でロックを外して一気にスピードアップする、というイメージでした。しかし今は、道中からロックを掛けずにスピードに乗せながら折り合いを付ける、というのが主流になって来ています。簡単に言うと、道中で無駄にスピードを落とさない、ということです。ホー騎手の普段のレースを見ていませんが、おそらく普段からそういう部分を大切にして騎乗しているのではないでしょうか。

 世界にはまだまだ巧い騎手がたくさんいますし、最近地方競馬のお仕事も増えて今まで以上に見る機会が多くなっていて、いろいろなジョッキーを見るのがとても面白いです。

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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