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引退馬の命を繋ぐ「フォスターペアレント制度」ナイスネイチャのバースデードネーション(2)

  • 2021年05月11日(火) 18時00分
第二のストーリー

渡辺牧場で余生を過ごすナイスネイチャ(ユーザー提供:芦毛さん)



馬の命を繋ぐため 集まった寄付でどう賄う?


 4月16日のナイスネイチャ33歳の誕生日から始まった、今年で5回目となる「ナイスネイチャ・バースデードネーション」。集まった寄付は、前回も記した通り産駒が重賞勝ちを収めている繁殖馬(種牡馬・繁殖牝馬)で、ジャパン・スタッドブック・インターナショナルの引退名馬展示事業の助成金を受けられない馬にまで対象を広げ、繁殖の役目を終えた馬たちの命を繋ぐために使用される。

 最初の目標金額の200万は、当面かかる諸経費を1頭100万円と見積もって、2頭分としていた。ところが一気に目標額を突破したために300万円に設定し直して、3頭分となった、だがその300万もあっという間にクリア。5月11日14時50分現在、目標額の10倍近くの29,746,439円、支援者が13,858人にまで増えた。計算上は1頭100万円なら約30頭の命が救われることになるが、馬という大きな動物の命を繋ぐのは、そう単純ではない。

 まず1頭につき100万はあくまで当面の費用(前回の記事参照のこと)であって、その馬が天寿を全うするまでの経費は含まれていない。では天寿を全うするまでどのように賄っていくのだろうか。

 引退馬協会では、今回の寄付で余生を送ることになった馬をフォスターホースにして、その馬たちのフォスターペアレント(里親 ※わかりやすく言うと、引退馬の一口馬主のようなシステム)を募集する予定だ。

 だが1頭に対してフォスターペアレント(以降FPに省略)がたくさん集まれば、その後も預け先への預託料を支払い続けるのは可能だが、里親が少ないと資金に不足が生じてくる懸念があるし、途中退会も可能なので、FPの数には変動がつきものだ。

 現段階で引退馬協会のフォスターホースは13頭で、1頭につき65口で満口となっている。(この他に被災馬フォスターホースもいて、こちらは4頭1くくりでFPを募っている)この中で満口になっているのはナイスネイチャ、メイショウドトウ、タイキシャトルだが、この3頭が満口になってもFPの申し込みを受け付けているのは、口数が多い馬が少ない馬を扶助する形を取っているためだ。

第二のストーリー

のんびりとしているナイスネイチャ(ユーザー提供:すみれさん)


 この現状を鑑みても、今回の寄付によって受け入れた馬たちのフォスターペアレントが思うように集まらず、懸念しているような資金不足に陥ることも十分考えられる。ましてや繁殖から引退する馬たちは、ある程度年齢を重ねている馬の可能性が高く、医療費や体のケアなどに経費がかさむことが予想される。

最後まで確実に見守るために


 私が関わっている北海道新冠町にある引退馬牧場・ノーザンレイクには、昨年10月20日から種牡馬を引退したプリサイスエンドが引退馬協会からの預託馬として過ごしていた。プリサイスは左後肢に慢性のフレグモーネを抱えており、ノーザンレイクにいたおよそ5か月の間、幾度となく獣医のお世話になった。放牧前にも脚元のチェックをし、放牧後は脚元の汚れを取って清潔にしてから軟膏を塗るなどのケアにも日々時間を要した。放牧地でさほど歩かないので、運動不足解消と血行を良くして脚元の腫れを軽減させる目的で、毎日ではないにせよ引き運動も行っていた。脚が腫れるたびに抗生剤を投与するので、その影響なのか下痢もしやすく、食事内容に気を遣い、整腸剤の経費もかさんだ。去勢により細くなった馬体を回復させて、今年春に鹿児島のホーストラストへの移動も視野に入っていたが、結局はフレグモーネを考慮し、ホーストラスト行きは見送られた。

第二のストーリー

脚のケア中のプリサイスエンド(提供:ノーザンレイク)


 昨年のバースデードネーションで集まった寄付でフォスターホースになったエイシンルーデンスも、プリサイス同様、今年春には鹿児島のホーストラストに移る予定だったが、こちらも左後肢に跛行があり、管理が難しい状態だったために、高齢馬の飼養管理において信頼できる渡辺牧場に預託が決まり、そのまま北海道で過ごすこととなった。

 今回のドネーションで幸いにも第三の馬生を過ごせる馬たちの中に、プリサイスエンドやエイシンルーデンスのような馬がいれば、当然預託料以外の費用ががかかってくることになる。2000万円集まったから20頭、3000万円集まったから30頭とはならない理由は、このあたりにもある。

 プリサイスエンドのような例もあるし、馬は生き物なだけに机上の計算では済まない出来事が起こりやすい。引退馬協会では、引き受けた馬を最後まで確実に見守るために、ドネーションで集まった金額の30%程度をプールし、馬を繋養している間に不足が生じたらそれを充てることとした。また支援した側にとって気になるのは、寄付がどのように使われたかであり、その透明性も求められるところだ。その点についても、支出内容は随時引退馬協会ホームページで公開する予定としており、今回のドネーション参加者も確認できるようになるという。

(つづく) ※このインタビューは電話取材で行いました。

【注意】ナイスネイチャが繋養されている渡辺牧場は、新型コロナウイルス感染拡大等により、当面の間見学を中止しています。

※馬の見学に際しては、競走馬のふるさと案内所のHPを必ずご確認ください。 



※バースデードネーションには、500円から寄付が可能で、クレジットカードでの決済となります。詳細は下記をご覧ください。

▽ 寄付したい方はこちらへ ナイスネイチャ・33歳のバースデードネーション
https://syncable.biz/campaign/1589/

▽ 認定NPO法人引退馬協会のナイスネイチャ・バースデードネーションのお知らせ
https://rha.or.jp/topics/20210416-002.html

▽ 認定NPO法人引退馬協会
https://rha.or.jp/index.html

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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