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【NHKマイルC】GIの舞台で「無駄なことをしない」難しさ ルメール騎手の安定した騎乗

  • 2021年05月11日(火) 18時00分
哲三の眼

接戦を繰り広げたルメール騎手と池添謙一騎手 (撮影:下野雄規)


NHKマイルカップを制したのは2番人気のシュネルマイスター。ゴール前でソングラインと接戦を繰り広げ、ハナ差での勝利となりました。今回は「巧いとしかいいようがない」と哲三氏も唸るルメール騎手の騎乗について解説しつつ、池添謙一騎手とのフォームの違いにも注目します。

(構成=赤見千尋)

若手が見習うべきところが詰まったレース


 NHKマイルカップは2番人気だったシュネルマイスターがハナ差で勝利しました。鞍上のクリストフ(・ルメール騎手)については、いつもさすがの騎乗だという話をしていますが、今回は乗り方はもちろん、読みも素晴らしいなと感じました。

 読みというのは、自分の愛馬がどういう脚を持っていて、それをどのくらい使えるか、というところです。僕の中でのシュネルマイスターのイメージは、全体的な時計はどのくらい速くなってもいいけれど、上がり3ハロンは34秒台前半でやり繰り出来たら、勝ち負け出来るのではないかという読みをしていました。

 もちろんスローペースで上がり33秒台で差し切るというのも出来るかもしれないし、先行して押し切るレースも出来るかもしれない。ただ、今回のメンバーではそんなに前に行けるわけではないだろうし、その中でポジションをしっかり取りに行くと終いが甘くなるのではないかと思ったり。現時点でこの馬にとっての強さを出せる競馬というのは、34秒台前半の脚で差し切る競馬かなと想像していました。

 実際にスタートしてポジション取りには参加しなかったですよね。でも注目していただきたいのが、参加しなかった馬たちの中ではポジションをしっかり取っているところ。ポジションを取りにいかないからといって、どこでもいいわけではないんです。あれ以上後ろだったらキツい展開になっただろうし、あれ以上前でもキツかったのではないかと。クリストフの経験値があってのポジショニングで、シュネルマイスターが終いの脚をこのくらい使えるという逆算も出来ているなと思いました。

 4コーナーの回り方を見ていただくと、少し前との距離があるのに全く慌てていないんです。あの場面ではもうちょっと焦ったり、前に取りつこうとしたり、外に出そうとしたりするジョッキーがたくさんいると思います。でもクリストフは全然外に出そうとしていないし、慌てて追っ付けていくこともない。だからといって、手ごたえがすごくある感じでもないんですよね。それでも「差し切る自信があるんだろうな」と思いながら見ていました。

 結局、自身は全く外に出さずに、謙君が内にもたれていたこともあって、ずっと真っすぐ走って差し切りました。0.1秒が大事なレースだということをしっかり認識していて、距離のロスを作らない。それが最後のハナ差に繋がっていくと思います。

哲三の眼

ゴール前のシュネルマイスターとソングライン (撮影:下野雄規)


 もちろん、外に出すことが有効な場面もたくさんありますが、今回は0.1秒速く走らせてあげるために、ロスになること、無駄になることを全くしませんでした。GIの舞台で「勝ちたい!」という想いがより強い時、ジョッキーは馬に「いいことをしてあげたい」と思うものです。その中で「無駄なことをしない」という選択肢はとても難しいと感じます。それを難なくやってのけるクリストフ。全く無駄のないコース取りで、巧いとしかいいようがないですね。

 コース取りだけではなく、馬の走らせ方もさすがでした。馬の軸、芯になる部分をしっかり掴めているので、馬と騎手が安定している。若手のジョッキーたちにとって、見習うべきところが詰まったレースでした。

 2着だったソングラインの(池添)謙君も好騎乗でしたね。最後内にささったのは、東京の長い直線の中で、勝負賭けに行って早め先頭になったので、仕方のないことだと感じます。桜花賞でも期待していた馬で、あの時は15着に負けてしまいましたが、不利があって度外視出来ると再確認出来ました。ハナ差で差されて悔しいとは思いますが、いいレースが出来たという気持ちもあると思います。今後の修正点も見えたでしょうし、この先がまた楽しみになりました。

フォームに表れていた2人の騎乗の特徴


 レース後、netkeibaに掲載されたゴール写真を見て、クリストフと謙君の接戦のフォームの違いがとても面白いなと感じました。ざっくり言うと、クリストフは上り坂をしっかり走らせられるフォームで、ヨーロピアンスタイル。しっかりと馬をヘッドアップして走らせることが出来るので、クリストフのレース後コメントで「ソラを使ったから負けた」というようなことはあまり聞かないと思います。

 謙君は無駄のない形でスピードに乗って行くフォームで、下り坂でペースアップもペースダウンも出来る、その微調整がすごく上手いんです。前目にピタッとフィットしたフォームで、スピード競馬のアメリカンスタイルというイメージ。

 どちらも極めている乗り方なので、騎乗の特徴がフォームに表れているのがすごく面白かったです。フォームについての細かい話は、いつか動画を見ながらお話出来たらと思っています。
 
哲三の眼

「フォームの違いがとても面白い」と哲三氏 (撮影:下野雄規)


 スタートで躓いて落馬してしまったバスラットレオンはとても残念でした。騎乗していた(藤岡)佑介は落ち込んでいると思いますが、ジョッキーとしてあの躓き方をされたら仕方ないなという風に感じました。パトロールビデオを見た方はわかると思いますが、どうしてもハナに行かなければという感じで焦っていたわけでもないですし、あそこまで躓いたら仕方ないかなと。ただ、仕方ない中にも改善点を見つけていかないといけないと思います。落ち込むことも大切ですし、その後は気持ちを切り替えて頑張って欲しいですね。応援してくれていた人、馬券を買ってくれていた人に、いいアピールをして欲しいです。

 京都新聞杯の川田(将雅)君も、先ほどお話ししたクリストフの騎乗と同じく、ペースが速いと思ってポジションを取りにいかなかった割にはポジションを取っているという形でした。ペースが速かったので脚を溜める競馬を選択したわけですが、その中で有力なライバルとなりうる馬よりは前に行っていたとか、コース取りを上手く使っているとか、上手く内にいれたり向正面で少し外に出したり、余裕がある時に馬の態勢をしっかり作ったり。道中いたるところで見えにくい工夫をいくつもしているんです。やはり勝つ騎手は違うなというところを見せてくれました。

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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