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アグネスデジタル、17年間の種牡馬生活を終え十勝へ「元気で1日でも長く生きて」

  • 2021年05月02日(日) 18時02分
ノンフィクションファイル

▲国内外で活躍したアグネスデジタルが種牡馬を引退 (写真提供:ビッグレッドファーム)


地方・盛岡のダートで南部杯を制したかと思えば、次走は芝の天皇賞・秋で、テイエムオペラオー相手に勝利するなど、芝・ダートを問わず国内外で活躍したアグネスデジタルが、種牡馬を引退しました。

17年間、種牡馬として過ごしたのはビッグレッドファーム。種牡馬としては珍しく夜間放牧が行われたり、種付け時にはとある配慮がされていたとか。そこには彼の健康を願う思いが込められていました。

これから十勝軽種馬農業協同組合・種馬場で余生を過ごすアグネスデジタルについての思い出を、ビッグレッドファーム・スタリオン部門主任の木村浩史氏に伺いました。

(取材・構成=大恵陽子)

※このインタビューは電話取材で行いました

夜間放牧でストレス解消していた種牡馬時代


――稀代のオールラウンダーとして活躍したアグネスデジタルが今年をもって種牡馬を引退とのことですが、ビッグレッドファームに種牡馬入りしたのは2004年1月でした。当時の印象はどのようなものでしたか?

木村氏 当時の担当スタッフに伺ったところ、非常に大人しくて賢い印象を受けていたようです。内外からかなり注目されていたので、受け入れる際には大きなプレッシャーを感じていたようです。

 私がアグネスデジタルと関わるようになったのはその2年後からでしたが、種牡馬を扱うのが初めての経験で、「これが世界に通じる馬なんだな」と実感したのが第一印象でした。

 現代の競馬では距離体系や路線が確立されている中、当時は異色のオールラウンダーで、アメリカ産馬の象徴的な馬体や、発達した筋肉とその丈夫さを感じました。

――おっしゃるように、現代はどんどんスペシャリストを目指す流れですから、最近競馬ファンになった方がアグネスデジタルの競走成績を見たら度肝を抜かすかもしれませんね(笑)。

木村氏 いまの競馬体系ではちょっと考えられない路線になりますから、信じられないような成績だと思います。

 アグネスデジタルが現役の頃、私は別の牧場で働いていて、一競馬ファンとして応援していましたけど、「よもやこのローテーションでこのレースを勝つのか!」という異次元な馬だなという印象がありました。

 その後、ビッグレッドファームに入社して直接携われるようになるなんて、夢にも思いませんでした。二重の驚きです。

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▲アグネスデジタルは「異次元な馬」 (写真提供:ビッグレッドファーム)


――種牡馬としてはどんな性格でしたか?

木村氏 管理されていた白井寿昭元調教師が「本当に扱いやすくて大人しい子です」とおっしゃっていた通りでした。

 その中で一本筋が通っているところもあって、時折気の強い面を見せることもありましたが、その芯の強さが長距離輸送や海外でもブレない精神を保てるところに繋がっていたのかな、と感じました。

――海外では香港カップも勝っていますものね。産駒の重賞初制覇は芝のシンザン記念(2008年ドリームシグナル)でしたが、同年のユニコーンSをユビキタスが制覇するなど、産駒も芝・ダート問わず活躍しました。

木村氏 配合相手で産駒の傾向は変わってくると思うんですけど、彼自身がオールラウンダーであったように、芝でも活躍馬を出しましたし、力のいるダートでも活躍馬を多く輩出してくれて、遺伝子を受け継いでくれた子が多かったなという印象です。

――種付けなどにあたって、好みの牝馬とかはいたんですか?

木村氏 特に選り好みするようなタイプではなかったですね。ただ、デジタル自身が当時だと小柄な部類に入る馬体でしたので、大きな牝馬が配合相手となることが多かったです。

 そのため、牝馬のすぐ後ろに畳を置いてあげて、高さを合わせてあげたりもしました。畳の厚さだけでは足りない場合は、牝馬が少し低いところに立つなど試行錯誤しながら取り組んでいました。

 最盛期ですと150頭以上に交配することもありましたので、体にかかる負担を極力少なくしてあげられるように、ケアしながら取り組んでいました。

――負担のかからないよう、大切に扱われてきたんですね。種付けが終わったオフシーズンはどう過ごしていたんですか?

木村氏 ビッグレッドファームでは種付け頭数が落ち着く6月末頃から、一貫して夜間放牧を行っています。外で20時間くらい過ごして、運動したりシーズン中の疲れやストレスを抜いてあげられる形をとっています。

――種牡馬でも夜間放牧をするんですね!てっきり仔馬だけだと思っていました。

木村氏 個別で何頭かずつっていう所はあるかもしれませんが、種牡馬を夜間放牧をベースとして管理しているのは、日本ではおそらくビッグレッドファームだけかと思います。

――それは、先日亡くなられた岡田繫幸さんのご意向なのでしょうか?

木村氏 そうですね、創始者の岡田繫幸の考えのもとで、運動量を確保するということと、心身のストレスを軽減してあげること、また良好な青草をたくさん摂取することで健康を維持していくという考えのもとで取り組んでいます。

――ビッグレッドファームがもう一つ特徴的なのが、開放的な雰囲気でファンの見学を受け入れているということだと思います。訪れるファンも多かったのではないですか?

木村氏 比較的自由な形でみなさまに見学いただける環境を整えています。アグネスデジタルと、国内シャトルだったステイゴールドの2頭は圧倒的にファンが多かったですね。節目にお手紙をいただいたり、プレゼントでニンジンをいただいたりと、いろいろな方にご支援いただきました。

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▲圧倒的にファンが多かったというアグネスデジタル (写真提供:ビッグレッドファーム)


ファンの支えが励みに


――そうしたファンからの支えもあって種牡馬生活を続けてきたんですね。24歳になり、今年で種牡馬を引退して、これからは十勝で余生を過ごすそうですね。

木村氏 今年は種付けを行っておらず、昨年種付けをして、今年産まれてくる仔馬が最後の世代となります。

 いま繋養している中では一番長く在籍していた種馬で、デジタルがここを退厩することはあまり想像していなかったんですけど、いいお話をいただきましたので、「17年間、種牡馬生活お疲れさまでした。あとはゆっくり過ごしてください」という気持ちで十勝軽種馬農業協同組合・種馬場さんに送り出しました。

――日高山脈を越えて、帯広から約15km離れた幕別町という街でこれからはのんびりと過ごすんですね。

木村氏 4月25日に、4時間弱かけて移動しました。私も帯同し、牧場さんにお伺いしました。

 担当されている中川郁夫さんは数十年、種馬を扱っていらしたので、我々なんかよりもずっとベテランで、馬の扱いも慣れてらっしゃいます。かつてはエアジハードもいて、ご長寿の馬が多いようなので、いい環境だと感じています。

――最近は新型コロナウイルスの影響でビッグレッドファームでは万全を期すため見学不可でしたが、状況が落ち着いたら、ファンの方には十勝に会いに行っていただきたいですね。

木村氏 種牡馬引退の発表から移動までに少し時間がありましたので、最後にみなさんにデジタルを見ていただきたいなと思っていたんですけど、あいにく状況が叶わず、ファンの方には申し訳ない気持ちです。

 ぜひ「競走馬のふるさと案内所十勝連絡センター」経由で牧場さんのご事情を確認した上で、できる限り行っていただけたらなと思います。

――ビッグレッドファームにとってアグネスデジタルはどんな存在でしたか?

木村氏 ステイゴールドを筆頭に数々の繋養種牡馬がおりますが、これだけの競走成績を収めた馬がビッグレッドファームにスタッドインということはほぼ初めてでしたので、ビッグレッドファームを広めてくれた存在のうちの1頭で、非常に大きな存在と捉えています。

――改めて、アグネスデジタルやファンに向けてメッセージをお願いします。

木村氏 まずは、アグネスデジタルが種牡馬でビッグレッドファームに入る際に、お世話になりました故・渡辺孝男オーナー、白井元調教師、シンジゲートで携わってくださった生産牧場やオーナー様にこの場を借りて改めて感謝を申し上げたいです。

 ファンの方にもいろいろな形で応援していただきました。実際に牧場に来てデジタルに会って応援していただいたり、その都度お手紙をいただいたり、デジタルの産駒を競馬場で応援してくださったりなど、ファンの支えが我々の励みになりました。ファンの方にもこの場をお借りして改めてお礼申し上げたいです。

 デジタルには17年間、一生懸命種馬のお仕事をしてもらって、日本の競馬界に貢献してもらい感謝の気持ちでいっぱいです。一緒に仕事ができてよかったなと思います。

 これからは十勝の新しい環境でのんびりと、元気で1日でも長く生きてほしいなという思いだけです。

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▲17年間、種牡馬生活お疲れさまでした! (写真提供:ビッグレッドファーム)

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