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兄弟4人がみな騎手など、個性豊かな新人騎手

  • 2021年05月04日(火) 18時00分
4月に地方競馬でデビューした新人騎手たちが各地で奮闘しています。名古屋競馬でデビューした塚本征吾騎手はデビュー日に初勝利を挙げ、岡遼太郎騎手(高知)もデビュー3週目の4月25日に初勝利。それぞれ、競馬とは無縁の一般家庭の出身ですが、塚本騎手は兄3人がみなジョッキーになるという特殊な家庭、岡騎手は母が競馬ファンという環境でジョッキーを目指しました。ある意味「ニューノーマル」な環境で育った二人の「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

兄のレースを見て「ジョッキー以外考えられなくなった」


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▲地方競馬で最近話題(!?)塚本四兄弟の四男・塚本征吾騎手


 競馬界にはさまざまな兄弟が活躍しています。最も有名なのはJRAの武豊騎手・武幸四郎調教師(元騎手)でしょう。調教師同士では高柳瑞樹・大輔調教師が兄弟、柴田大知・未崎騎手は双子です。たいていは兄弟2人が競馬界で活躍するケースが多いのですが、地方競馬で最近話題なのが「塚本四兄弟」。

 甲賀弘隆騎手(旧姓:塚本、25歳、金沢)、塚本雄大騎手(22歳、高知)、塚本涼人騎手(19歳、岩手)がすでに活躍中で、四男の塚本征吾騎手(17歳、名古屋)が先月19日、名古屋競馬場でデビューを迎えました。(ちなみに塚本ブラザーズは5人兄弟。末っ子はまだ小さいそうです)

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▲金沢所属、塚本四兄弟の長男・甲賀弘隆騎手(旧姓:塚本)


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▲高知所属の次男・塚本雄大騎手


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▲岩手所属の三男・塚本涼人騎手


 征吾騎手がジョッキーを志したきっかけを聞くと、長男・弘隆騎手が船橋所属時代に家族でレースを見に行ったことでした。

「兄はどこか遠くの学校に行ったくらいしか認識していなくて、ジョッキーがどういう仕事かも全然知らなかったんですけど、小学4年生くらいの時に船橋競馬場で兄のレースを見て、華やかだなと思ってジョッキーを志しました。それからはジョッキーになること以外は考えられなくなりました。インターネットで調べると、地方競馬教養センターの入所試験では懸垂や1500m走があると知ったので、2学年上の兄・涼人と一緒に練習していました」

 出身は静岡県。競馬場のない土地ですが、お父様の知り合いに競馬関係者がいたことから、弘隆騎手が小柄な体格を生かせるジョッキーになったそうです。そして、弟たちがみな、その背中を追っていきました。

「兄とは違う競馬場に所属したい」と名古屋競馬場を希望。櫻井今朝利厩舎所属でデビューしました。

「兄のレースとかを見てシミュレーションしていたんですけど、レースは想像とは全然違いました。馬同士の間隔がタイトなので、半馬身ズレただけで事故が起きてしまうと感じました」

 模擬レースと違い、12頭立てと一気に頭数が増えて戸惑いもあったようですが、デビュー初日の5レースをプライムエルフに騎乗し、見事初勝利を挙げることができました。

「馬が本当に強くて感謝です。1週間くらい前から『この馬、走るし人気になるぞ』と言われていて、実際にバリバリの1番人気。緊張しました」

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▲デビュー初日に見事初勝利!(提供:愛知県競馬組合)


 4コーナーで一旦は先頭に立ったものの、勢い余って外に膨れてしまい2番手に後退してしまう場面もありましたが、「最後にすごく伸びてくれました。ゴール直前まではがむしゃらでした」と振り返ります。

 名古屋にはいま、3kg減の若手騎手が他に2人いるのですが、デビュー週は毎日6鞍以上の騎乗依頼を受けた塚本騎手。教養センターの教官からの評価も高いようです。

「名古屋は前でレースを進めていかないとチャンスが少なくなるので、スタートダッシュを決めてもっと前でレースができるようになりたいです。いつか兄弟全員でレースをしてみたいです」

 課題を一つ一つクリアし、昨年ヤングジョッキーズシリーズで総合2位に輝いた兄・雄大騎手を超える活躍を期待しています。

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▲初勝利時の口取り、これから益々の活躍に期待!(提供:愛知県競馬組合)


砂の深い高知は騎手もパワーを求められる


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▲高知競馬所属の岡遼太郎騎手


 岡遼太郎騎手は競馬好きのお母様からJRA競馬学校のパンフレットを中学2年生の時に見せてもらい、明確に「ジョッキーになりたい!」と思いました。

 東京都出身で、大井競馬場で家族と東京大賞典を観戦するなど都会っ子でしたが、所属先を高知競馬場に決めたのには半年先にデビューした先輩の存在がありました。

「(井上)瑛太さんから『高知は楽しいところだよ』と誘われたんです」

 昨年10月にデビューした井上騎手は、おじい様とおばあ様が高知で厩務員をされていて、自身も中学生の頃から厩舎に遊びに行くなど、高知競馬大好きっ子。

 そんな彼からの勧誘を受けて、高知・中西達也厩舎所属になりました。中西調教師は元騎手で地方通算2597勝を挙げ、引退の1カ月前に行われた高知優駿をフリビオンで制覇すると、10月の西日本ダービーは調教師としてフリビオンで制覇。ダンディーな風貌から「アーサー」の愛称で親しまれています。

 岡騎手は中西調教師について「現役時代の映像を見て、姿勢がとてもきれいだなと感じました。調教でどんな馬でも乗りこなしていて、自分もそうなりたいと思いました」と目標に掲げ、師匠の勝負服のデザインを受け継ぎ、袖の一本輪を自身が好きな黄色に変えました。

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▲師匠のデザインを受け継いだ青・袖黄一本輪の勝負服


 今年は新人の初勝利が早く、「同期がどんどん初勝利を挙げているので、焦ります」と不安そうな表情を見せていましたが、4月10日のデビューから6日目の騎乗となった4月25日の3R、自厩舎のサンジレットで待望の初勝利を収めました。

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▲自厩舎のサンジレット号で初勝利!(提供:高知県競馬組合)


 これで少しはホッとしたことでしょう。それは、弟子を預かる中西調教師も同じようでした。

 園田・姫路競馬で3名の新人騎手がデビューした時も、本人たち以上に師匠が緊張したりソワソワした様子を見せていましたから、指導し見守る立場の責任の大きさを感じます。

 当の本人・岡騎手は焦りの中でもデビュー週から競馬の楽しさを感じていたようで

「また早く土日にならないかなって楽しみが増えました。中西調教師からは『1鞍1鞍、ミスをしたところを修正して、そこを究めていきなさい』と言われました。教養センターとは全然違って、高知の馬場は重たくて追う力が足りないと感じるので、そこを強化していきたいです」

 日本一、砂が深いとも言われる高知競馬場。馬だけでなくジョッキーにもパワーとスタミナが求められるんですね。師匠のようにファンを魅了するジョッキーになることを楽しみにしています。

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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